「特許」

おはようございます。
公響サービス、代表のシンジです。

 技術者として、特許を取得することは実に名誉なことです。ですが、特許について知らない技術者が多くいます。特許というと、すごいアイデアで、真似されずに左うちわでお金が入ってくるイメージがありますが、事実は異なります。かつて私も特許にはそういうイメージを持っている人でした。少々長くなりますが、今回は特許に関するうんちくです。

①特許とは、新規性のある発明に対し、発明者に20年間の独占禁止法の除外というインセンティブを与える代わり、ノウハウを含めすべてを特許公報にて公開する義務があります。つまり、20年後には人類の宝になるという目的です。技術とは人に奉仕するためのものであり、特定の企業や個人が独占し続けるのは、民主主義的に良くない。という考えです。
②実用新案は、いままでにあった技術やアイデアを改良して、より良いものにした場合に認められるものです。独占禁止法の除外期間は10年に下がります。新規性がないようなアイデアは、比較的特許庁の審査が甘い、実用新案を利用することを、個人的にはお勧めします。
③意匠は、その商品の形を知財にした物になります。たしか、期限はなかったように思います。例えば、不二家のペコちゃん人形。これは意匠登録がされているため、誰も真似することが出来ません。このように、ブランドイメージで商売をしている場合には、非常に有効です。B to Bビジネスの方は、あまり利用価値がないように思っております。
④商標は、商品や会社名などになります。例えば、ユニクロを展開しているファーストリテイリング社は、商標としてユニクロを登録しているので、他社は同じ名前をつかうことが出来ません。

 史実。特許審査は出願した日付から20年が有効期限です。特許庁の審査は1~3年かかるので、見込み発射で「特許出願中」として商品を販売する会社がほとんどです。30年ほど前、某自動車メーカーが某製造会社Rと共同で開発した案件がありました。自動車メーカーは「考えたのは自分達だから」と自社のみの名前で特許を出願。それを聞いた製造会社Rは、「俺たちが作ったんだぞ!」と怒って、その会社も全く同じ特許を出願しました。仮にその技術を「特許R」とします。特許庁の審査に、「早期審査請求」という方法があります。金を払って審査順位を繰り上げる合法的な方法です。後から出した製造会社Rは金をかけて早期審査請求をしたことで、審査順位が繰り上がり、何と製造会社の特許Rが、自動車メーカーの特許取得の次の月に認められてしまったのです!そんなバカな!この世に全く同じ特許は存在してはなりません!
 ここでその自動車メーカーは、自動車を売るのと、小さな特許で社外の者と争うのを天秤にかけ、身を引くことを決めました。そうなると、製造会社Rは大暴れをしだします。日本中のみならず、世界中の自動車メーカーにかみついて、「それは俺の特許Rだ!」「俺の特許Rだ!」「金を出せ!」そのように脅して回るようになりました。このメーカーが嫌われたのは当然で、この業界ではとても有名な話です。海外からすれば、その特許R=日本の技術というイメージにまでされてしまいました。
 ここで、15年の時を経て、正義のヒーローが現れます。いままでの特許技術とは全く違う方法で、その利点を活かし、弱点をカバーした技術を、前職の社長が特許取得しました。これを借りに「特許S」とします。製造会社Rは当然面白くない。会社に脅しの電話をかけてくる。社長宅には脅迫電話もかかってきました。会社のメールにウイルスを送りつけてくるなどの嫌がらせも。更に、当然のことながら訴訟になりました。原告は当然製造会社Rです。私は全公判を大阪地裁まで足を運び担当者として出席しました。判決「原告の訴えを棄却(キキャク)する」要するに「あなたの訴えは認めないよ」ってことです。我が社の勝利が決まった瞬間です。やったー!更に「特許の無効審判と言って、同じ特許が二つあるのはおかしいよね?無効でしょ?という審査をして、それも認められ、製造会社Rは特許を失いました。業界のためになる良いことをした!
 しかし話はこれでは終わらない。何のことはない。調子に乗った我が社長は、「オラオラ!俺の特許Sだ!」「金出せ!金出せ!」あんたね、それRと会社が変わっただけで、やってること一緒なんですけど。というわけで、我が社は嫌われ者に。全然正義のヒーローじゃなかった!まあそんなこんなで、私は会社を辞めて独立したってことです。

