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♯13_質的成長のためのアジア展開

アジア展開の「潮目」の変化

私は、クライアントの支援を行う際、クライアントにアジア展開の目的を必ず尋ねるようにしている。10年前の答えは、「日本市場の縮小を補い、更なる成長を進めるため」というのがほとんどだった。しかし、最近では、「日本国内ではできないビジネスモデルを実現するため」「先進的な技術を活用するため」といった回答が増え始めている。

イオンの中国における取り組みは、その代表例と言えるだろう。2018年、イオンは中国のAIスタートアップ企業ディープブルーテクノロジーと合弁会社を設立した。「ニューリテール」といわれる中国の先進的なリテールテクノロジーを導入するためである。その後、2019年には、中国にデジタルマネジメントセンターを設立、中国国内店舗からデジタル化を進行。そして2020年には、中国で開発した技術をグループ全体に広げる役割を担う新会社、イオンスタートテクノロジーを日本に設立している。

イオンにとって中国がどのような存在に見えているのかを示す興味深いコメントがある。

「もうひとつの理由を、あるイオン関係者は「何もないからできた」と明かす。DMCを設立したころ、岡田元也会長(当時は社長)は「日本では必要以上に保守的でネガティブな発想でらちが明かない」と憤っていた。なまじ巨大な実店舗網があるゆえにデジタル化が進まない。買収した企業ごとにシステムが異なり、横断的なサービス開発に手間がかかる。」
(日本経済新聞:2021年2月24日)

つまり、中国はデジタル技術が進んでいるだけでなく、過去のしがらみもないため、イノベーティブな取り組みをするうえで最適、ということである。これこそ、まさに「量的成長」ではなく「質的成長」をアジアで目指す意義であろう。

「翻訳」の罠

イオンのような、新たなイノベーションのプロトタイプをアジアで作っていく取り組みは、非常に理に適っているように見受けられる。上記で紹介した岡田元也会長のコメントに頷く方も多いのではないだろうか。

しかし、アジアでプロトタイプを作り日本に持ち込む場合、気を付けるべきポイントがある。それは、(ある意味当たり前ではあるが)事業環境の違いである。例えば、中国にはアリババやテンセント等のオンライン出自のプラットフォーマーが存在する。彼らは日本では想像が難しい程の寡占企業であり、キャッシュリッチな企業である。それを背景に、常にテクノロジーに大規模投資を続けている。ユーザーからすれば、両社のサービスを利用しない日はない。さながら、インフラのような企業である

それでは、日本にそのような企業が存在するだろうか?楽天やアマゾン、ヤフー、ライン等、もちろんそれぞれ存在感はあるものの、中国におけるアリババやテンセントには見劣りしてしまう。一人勝ちしているプラットフォーマーが存在しない状況であると言えよう。
そのような状況下で、中国で作り上げたプロトタイプを日本に導入する場合、どのようなプラットフォームを活用すればよいだろうか。おそらく、最終的にはかなり自社で開発を進めなければならないだろう。

また、日本国内でアリババやテンセントに近いレベルで消費者と接点を持つ企業は、必ずしもオンライン出自とは限らない。個人的には、セブンイレブンやファミリーマート等、コンビニエンスストアの方が近いのではないかと感じている。中国では、オンライン出自のプレイヤーがデータを活用してオフライン企業を飲み込んでいき、データ統合を果たしている。それでは、日本ではどのような形でデータ統合をしていけばよいだろうか。オフライン出自企業同士で連携することも、実際は難しいだろう。データはカバー範囲が大きくなればなるほど力を発揮するものであることを考えると、中国と同じような形の効果を得ることは難しいように思われる。それでは、どのように日本の事業環境に合う形に変えれば良いのか。このような「翻訳」が必要になるケースが多いと感じている。

イオンは、当然そこを理解しているからこそ、新会社を日本に設けたのだろう。実際、最近では急速にIT人材を採用している等のニュースもある。欧米ではなくアジアで生まれた新しいビジネスモデルを、日本に輸入する、新しい「タイムマシンモデル」が珍しくなくなる日は、そう遠くないかもしれない。

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