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エクセス コンプライアンス リザルト 6-2章

「まずは状況整理からいきましょう。」

「ああ・・・わかった。」

私自身も気になるところではある。結局彼女は何者だったのか。記憶の話だが、爺さんにすり替わってまで講義していた彼女は、私にとっては重要な人物であるとは思ってる。

「不破さんは、その少女について”今日”ここで会ったとき以外に記憶はありませんか?」

「・・・・恐らくでしかないが、無い」

「ふむ・・・・となると・・・」

暫し考える爺さん。大分時間をかけてるように思えた。私の心境が急いているだけかもしれないが。

「何か分かったか?」

「・・・休憩室で会った、講義にもしかしたらワシとすり替わって講義して 
 いた記憶以外ない・・・というのを真と捉えるなら・・・若いという点も
 要素として・・・」

「・・・」

「その少女はどこかの複起点で生まれるハズだったが、現実世界では生まれ 
 なかった。そう考えるのが妥当なところだと思われます。・・・不破さん
 は確か未婚でしたかな?」

「・・・今の自分の自覚に自信は無いが、そのハズだ。」

「私も確か途中あったモニターでお聞きしております。まだモニターによる
 作用が起きる前の言質なので間違いないかと。・・・・ただ、結婚前提で
 お付き合いしとった方は居た、そう言っておりました。」

・・・・

・・・今言った爺さんの話は、私の今の記憶とも合致している。あまり知られたくない話だが、確かにそういう女性は居た。

「その女性との話は難しいですかな?恐らく重要な複起点ではあると思います。」

「・・・話したくないが、話すしかないか。」

「ちなみにですが、私との会話は記録、録音はされていません。
 ・・・まあ、先に説明した干渉等でこの流れを監視されているケースはあ
 りますが。」

不穏な事をいう爺さん。

・・・まあ、大体言ってる事は何となくわかる。時間軸が1つしかない世界で無理やり作った複起点のルートを人の脳内に映しこむ訳だから、その状態になった人間が完全な状況把握は出来ないだろう。事実、爺さん自身にも干渉の現象は起きてる訳で、その爺さんが場(環境)を完全に把握してる訳じゃないという事になる。

「まあ、いいさ。簡単に説明すると、当時、付き合っていたその女性は、自殺したのさ。10年以上前の話だが・・・」

「そうでしたか・・・・原因は何だったのでしょう?」

「漫然としたものだとは思う。爺さんが言った社会不満のようなものだ
 とは当時感じてた。・・・彼女はご両親を亡くされてる。確か、誰かに
 恨みを買われて事実無根な噂をたてられ、それを鵜呑みした暴漢に
 刺された・・・そんな話をしていた。」

「なるほど・・・その犯人に対しては物凄い憎悪があったでしょうな」

「ああ、彼女は強烈に怒っていた。私も話を聞いてやるだけで精一杯
 だったが。」

「その犯人は、今は?」

「元々精神疾患だったらしく、実刑はさほど重いものではなかった。
 精神鑑定で責任を負う能力が無いと判断されたんだろうな・・・
 今は普通に牢屋の外で暮らしてると思うよ。」

「なんともやりきれない話ですな。人殺しをしたのに、それでは。」

「私は、確か裁判は傍聴していた・・・いや、確実に聞いてたはずだ。
 裁判長の説明によれば ”真の原因は事実無根な噂を流した その言質に
 あり、その言及者の特定が先決だと考える。この場に居る被告人は、
 それを鵜呑みした自身の負い目もあるが、精神的に未熟さがあり、
 本犯行の張本人ではない事は明白である” とか抜かしやがった」

「・・・・・そのデタラメを流した犯人は・・・今は・・・?」

「捕まったと言う話は聞いてないな。・・・・ああ、思い出してきた。」

「・・・はい」

「付き合ってた女性は、それ以降でおかしくなったんだ。・・・いや、
 至って普通ではあったんだが、妙に感情が抜け落ちてしまったと
 いうか・・・それから暫くして、同棲していたマンションで亡くなって
 いた・・・」

「そうでしたか・・・・不破さん自身が第一発見者だったのですか?」

「そうだ。仕事の帰りに現場を目撃した。既に時遅し・・・だったな。」

「不破さんご自身も相当な心的負荷があったとお察しいたします。
 ・・・不破さんは、その後は無事に生活されていましたか?」

「・・・それが・・・ほとんど記憶に無いんだ。その時の惨状が余りにも
 強烈で、他の情報がほとんど入らなくなってしまったような感覚だ。」

・・・・

・・・・

「ふむ・・・・・・・やはり対象一人だけの複起点描写だけではムリが
 生じる・・・このケースもか・・・」

なにやらブツブツ言いだした爺さん。この研究の事をいってるようだったが。

「そういえば、この研究・・・セラピー?は”治験”のような扱いになる、
 とかか?」

「ん、んーーー・・・・・あまりその言葉は好きでは無いですが、そう
 解釈されても相違ないと思います。」

「いや、別に爺さんやこの機関を咎めるつもりはない。事実私が立ち
 直れているわけだし、何が自分の人生をおかしくしたのか、大体
 整理がついてきてるのも事実だ。今の質問は興味本位だったと認識
 してくれ」

「そうおっしゃって頂けると有り難いです。無論、ワシらは単なる興味
 本位でこの研究をやっとるわけでなく、いかに人を良い方向に持って
 いけるかが本筋であってーーー」

「わかってる、大丈夫だ。・・・それで話は戻るが、その少女が何者
 なのかも私は予想がついた。多分爺さんも同じことを考えてると思う。」

「・・・はい。ワシもそうじゃないかと思っとります。そして、辛い
 過去であるにも関わらず仰ってくれてありがとうございました。
 また1つ、大事な結論が出せそうです」

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