 特許は取得するのが目的化してしまう人が多いですが、その技術を押さえて、何をするのかが明確になっていないと、有効に利用できません。国内特許を取ってから3年以内に海外へも展開しなければならないので、世界中に特許を出願すると、現地の言語に変換してもらう費用など、数百万円の費用が発生します。国を絞り込むと、「この国では特許が出ていないから、勝手に作れるね」と真似されることになります。知財戦略は、20年間の特許期間をすべて網羅して、作戦を練らなければなりません。
 登録されている特許の実に9割が、事業化できていないそうです。そこから、戦略などなく下手な鉄砲を打ちまくっている事実が見えてきます。家内は学生時代に特許庁でアルバイトをしていたが、特許申請が多過ぎて、アルバイト(素人です!)に分類させている始末。申請しただけじゃ、審査官の机の中で眠るだけで、取得は出来ません。金を払って審査依頼しなければなりません。
 特許を有効利用するなら、必ずお客様が必要となるもの。それを使用、もしくは購入しなければお客様が困るもの。そして、それをお客様社内で勝手に作ったら分かるもの。そういうものを特許として、他社の参入をさせないのは良い戦略です。
 しかし、客先内で勝手に作れて工場の中を監視できないものを特許にしてしまうと、実際に勝手に作られてしまいます。特許公報のノウハウだけで真似ができるものなら、特許は取得しない方が得策なのです。
 特許という特別な「資格」を得る方が、自己重要感が増すため、戦略などなく特許取得をしてしまう場合も多い。「資格」は有効に利用できないのであれば、コレクションしたところで、何の価値もないのです。
 私は前職で特許を1点取得したが、個人的には何の実入りもなかった。当然、何の戦略もなかったからです。あまり知られていませんが、特許は維持費として特許庁に年金を収める義務があります。年金は20年を右肩上がりで納めるのだから、正直特許庁を儲けさせているだけになるのが実態なのです。

 人間が考えた技術は、どこまで行っても「人類の宝」という考えが根底にあることを忘れてはなりません。だったら、論文で公開して、誰にでも使ってもらう!という考えの方が正しいと思います。それなのに、私利私欲のためだけに知財を活用しようとするので、たいてい失敗するのです。
 知財というと聞こえも良いし、簡単な差別化が出来ると思い込まれがちですが、知財によって決定的な差別化を図り、大変儲けているビジネスモデルは極めて少ないです。
 訴訟になると巨大な金額がニュースになることから、それだけ儲かると思い込む人が多くいるのだと思っています。実態は、弁護士弁理士が儲かるだけです。知財訴訟ほど面白くない裁判はありません。やり取りはすべて書面で、開廷して1分で終了です。たった1分のために被告側は遠路出向かなければならない理不尽さが、和解への妨げになっている部分も否めません。簡易裁判、家庭裁判、民事裁判と経験してきて思います。刑事裁判は、裁判員に選んでくれれば、関われるのですが。残念ながらお声がかからない。
 特許取得を目指すなら、闇雲に特許を取得するよりも、その特許をどのように利用するのかを、よく吟味しなければなりません。もしも、手に余る技術であれば、他社へ権利売却する方が、人類のために役立ててくれる場合もあります。様々な方向性を考えて、戦略立案していただければと思います。ちょいと経験をした、エセ情報になります。長々とお付き合いくださり、ありがとうございました。

 いつも読んでいただき、ありがとうございます。本日も皆さんにとって良い一日でありますよう、祈っております。

シンジ

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