花を飾る
花瓶に花を生け、部屋に飾ること。
特別なことではないけれど、高尚で豊かな生活の象徴だと思っていた。
何かに使うわけでもなく食べられもしない花をわざわざ買ってきて、専用の花器に生けるわけだから。
ある時、それまで花を飾る習慣がなかった私は、今まで気に留めたこともなかった近所の花屋で花を買った。
きっかけは何だったのか忘れてしまったけれど、暖かくなりはじめた頃で機嫌が良かったのかもしれない。
丸い花弁が幾重にもふんわりと重なった、ラナンキュラスという大ぶりの白い花を選んだ。
花瓶など用意がなかったので、飲み終わったジュースの瓶に挿した。
窓際に置いてみると、昭和な柄のすりガラスを背景に、アンニュイな雰囲気が漂った。
日に焼けたカーテンや、傍に雑に積み上げた本たちでさえ、花を引き立てる脇役に徹しているようだった。
顔を近づけてみるとほのかに良い香りがして、生気のなかった部屋に息遣いが生まれたような気がした。
花を愛でることは、それほど難しいことではなかった。
小さく安いものであったとしても、瑞々しく鮮やかな花がそこにあるだけで、なんとなく豊かな生活を送っているような気になってくるものだった。
そういうことに気がついて以来、店先に気に入った花があれば1束だけ買って帰り、ささやかに生けている。
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