ボーリング

ボーリング大会のお知らせが来ている、出欠の欄に☓を書く。交代の仕事をしている私の係の者は皆☓だ。上司が日程的に行ける人もいるんじゃないか、500円で弁当が出て景品も当たるぞと出席を促す。だが出欠表の☓は増えていくばかりだ。このボーリング大会は普段面識のない人との交流をするため席があらかじめ決まっている、私はコミュニケーションは大切だと思うが、知らない人とはボーリングなどしたくない。若い頃に何度か出席したことがある、コミュニケーション能力が高い人がいる席は盛り上がるがその他の席では会話も少なかった。
入社2年目に会社のイベントを手伝う役が回って来たことを思い出す、私のような陰キャは景品の買い出しで、席を決めるのは陽キャの仕事だった。思えば席は陽キャで固めてその他大勢は部署も事業所もバラバラだった。
今までの人生で役が回ってきても役得というものを味わったことがない、だがあの時は役の仕事を頑張ったものだ。
どんな景品なら喜ばれるだろうと考える。
景品にはテレビやレンジなど並ぶが、そんなものは今の時代当たり前にみんな持っている。そんな景品のリストを見て昭和の景品かよと馬鹿にしていた。そんな私が買ってきた景品のなかで自身があったのが麻雀牌とドラムリールだ、とくに麻雀牌は欲しくてもこれに金を使うのは気が引けるものだと思う。
しかし、景品を集めた際に、買い出しにも行ってない奴から全員が欲しいものにしろ、自分がほしいものを買ってきやがって、だれも持っていかないから残っていたらお前が持っていけよなどと言われてしまい悲しい思いをしたが同時に怒りの感情もあった。並ぶ景品には安物の電子レンジやトースターがあった、そんな物は誰の家にでもある、レンジが2台家にあってもしょうがないだろ、2台同時に使ったらブレーカーが落ちるわと心の中で悪態をついたが実際には何も言えず、すいませんとヘラヘラしている自分が情けなかった。
ボーリング大会当日、私の席は他の事業部のオバちゃん2人、何も喋らない役員のおっさん、ヤンキーだった。スコアは皆100行くか行かないかという盛り上がりの欠片もない結果だった、ちなみに私のスコアは86で全体でも下から3番目という散々な結果だった。
盛り上がる一部の席を横目に見ながら、羨ましくなんかないと念じながら玉を転がしたものだ。
このボーリング大会では最下位とブービー賞が早い段階で景品を選ぶことができる。ブービー賞は分かるが最下位がいい景品を持っていくのが納得出来ない。これでは私が実質最下位ではないか、盛り上がることもなくブービーにも最下位にもなれない自分。何ものにもなれなかった私自身に嫌気がさす。
一位が持っていったのはWiiだった記憶がある、もっと高い日用品があったと思うが人のほしいものなど案外中途半端な日用品ではなく娯楽で使用するものかもしれない。そう考えるとゲーム機はとてもいい景品だ、今ならプレステ5やスイッチなんかが景品として並ぶだろう。
驚いたのは麻雀牌だ、なんと3番目に持っていったのだ。5000円程度の麻雀牌がテレビやレンジを差し置いて持っていかれる姿に溜飲が下がる思いをした、麻雀牌に文句をつけた奴にほれ見たことかと言ってやりたいがそんなことはできない。
実質最下位の私に残された景品はクロスレンチ、よくわからない腕輪、箱だ。この箱は一体何なのだ、中身が入っているわけでもなく紙でできているただの箱を一体なぜ景品にしようと思ったのか理解できない。麻雀牌に文句をつけるならこの箱に文句をつけろよ、腕輪の方も緑色のプラスチックでできた、かっこいいでもカワイイでもない代物だ、いや、腕輪かどうかも怪しい、そこらに落ちていたらただのプラゴミだ。どうしてこんなものを景品にを選んだのだ、もしかして笑ってもらえるとでも思っているのだろうか。
まぁ、何ものにもなれなかった私にはお似合いの景品かもしれない、まだ3つのうちから選べるだけましだ。
私はクロスレンチを手に駐車場を歩く、傍から見れば怪しく見えるだろう。クロスレンチを隠すように持ち車に向かう私。今となってはますます怪しかっただろうと反省する。
家にある2本のクロスレンチ、景品のクロスレンチは今でもタイヤ交換で使用している。
タイヤ交換をするたびにあのボーリング大会を思い出し、3番目に持っていかれた麻雀牌の記憶が私にささやかな自身を与えてくれる。
もうすぐ春になる、タイヤ交換の季節だ。きっと今回もあのクラスレンチを使うだろう。
そのときにはこの話を妻にしてみようと思う、笑ってくれるようにちょっと大袈裟に面白く。その時が楽しみだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?