Kくん

Kくんと出会ったのは大学3年のダンスの授業だった。


授業と言っても私は当時所属していたダンスサークル経由で依頼があり、授業のアシスタントバイト。


Kくんは生徒だった。


Kくんの第一印象は『イケメンだけど、変なやつ』だった。


ダンスの授業の内容は妙な振り付け。


ジャンプの振り付けをいいことに、飛びながらぐいぐい近づいてくる。


授業が終わると決まって


「一緒に出かけましょうよ」


本気なんだか冗談なんだか。


タイプじゃないし、他に好きな人がいたから毎回断っていた。


好きな人は同じゼミの同級生。ラグビーをやっていて、いかにもモテそうだったし、叶わない恋だと諦めていた。


当時私は大学のダンスサークルで部長みたいなのをやっていていっぱいいっぱい。


とてもじゃないけど、彼氏なんてできたら空中分解してしまう。


それに、誰にも言えなかったけど、極度の男性恐怖症で、自分は男の子と付き合うのは無理。どこかでそう思っていた。


それでも、恋だけはできた。


好きな男の子がいる。それだけで毎日幸せだった。決して付き合えなくていい。近くで見つめられたら。


そんな風に恋心で自分を支えていた。


やはり同じゼミにMくんという男の子がいた。


Mくんには長年付き合った彼女がいて、最近うまく行ってないんだと言って、毎晩電話をかけてくるようになった。


怖かった。


そんなある日、片想いのYくんが彼女と歩いているのを見かけた。


告白なんて最初から考えていなかった。


でも、何もしないうちに玉砕。


Mくんの電話は毎晩続いていて、とにかくMくんから逃げたかった。


そんなとき、Kくんがいつものように授業終わりに


「飲みに行きましょうよ」


そう誘ってくれた。


Mくんから逃げたい。


そんな一心で、Kくんと飲みにいく約束をした。


初めて一緒に飲んだ居酒屋で、Kくんは今やっている演劇の話や演技論。それから好きな作家のことなど、本当にいろんな話をしてくれた。


「なんだ、本当に話がしたかったんだな」


私もダンスサークルで舞台を作っていたから、多分仲間として話がしたかったんだろう。


そんな会話の途中、Kくんが急に少し黙って、考えてから


「○○さん(旧姓)だったら、一緒にやれそうな気がする」


そう言った。


次の瞬間、私は激しく恋に落ちた。


この人だ。


そんな風に突然好きになった。


それからも何度か一緒に出かけた。


お互い、映画や舞台が好きだったので、それぞれのお気に入りの映画のサントラを貸しあったり、オススメの小説についての見解などを話し合ったりした。


特に付き合っているとかではなくて、ただ出かけていろんな話をするだけだった。


私は男性恐怖症だったし、これ以上踏み込んで自分が空中分解してしまうのが本当に怖かった。


本当に話がしたいだけなのかもな。


Kくんと話していると楽しかった。教えてもらったことがたくさんある。


「感受性が強いやつは、同じ転び方をしても、普通の感受性のやつより何百倍も痛いと感じるんだよ」


「脚本に出てくる登場人物は全部俺」


どんな作品を作って何を伝えたいの?


そんな問いかけに


「俺はそれを全部作品に書く」


そう答えた。作品を観てみたいと思った。


そして


「自分の負を見つめることができるやつは少ない。負を見つめて、さらに作品に昇華できるやつはもっともっと少ない」


とも。


当時の私は文章なんて書いたこともなく、一番ド下手なのにダンスサークルの部長になったから、負い目もあって雑務ばかり引き受けて、走り回っていた。


だから、Kくんが話してくれることがまるで別世界のことのようで楽しくてたまらなかった。


Kくんの作品は翌年観ることになった。


その作品は、多分私の人生を救ったと思う。


変革体験後の激しい揺り戻し後、私はKくんとも音信を絶って、舞台に関わる仲間の前からも消えて、全てを失ったと思っていた。


でも、実はその後その時の舞台が再び再演されて観に行ったとき、Kくんとも再会した。


節目のとき、不思議とあの作品が現れる。


ダンスの仲間とも15年以上経って再び会うことができた。


Kくん、あの時は本当にありがとう。


あの時Kくんが話してくれたことが、今回手記を進めるとき、道標になったんだよ。


真に自分の負と向き合って書いたものは、近い魂を持つ誰かを救う。


火曜日に本当に久しぶりにキャンパスを歩いていたとき、やっとつながったんだよ。


そういう風に思わせてくれたのは、Kくんの作品のおかげだね。


あの時、あの作品にあってなかったら、私の人生、もっともっと早く終わっていたかもしれないな。


この前、久しぶりにキャンパスに行ったら思い出がたくさん浮かんできたよ。


暗黒だとばかり思っていた大学時代。


ちゃんと友人もいて、恋もして、泣いたり笑ったり、幸せを感じたこともたくさんあった。


時々、人生が不思議な物語のように思えることがあるんだ。


目の前で不思議なストーリーが繰り広げられていく。


「ちょっとぉ!私のこと、ちゃんと寝かせてよ」


6歳の娘が現実に呼び戻してくれる。


Kくん、ありがとう。


私はあなたのことが本当に本当に大好きでした。


福島太郎さんの記事とstella0407さんの空を見ていたら、衝動的に書きたくなったので、ひっそり?上げます。





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