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4.九条・松島新地

大阪の九条で知り合いのアパートに泊まり、昼過ぎに汗だくで目覚めた。

秋だというのにちっとも涼しくならず、都市ガスのニオイが混じった熱風は容赦ない。寒がりの知り合いはクーラーをつけない。一刻も早く冷風を浴びたかったので帰ろうとすると、知り合いは「一緒に出るわ」と軽やかに身をひるがえした。爽やかさが憎らしい。


ぼんやりとした頭で松島新地を歩く。知り合いが楽しそうに新地にまつわる話をする。知り合いは毎日ここを通って通勤していても、特に飽きはしていないように思われた。

「松島料理組合」の看板は中央線に乗っていてもチラチラと見えるので、特に目新しさや衝撃はなかった。コリアンタウンで有名な鶴橋のように、駅前でもお構いなしのディープさが大阪のおもろいところだ。

実際に女の子が店頭に待機していたが、できるだけ目を合わせないようにして通過した。それでも見慣れた光景ではないので、視界の端に入ってくる情報をできるだけ記憶に焼き付ける。

やがて新地エリアが終わると思われる場所に、郵便局が平然と建っていた。その光景が一番強烈で印象に残ってしまった。何もかもがいっしょくたになって並んでいる、大阪のそういうところもおもろい。


駅前の商店街に着いたところで、知り合いとはお別れ。相変わらず暑さで頭がぼんやりしていたが、精一杯の明るさをふりしぼって挨拶をした。

知り合いはことごとく私の知らない大阪に生きる、爽やかな人だった。九条のアパートに行くためだけに大阪に行こうかと迷うことがある。暑くない時季に。


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