東京ドームに帰ってきた桜井俊貴
はじめに
皆様こんにちは。
2024年のプロ野球後半戦がスタートしましたね。
私の贔屓である読売巨人軍は大混セの中で首位ターンに成功。
まだまだ安心はできませんが、このままこの位置を譲らずリーグ優勝、そして日本一へ邁進して欲しいものです。
さて、現在東京ドームでは、社会人野球の頂点を決めるトーナメントの1つ、第95回都市対抗野球が開催されています。
都市の覇権を賭けて戦う試合や企業同士の本気の応援、そして補強選手制度を如何に駆使していくか。
プロ野球の試合とは違った、「おとなの甲子園」とも表現できるような楽しさがあるので、興味が湧いた方は是非遊びに行ってみてください。
そんな中、かつて気迫ある投球で巨人ファンを沸かせ、リーグ優勝にも貢献した男が、社会人野球のオールドルーキーとして東京ドームのマウンドへ帰ってきました。
大阪府八尾市代表・ミキハウス硬式野球部に所属する桜井俊貴投手です。
桜井俊貴という男
さて、この記事を読んでくださっている方には、桜井投手の経歴を知らない方も多々いるでしょう。
まずはここで、巨人軍入団〜ここまでのキャリアを簡単に紹介したいと思います。
巨人軍入団〜1度目の引退まで
桜井投手は立命館大学から2015年のドラフト1位で巨人軍に入団しました。
当時は巨人軍が野球賭博問題に揺れる中で、「来てくれるだけでもありがたい」「賭博のせいで有望株が獲得できなくなった」と、ファンの中でも意見がバラバラだったと記憶しています。
入団後はうだつの上がらない時期が続いていましたが、2019年に当時投手コーチだった宮本和知氏(現・巨人軍女子チーム監督)のテコ入れもあり先発転向すると、これが大当たり。
交流戦で「山賊打線」と呼ばれた埼玉西武ライオンズの野手陣を翻弄するなどの活躍で8勝を挙げ、チームの5年ぶりのリーグ優勝に貢献しました。
ここまでであれば、誰もがその後の巨人軍での飛躍を信じたことでしょう。
ところが彼には、肝心な時にど真ん中に甘い球を投げてしまうという致命的な弱点がありました。
特に2022年5月の広島戦におけるケビン・クロン選手との対戦は、「全球失投する桜井vs一球も仕留められないクロン」という迷勝負として、一部のプロ野球ファンには記憶に残っていることでしょう。
この悪癖に対して、原辰徳監督(当時)は
と言った、非常に辛辣なコメントを残しています。
プロとしてのキャリア晩年はこうした気迫あるど真ん中失投をネットのおもちゃにされる機会が多く、本人としては不本意なものがあったと思います。
こうして2022年オフの戦力外通告を以て、彼の野球人生は一旦幕を閉じました。
スカウト転身〜現役復帰へ
戦力外通告を受けた後、「ショックで2日間寝込んだ」という桜井投手。
その後は巨人軍のスカウトに転身し、主に関西地区の有望株の調査を担当。
現在門脇誠選手と共にショートの守備を支える泉口友汰選手(2023年ドラフト4位、NTT西日本)のの発掘に貢献しました。
そんな中、業務の一環として観戦した都市対抗野球で、まだやれる!という気持ちが再燃。
ドラフト後にミキハウス硬式野球部での現役復帰を発表し、多くの巨人ファンを驚かせました。
今回の都市対抗野球本戦に出場したチームの中には、
等、NPB経験者が在籍するチームが複数存在します。
巨人軍在籍者であれば、桜井投手の他、和田恋選手(巨人→楽天→東京都・明治安田)や山下航汰選手(巨人→神戸市 高砂市・三菱重工West)が、かつての本拠地へ凱旋を果たしています。
しかし、彼らは戦力外通告後、比較的早く社会人チームへの移籍を果たしており、桜井投手のようにブランクが空いての復帰は極めて異例です。
それでも桜井投手は引退前の投球感覚を取り戻し、ミキハウスの先発の柱として近畿地区の予選突破に貢献。
見事、東京ドーム凱旋の切符を勝ち取りました。
こうして桜井投手は社業の傍、1人の野球選手として自らの夢を追い続けています。
先述のとおり、プロ時代の良い思い出は決して多い訳ではありません。
それでも、過去にはリーグ優勝に貢献し、巨人軍を支えるルーキーを置き土産として残し、そして選手として完全燃焼するために再びマウンドへ立つことを決意した彼の姿に、同い年の私は非常に心を打たれました。
このような経緯から、私は現役復帰を発表したタイミングで、「もし桜井投手が東京ドームに戻る日が来たら、その時は都市対抗野球のチケットを買おう!」と心に決めました。
そしてその日は、1年と経たず訪れたのです。
桜井俊貴を見た日
2022年5月15日:東京ドーム
私が現地観戦で巨人時代の桜井投手を最後に見たのは、2022年5月の中日戦でした。
この時は先発・高橋優貴投手が大量失点で早期降板したことによる継投での登板でした。
しかし、D.ビシエド選手とA.マルティネス選手(現日本ハム)に2者連続HRを被弾。
特にマルティネス選手には案の定気迫あるど真ん中失投でHRを献上してしまうなど、非常に苦しい投球内容でした。
試合全体としてはこの後増田陸選手のプロ初HRが飛び出すなど、決してストレスの溜まるものでは無かったのですが、身内同士で桜井投手に来季の契約があるのか怪しんだものです。
この時の映像は日本テレビ野球中継『DRAMATIC BASEBALL』公式チャンネルにもアップロードされているので、気になった方は見てみてください。
