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Gateway

猫は死に際に居なくなると言うが何処へ行くのか。猫は猫にしか見えない道を通って、猫にしかわからない感覚があって、その時にしか見えないゲートのようなものが開いて亜空間へ誘われるのではないか。幼少の頃からおれが漠然と抱いていたイメージの片鱗を見るような経験が最近あった。

ご存知シン・鬼ヶ島の共同戦線もおかげさまで今週がラスト。愛馬プロボックスで麓まで、そこから徒歩20分で辿り着くのは携帯もWiFiも繋がらない、陸の孤島の亜空間。これを今年だけで9週間もやってるんだからバカ正直かバカのどちらかだ。
当初は亜空間という事に動揺したのだが、そういうもんだと割り切ってしまえば別にどうという事もない。ゲームの中にでも入り込んだと思えばいいだけの事。外野の茶々が入らないから現実社会の事は一旦忘れ、亜空間のルールに従い、そこでの高みを目指せば良いのだ。今年に入ってからは鬼ヶ島にいる時間が一番長いので、むしろこれが現実なんじゃないかと適応しつつあったし、現にシン・鬼ヶ島にもおれの居場所がしっかり用意されている。現実社会では日常的に派閥争いに巻き込まれているおれとしては正直、満更でもなかったね。

そこに一人の青白い顔の若者が息堰切って走って来た。
「カッパさん、カッパさん、ここに居たんですか。下界から連絡がありました。カイシャがすぐに連絡欲しいとの事です」
言うや否やバタッ、と突っ伏した彼が目を覚ます事は無かった。
下界と繋がるゲートは麓にしか無い。こやつ、どこから走って来たのか。
カイシャも亜空間のゲートウェイを超える手段を見つけたようだ。

麓までの道はいつもより遠く感じた。
ゲートを超えてやっと電波が繋がる場所まで来ると、メールやら着信履歴やらがブワッと来た。それはあたかも止まっていた時間が突然動き出したかのようだった。そしてそれがちょっとだけ煩わしかった。
連絡内容は、他の戦地が大苦戦しているから直ぐにヘルプ入ってくれたまえサンキューバイバイ、という一方的なものだった。こっちには全くヘルプ寄越さないくせに。

昼寝していた愛馬プロボックスに乗り込む。正午を過ぎて太陽は西に傾きつつあったが、構わずそのまま走り続けた。朝吉牛を食べた時の当日限定割引券があったので遅い昼飯も吉野家で食べた。味とかそういうのは別に無かった。

日没前に戦地B到着。
先発隊の戦士たちは掌を擦り合わせてお祈りしているが全く意味を為さない。致命的なダメージを受けて止まった戦車を直してくれ、というような要望だった。戦車は見た目こそ古いもののまだ使えそうな代物だったが、電子制御がやられており、見た目倒しの全く無用のガラクタに成り下がっていた。せっかく召喚されてしまったので何もしないわけには行かず、ありとあらゆるヒーリング術を施して回復を試みる。幸い、当てずっぽうにやった幾つかの方策が効き、戦車は再び雄叫びを上げ始めた。さっきまで拝んでいた戦士たちはおれの事など忘れて当たり前のように戦車に乗り込み、そのまま戦地へと出ていってしまった。

任務完了のテレグラムを本部に入れるも返事は無かった。待ちくたびれた愛馬プロボックスの喉の渇きを癒してやり、おれは再び走り出す。誰にも気づかれず、日付が変わる前にゲートに辿り着かないとそいつは閉じてしまうんだから。