百枚の葉を摘んで。空羽さんの「椿もち」
2023年3月25日(土)、北鎌倉・浄智寺の「宝庵」から「たからの庭」まで山を縦断して行われた「椿茶会」。濃茶・薄茶・茶箱の席それぞれで、椿にちなんだお菓子を空羽さんが作ってくださいました。
私が席主を務めた茶箱席では、うっすらピンクの「椿もち」をお出ししました。あずき餡を上新粉のお餅で包み、宝庵の庭の椿の木から採った葉っぱではさんだもの。
もともとは宝庵の青カエデの木々の下で野点の予定でしたが、あいにくの朝から続く雨。
「アトリエ棟」に急ごしらえの床を設え、庭を見ながらの茶会となりました。
このアトリエ棟はもともと洋画家の旭谷左右のために、前の庵主さんが建てられたとのことで、東南西にガラス窓を巡らせた素晴らしい眺望。画家の審美眼にかなう一幅の絵のような景色が目の前に広がります。茶道口の関係で逆勝手となってしまいましたが、春の雨に濡れる緑をすぐそこに眺めることのできる、期せずして風雨を避けての格好の野点席となりました。
3席目にはこの「椿もち」を作られた空羽さんがお席に入られ、思いもかけずお菓子を作られた経緯を伺うことができ一同感動。
なんと道明寺粉で作られたお餅を挟んだ椿の葉は、ちょうどこの窓から見える大きな椿の木から採られたとのこと!
「宝庵の周りの庭には3種類くらいの椿があって、そのうちいちばん椿もちに使いやすい葉っぱがここから見える椿の木だったんです。大きくて上の方にしか葉がないので、水曜日の庭掃除の時に庭師さんに採っていただきました」
庭師さんとは、宝庵の庭の手入れをずっとやってくださってるマメシバ造園さんのこと。
その葉の一枚一枚に「水切り」というお餅にくっつかないための和菓子用のコーティングをほどこしたそうです。全部で50個以上の椿もちなので、その数100枚以上!
なんと手間のかかることでしょう。
椿もちの上には、黄色の花粉がクチナシで色付けられた真挽粉によって表現されています。
空羽さんは、この茶箱席の他に表千家の薄茶席のためのお干菓子、裏千家の濃茶のための練り切りも作られています。
「ちゃんと寝てますか?」
「寝てるんですけど、朝に最後の仕上げをしなければいけないのでドキドキして眠れませんでした」
お菓子はお茶の前にいただくので、お出ししてから召し上がるまでは、ものの何分とかかりません。しっかりその姿を目に焼き付け、心して味わなければと思いました。
四季の恵みをありがたくいただく和菓子。美しいだけではなく、たくさんの人の手を経た思いの結晶でもあります。
毎回お菓子を食べることができるからという理由で入った茶道部、そして入門見学に伺った師が手ずから摘んで砂糖煮としたツクシのお菓子に感激して続けてきた私の茶道。
これからも宝石のような四季のお菓子と共に一期一会のお茶を楽しんでいきたいと思います。
そして来年こそは野点を!
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