2024年7月21日:東京ドーム
あれから約2年。
先述したとおり、スカウトとして泉口選手を発掘し、自らの夢を追う形で赤の縦縞のユニフォームに身を包んだ桜井投手。
彼の「凱旋登板」を一番良い席で見届けようと、私はバックネット裏ほぼ最前の席を確保しました。
巨人戦では高額の席でも、都市対抗では外野指定席並みのリーズナブルな価格で座ることができる。
しかもファンクラブ特典で割引が効く。
これもまた魅力の1つです。
桜井投手にとって約2年ぶり、2022年8月2日の阪神戦以来となる東京ドームのマウンド。
かつての本拠地への凱旋登板であり、都市対抗野球本戦のデビュー戦でもある。
桜井投手本人も、様々な気持ちを抱いていたと思います。
投球フォームや球に力を込める気迫ある姿はそのままに、東京ガス打線に果敢に挑んで行きました。
対戦相手である東京都代表・東京ガスの先発は臼井浩(いさむ)投手。
3年前の第92回都市対抗野球では東京ガスを優勝に導き、MVPに当たる橋戸賞を受賞した、社会人野球界屈指の名投手の1人です。
初戦から巨人軍のリーグ優勝に貢献した男と、東京ガスに優勝をもたらした男がぶつかり合う。
あまりにも熱い、三十路同士の投げ合いが始まりました。
2回表・桜井投手は東京ガス・冨岡泰宏選手に先制ソロHRを被弾。
打球がスタンドへ飛んだ瞬間に「まさか...」と思いスポナビで配球チャートを見てみたところ...案の定何度も見た気迫あるど真ん中失投でした。
ペナントレースであるプロ野球であれば、1つの試合を落としても次回登板で挽回できる。
一方で社会人野球は一発勝負、負けたら終わりのトーナメント。
相手が好投手である以上、1失点が致命的な結果にもなりかねない。
巨人戦で呆れるほど見た失投がここでも出てしまったことに、私は頭を抱えてしまいました。
しかし、ミキハウス打線も負けてはいられません。
すぐさま井上大輔選手のソロHRで1点を返すと、4回裏には臼井投手相手に1死満塁の大チャンスを作り上げます。
しかし、ここで2塁ランナー・松尾龍乃選手が痛恨の走塁ミス。
本来ならば犠牲フライの場面が併殺で3アウトとなってしまい、流れを東京ガスに渡してしまいます。
勢いを付けた臼井投手は、ミキハウス打線相手に更なる好投を魅せます。
6回には1死2塁の場面で、あまりにも完璧すぎる2者連続三振でピンチを脱出。
完璧なコントロールに、賞賛の声が沢山挙がりました。
そして8回表。
桜井投手は2アウトから小野田俊介選手に二塁打を打たれ、ピンチを抱えます。
球数が嵩んできた中で、ここが最後の試練。
ミキハウスはここを切り抜けたタイミングで継投に移るに違いない。
そう直感した場面でした。
かつて原監督にも「2アウトを取る野球なら優秀」と皮肉を込めて言われた場面。
ここを乗り切りさえすれば、好機が巡ってくるに違いない。
そう祈って3番・仲俣慎之輔選手と対峙した結果は。
ーーー無情にも左中間を抜けるタイムリーヒットに。
その後の継投失敗も重なり、桜井投手の都市対抗野球の初陣は、8回2/3、127球5失点と少し苦い結果となってしまいました。
それでも1年のブランクを感じさせず、再びルーキーとしてここまで戦い抜いた男の姿に、ライトスタンドからは万雷の拍手が送られました。
一方の臼井投手は9回まで続投。
このまま完投勝利は目前か、という場面で、彼にも最後の試練が訪れます。
2死1塁から2者連続で四球を出してしまい2死満塁に。
勝利まであとアウト1つながら、走者一掃で同点、HRになれば逆転サヨナラ負けという、あまりにもプレッシャーのかかる場面となりました。
ミキハウスとすれば、ここで追いつけば桜井投手の負けが消え、次戦へと進むチャンスともなり得る。
最後の1死が大一番となる展開に、東京ドーム全体が緊張に包まれます。
都市対抗野球の延長戦ではプロ野球と異なり、無死2塁からスタートするタイブレークが採用されています。
前日の東京都・JR東日本vs大垣市・西濃運輸戦では先攻のJR東日本が3点を取りながらも、西濃運輸が4点を奪い返しサヨナラ勝ちする展開となり、このルールの恐ろしさを存分に伝えることとなりました。
同じ先攻の東京ガスとしては、ここで確実に勝ち切るのが理想的な展開です。
これに対しミキハウスは、代打・大西友也選手で勝負に出ます。
臼井投手は最後の力を振り絞り、渾身の一球を投げました。
どちらにとっても緊迫の場面、その結果はーーー!
失投を捉えたかのような打球はセンターフライに。
5-2、臼井投手の力投で、東京ガスが次戦へと駒を進めました。
おわりに
こうして桜井投手の凱旋登板はひとまず幕を下ろしました。
しかし、彼は自らが完全燃焼するまで戦うために、現役復帰の道を選んだ男です。
マウンドに立つ機会がここで終わる訳がありません。
本人は試合後、早速来年の本戦出場と勝利に向けて、目を前に向けています。
きっとまた、都市対抗野球や日本選手権出場のために、腕を振るうことでしょう。
巨人軍の桜井俊貴から、ミキハウスの「としちゃん」こと桜井俊貴へ。
彼の社会人野球選手としてのキャリアは、まだ始まったばかりです。
これからも夢を追い続ける男の姿を、巨人ファンとしてだけでなく、同い年の社会人としてこれからも追っていきたいと思う、そんな試合でした。
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