微視的な都市へのまなざし

明治大学大学院 菊地裕基(M1)による「gpzレポート」


室内から都市へ


都市における外部の重要性が見直す機会が与えられている。ステイホームの中で家にいる時間が増え、自分と向き合う時間が増えるだろうとニュースでも言われるような現状だが、どちらかというと自分と向き合うよりかは自分のいる空間について向き合うことが多くなったという方が正しいのかもしれない。リテラルに鏡中の前の自分と向き合うということではなく、家にいることで自分を包み込んでくれている空間に存在する一見バラバラなモノたちを注意深く観察し、人によっては自分が快適に暮らすために整理したり、断捨離をしたり、あるいは思い切って引っ越すなどして、各々チューニングしていく。
そのようなまなざしを都市へと向けてみる。どのような場所やモノ、遊びが自分を創り出してきたのか、そのような場所が使えない今、他にどのような可能性があるのか。しかし部屋とは違い、都市には目には見えない様々な論理が交錯し合い、人々が個々で計画できるようなものや、相互が積極的に関わることのできる空間は少ない。建築に携わる人間はそれらを含めたコンテクストを緻密に読み解き、人々の代わりにチューニングすることを任されているのだ。そこで、今回新建築を振り返るにあたり、今建築家が都市空間とどのように向き合っているのかについて注目していた。

都市への広がり


今年に入り都市部では、本来開催されるはずだったオリンピックに向けた開発が次々と完了しており、新たな施設やパブリックスペースが生まれている。しかしこの開発は、これまで都市空間が引き受けてこなかった人々が集うような外部空間が建築群とセットになって計画されているものが多く、それらがさも新しい空間であるかのような姿を露出させてしまったとも言える。それは同時に、これまでの都市の持つ冗長性というものの希薄さを表出させており、ここまで機能を集積させ計画的にかつ明確に区画させていかないといけないのかと思うと、どこか息苦しく感じてしまう。
そのような点で見ると「WITH HARAJUKU」は、そのような普段あまり注目されないような都市の空隙に目を向け、パサージュと呼ばれる空間を用いて都心のオアシスとも言うべき明治神宮の壮大な自然を持ち込むようになだらかな自然の丘を作っている。巨視的な建築群が機能を集積させていくような姿ではなく、周辺にそれを広げていくように建築を作っているように見える。
また、「熊本城特別見学通路」も線状に土木的な構築物を張り巡らすことにより、熊本城の復興様々なシーンを切り取りながら、周縁部の都市へも意識を向けていけるような新たな外部空間の広がりと観光産業への付加価値の在り方を示していた。
またこれらとは別の視点で都市を広く見据えた提案として、「ミドリノオカテラス」は周辺地域の生態系を人間の住処に重ね合わせることで、人間以外の主体と建築を通してどのように向き合っていけるかを考えさせられる。
これらには都市の外部の断片的シーンに目を向け、それらを少し助長させることによって建築が都市へと接続するための手がかりを創り出している。

また、もう少し建物単体へ注目していくと、ひさしやルーバーに代わって、非常階段のような本来は隠蔽されて目立たないようなエレメントへの関心も高まりつつある。元来、集合住宅や商業ビルの内部に閉じられたコアに沿いながら建築計画基準を満たすために奥に押し込まれていたようなものが、人々が外との関わりを作るための、あるいは街の風景をシークエンスとして取り込みながら移動するためのツールとして見直され、「角花」や「大池薬局ビル」などにおいてはアイコニックな形態を持ちながら計画されている。

複雑さを受け入れること

これらの微視的な視点は建築全体のルールを決めてしまうものではなく、コンテクストに一つ一つ応答しながらもその複雑さを受け入れてしまうようなおおらかさが感じられる。これはバラバラな主体がバラバラなまま建築物に内包され、都市の複雑さ抱えこむことで成り立っていると考えられる。
これらとは対照的に、様々な状況を一つの図式で解決しようとするような建築というのはこれまで建築家が作り上げてきた理論的実践が具体化されたもので、これまでの取り組みの変遷をたどりながら読むことができたが、実際できたものはその完結した世界観からその余白を感じさせないものが多く、現在の都市空間の展開のような窮屈さを感じてしまった。

部分への対峙

これからは建築単体だけでなく、外部空間に関しても一つの強いルールから付加的に外部を生成させていくのではなく、小さな部分と真摯に向き合うことでそこから視野を広げて計画していくような手つきが必要になっていくのではないか。また、都市を交錯する不可視の因子として新たに追加されたコロナウイルスは、建築理論にどのような展開をもたらすのかを追っていくとともに今後も考察していきたい。


#構法計画研究室 #門脇研

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