見出し画像

6.躓くということ

名画座支配人の大澤です。

最近、サン・オブ・ゴッドという映画を観ました。「神の息子」という意味ですが、イエス・キリストの生涯を描いた作品です。日本でもその人を深く知らずともクリスマスイブをみんなで祝うことが定着していますのでイエス・キリストのことをほとんどの人が知っていると思います。神の子として生まれ、人々に神の教えを伝え、最後は十字架にかけられて亡くなります。そしてその3日後に復活を遂げます。


映画ではイエス・キリストが生まれてから十字架にかけられ復活するまでが描かれています。特に十字架にかけられるシーンはあまりにも痛ましく、目を背けたくなりますが、そんな痛ましいシーンの中で私は今まで感じたことのない衝撃を受けました。それは十字架にかけられて苦しんでいるキリストの衣服を兵隊達が剥ぎ取り、戦利品のように弄ぶところでキリストが苦しげに声を上げて言った言葉です。

「神よ、お赦し下さい。彼等は自分のしていることが分からないのです」

もう息も絶えだえ、両手・両足に太い楔を打ち込まれ、想像を絶する状況での言葉です。神の子だからこそ言えたのでしょうか?自分を殺そうとしている兵士たちのことを父親である神に対して赦しを乞うのです。頭を殴られるような衝撃でした。そんなキリストも最後は「父よ、何故私を見捨てるのですか?」と嘆きます。神の子とて、最後は人間として嘆きのうちに死に至るのです。人によってこれらの言葉に対する考え方が違うかもしれませんが、私はキリストの言葉は神の子としてというよりも究極の人間としての言葉のように感じました。究極の赦しであり、嘆きだったのではないでしょうか。

十字架上で息を引き取ったキリストは3日後に甦ります。甦ったキリストは弟子たちの前に現れ、そして彼等に話をします。キリストの弟子の中で一般的によく知られているのはユダでしょう。キリストを裏切った弟子です。ユダはキリストが処刑された後に良心の呵責から自殺してしまいますので、キリストの復活の場にはいませんが、復活したキリストの話を聴く弟子の中にもう一人裏切り者がいます。キリストが捕まった時、ローマ軍やユダヤ人の群衆から問い詰められ、キリストなどは知らないと言った一番弟子のペトロです。

「あなたは夜明けの鶏が泣く前に私のことを三度知らないと言うだろう」

最後の晩餐でキリストにそう言われたペトロはその予言を強硬に否定しました。しかしながら実際は予言通り三度キリストを知らないと言います。そして鶏が鳴いた時に我に帰るのです。その後、ペトロは逃げ回るように隠れていたのでキリストが十字架にかけられた時にその場にはいませんでした。

キリストが復活した時に彼は真っ先にキリストの墓に向かい、キリストと再会します。その時のペトロの気持ちがどんなものだったのか?私にはその時の彼の気持ちを想像することが出来ません。このペトロと言う人はキリストの一番弟子であったにもかかわらず人間的には弱い人で優柔不断な性格だったと言われています。だから土壇場でキリストを裏切ることをしてしまったのかもしれません。

映画はここで終わりますが、その後も話は続きます。弟子の前に現れたキリストはその後天に上り、弟子たちはキリストの教えを広く民衆に伝えるために各地へ伝導の旅に出ます。ペトロの行先はローマ。当時まだ異端の宗教であったキリスト教を広めるためにローマに行くのですが、激しい迫害に遭い身の危険を感じたペトロはローマを脱出します。そんな彼の逃避行中に昇天したキリストが姿を現します。

「Quo Vadis」(クゥオバディス)
「何処に行かれるのですか?」

手帳のブランドで知名度のあるこの言葉はペトロの言葉です。

ペトロはローマから逃げ出している途中で目の前に現れた自分の師に対して「何処に行くのですか?」と訊くのです。するとキリストはこう答えます。

「あなたがローマから逃げ出すのであれば、私はまた十字架にかけられるためにローマに行く」

ペトロはこの言葉で我に帰ります。3度キリストを知らないと言って師を裏切った自分を恥じ、固い決意で命懸けの伝導の旅に出たものの、そこから逃げ出そうとしている自分に気が付くのです。そしてペトロはローマに戻り、そこで殉教することになります。

人は生きている間に何度も躓きます。躓いては立ち上がり、歩き出す。田所さん(参照:「名画座大澤支配人の自分探しドリル」)が何度も逆境の中で躓いてしまったのと一緒です。躓いたまま自分を見失い、ユダのように自分の命を棄ててしまうのではなく、ペトロのように弱い自分を認めて何度も立ち上がるだけの力を我々は持っているのです。躓いたことが財産になる、そう信じて立ち上がることが「自分を獲得」することに繋がるのではないか?そんなことをこの映画を観て思いました。人は躓くことで強くなり、そして自分自身を受け入れるやさしくを獲得できるのです。

よろしければ温かいご支援なにとぞよろしくお願いします。「自由」「創造」「変化」をキーワードに幅広く活動を行っています。