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『肌の記録』 見る見られる演劇のかたち

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YouTubeにて2020年5月7日(木)19:00~2020年5月21日(木)23:59までの2週間限定で上演された、柄本時生、岡田将生、落合モトキ、賀来賢人で結成された「劇団年一」による最初の作品。


あらすじ

大体今から100年くらいあと、ある年から教育や仕事はオールリモートに移行、外出は基本禁止、仕事が無い人はしなくてもよく、人との関わり方は変わってしまい、子供達は友達とオンライン以外で会った事が無い世の中になりました。
人と触れ合うような文化、娯楽、仕事はすっかり滅びてしまって、そんな時代に産まれた幼馴染みの、ときお、けんと、まさき、もときは暇で暇で仕方がないです。
『生きているだけで楽しくて幸せ』なんてつまらないと思う4人は暇で仕方ない生きるだけの日々を楽しくする為に、ぼんやり昔の文化を想像と勘で復活させてみたりしちゃったりします。
(YouTubeから引用)


この作品では、ときお役の柄本時生から始まり、6歳から30歳までの年齢の自分を、それぞれが演じながら一本撮りのオールリモートで進んでいく。
そして各年齢で、遊び・恋愛・性など世代特有の話題がありながらも、人との接触が無いということにより、それぞれ現代とは異なる切り口で語られていく。

距離感による想像力

現代ではこのコロナ禍に関係なくとも、ほとんどの人はZoomやLINEを使ってビデオ通話をしたことがあると思う。その場面では時に、視線がこっちを向いているということによる逃れられない感や拘束感、それによる息苦しさを感じることもあるだろうし、それはまさしくビデオ通話がもたらした弊害と言える。

しかしこれを演劇に適用すると、違った効果が生まれる。

役者にこちら側を常に覗かれているという状況において、その表情をそれぞれじっくり意識させられ、演技をしているのか素のままでいるのか、観客としてはその判断の前に常に放り出されるような感覚に陥いる。そうして演者との間に独特の距離が生まれ、不思議な臨場感を体験することができる。

つまり、この作品が通常の演劇と大きく違うのは観ている自分たちも同じような画面越しにいることだ。
演劇では、一般的には空間の形式上舞台と客席が明確に分かれていて、舞台の上で俳優が役を演じ、照明が当てられ、音楽がかかり、セットが変化する。

俳優を取り巻いている状況が目に見える形で次々と変わり、それを見て時の流れや場面の変化を感じる。

この作品でもカメラ回しはあるが、それは大きな意味での状況の転換には大きくは関わらない。舞台が大きく変わることもなく、演者の「〇歳やります」という掛け声により、観ている人自身が自分の想像力の中で場面を展開する構成になっている。

おままごとやシルバニアファミリーのような誰もはかつて経験したことがあるであろう演劇の原体験的な演出により、映像作品であるのに映画やドラマともまた違った表現のかたちとなっている。

立っている場所は全く同じ、しかしその先で起こり得る違和感をその同時性から想像を膨らまし、楽しむことができる。

まとめ

未来のことという設定になっていても、少し違和感を感じる部分はあるが、現在の状況を過剰に発展させていくと起こり得るかもしれないという最悪の未来に対し、ポジティブにかつ面白くその様子を見せてくれる彼らの演技・演出は、今の自粛期間を楽しく乗り切ろうと伝えてくれるように感じられる。

ストーリーの中で、彼らは肌の接触によって生まれる感覚を知らずに生きていく。そうなっていない今だからこそできる記録として、この作品が生まれたのだろう。



劇団年一『肌の記録』
5月7日(木)19:00~5月21日(木)23:59まで上演
脚本・演出:加藤拓也
出演:柄本時生、岡田将生、落合モトキ、賀来賢人(以上50音順)
技術協力:中島唱太
撮影協力:柄本(嫁)
公式YouTube:https://youtu.be/cosy5UZML7g

記事担当:構法計画研究室M1 菊地裕基

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