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ドSセンパイvs真性ドM

もうちょっと別な題名が良かったかもしれないが、まあそういう話です。

先日は久しぶりに会社の飲み会に参加した。
そもそも大人数の飲み会はあまり得意ではないのだが、人数合わせか何かで参加しなくてはならなかったのだ。

酒が回ってきた頃、コロナで大人しくしていた飲み会番長のパイセンどもが息を吹き返して来た。彼らは今よりも年功序列の怒号が飛び交うピリピリした世界を生き残って来た強者たち。当然後輩たちへの当たりはキツく、ゆとり世代を境にして若者達は極端に距離を取っていた。それに気付いているのか否か、パイセンどもは更に声のトーンを上げ、か弱い若者たちを端から順にイジリ始め、「おめえら、おれの若い頃はそんなもんじゃなかった」などと絶好調。あーあ始まっちゃったよ。

放っておけばいいのだが。そこに一人の弱々しい若者が現れた。仮にAくんとしておく。
Aくんは入社3年目。コロナ禍でまともな飲み会は今回が初めてのようだ。
Aくんはおもむろに上座のパイセンの卓へ正面から現れて着座。しかも正座。「いや凄いっすね、センパイたちの時代は凄かったんすね。勉強になります」と白々しく掴みにかかった。
満更でもないセンパイは「おう、俺は良かれと思って皆んなに有り難くアドバイスしてるのに、みんなビビって逃げちゃうんだよな。でも俺あ正しい。俺あドSだからよお!」と、いろんな意味でアウトな人格に完成。
Aくんは動じず、「いや、そういうの有り難い限りです。僕ドMなんで何でも言ってください!全部従いますんで」と高らかに宣言したのだ。
そしたらドSセンパイが「お、おう…」と明らかに一瞬怯んだのをおれは見逃さなかった。

ドSセンパイは日頃、シラフの時ももちろん、同僚たちが何か言おうものならその言葉に含まれる全ての可能性を指摘し、弱みがあると見るやネチネチ追い込み、完膚なきまでに叩きのめすのを趣味にしている。間違った事は言っていないのだが、とにかく相手の人間性を否定するやり口には批判も多く、同席NGを掲げている若手もいるくらいだ。そんな悪名高いドSセンパイに対し、真性ドMのAくんが丸腰でどーぞどーぞと現れたのだ。一見、馬が合いそうな二人だったのだが、ドSセンパイは実は教育と称して嫌がる弱者をイジメたいだけだったので、ニコニコ何でも従う奴は苦手のようだ。それが露呈してしまった。みんな見ている。

「僕、どこ直せばいいですか〜?何でも言ってくださいよセンパ〜イ」「いや、お前もういい」「そんな事言わないでセンパ〜イ、どうしたんすかあ、僕にも指導ヨロシクっす」「いや、お前もう下がっていい」
Aくんはその後も居座り続けた。(これは本当にドMなのだろうか?)
大人しくなったドSセンパイは更に酒が進み、解散後は一人で駅と反対方向のスナック街へフラフラと消えていったが誰も追わなかった。大丈夫だろうか。かつて指導され続けたおれも、終電の方が大事だったので追いかけなかった。