酸いも甘いも嚙み分ける
神戸で友人と展覧会を観に行った帰り、駅前の喫茶店に入った。遠目で見るとスナックかお好み焼き屋のようで、神戸で見るまさかの下町風情に嬉しくなった。内装も純喫茶にはほど遠いものの、陽の光が室内いっぱいに入ってくる下町の喫茶店のようだった。
友人は暑い日だというのにホットコーヒーをたのみ、私はレモンスカッシュをたのんだが、なぜか店で一番高い飲み物だった。
マスターは80歳くらいのおばあちゃんで、腕を小刻みに震わせながら注文の品を持ってきた。目を疑った。真っ白のコーヒーカップにべったりとマゼンタ色の口紅がついている。
友人は話をしながら、こちらに向いている口紅側を自分の方に回した。そして顔色ひとつ変えず親指で口紅をぬぐい何事もなかったかのようにカップを傾ける。目を疑った。
同時に、彼女のモテる理由がよくわかった。もちろん美人ではあるけれど、それに加えて大らかな愛情、言葉にしない優しさを持っているからだ。きっと「おばあちゃんだから」という理由で何も言わなかったのではない。もし20代のマスターから口紅つきのコーヒーを差し出されても、彼女なら何も言わなかっただろう。
私は彼女に見習い、すでに甘いレモンスカッシュにプラスチック容器のシロップがついていたことにツッコむのをやめた。
絵画も神戸も友人もますます好きになった日だった。
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こんばんは、お久しぶりの個人noteでございます。noteのほうも見てくれはる方が増えてきたので更新していきますね。
昔の雑記メモを見返していたら、お蔵入りにするには惜しいネタがけっこうあることに気づきました。ただの暗黒ノートやと思っていたら案外ふざけていたので、人間どこまでも暗くはなれんのやなあとなぜかしみじみしてしまいました。
「飲み物的な読み物」をコンセプトにまとめていきますので、隙間時間にでも気軽に楽しんでいただけたら幸いです。
なお冒頭の写真は本文の喫茶店とは一切関係ありませんのでよろしくお願いします。ちなみに写真はレモネードです。わからんな。
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