ハンターナイトツルギは本当に悪か

はじめに

「ツルギの罪は計り知れない……しかし、彼の中には地球の人々を思いやる優しさがある。俺は何としても罪を拭いさり、証明しなければならない。彼の愛した人間たちに、ウルトラマンであることを」

35話「群青の光と影」セリザワの台詞


街の被害を顧みずボガールを殲滅することのみ考えていたツルギ。確かに褒められたことではないが、果たして本当に悪と断定できるほどのことをしていただろうか?

そもそもボガールはその旺盛すぎる食欲と高い知能から数多くの星を滅ぼしている存在。倒すこと自体は悪いことではないはずだ。

そこで、本編でのツルギの行動を洗い出してみることにした。

定義の確認

まず初めに、何を持って悪とするのかをはっきりさせねばなるまい。
悪という単語の定義は以下の通りだ。

悪 あく
[名]
1 わるいこと。人道・法律などに反すること。不道徳・反道徳的なこと。「悪に染まる」「悪の道に走る」「悪の張本(ちょうほん)」⇔善。
2 芝居などで、敵役。「実(じつ)悪」「色悪」
[接頭]人名・官名などに付いて、性質・能力・行動などが、あまりにすぐれているのを恐れていう意を表す。「悪七兵衛景清」

デジタル大辞泉

メタ的な意味では当然2番が当てはまるが、ここでは1の意味で考えることにする。

善の反対が悪なのであれば、善についても定義を確認しておこう。

善 ぜん
よいこと。道義にかなっていること。また、そのような行為。「善を積み、功を重ねる」「一日一善」⇔悪。
デジタル大辞泉

以上から、今回特に注意して見ていくのは「人道に外れた行為を行っているか」という点になりそうだ。

ボガールについて

検証に入る前にもう一点、ボガールの存在について確認をしておきたい。
人道を外れていることが今回キーになってくるので、ボガールは倒されるべき存在か否かが重要になってくるからだ。

ボガールには通常のボガールの他に、ボガールモンス、レッサーボガール、アークボガール等の亜種がいる。

まず、基本となるボガールについて。
高次元捕食体の別称を持ち、自分と同じサイズのツインテールやサドラのような怪獣も丸呑みしてしまう食欲の持ち主。
テレポート能力や念力のような技も本編では披露。また、知能が高く言葉を発することができ、人間の女性の姿に擬態することも出来る。
その知能ゆえ、単に怪獣を捕食するにとどまらず、餌場と決めた星に怪獣を呼び寄せてまとめて食べたり、シーピン929を横取りするためにファントン星人の宇宙船を故障させたりしている。
ボガールモンスは、上記のボガールの突然変異体といえる存在。弱点の電撃を克服し、食べた怪獣の分エネルギーを体内に溜め込んでいる。そのため撃破の際に想定される爆発が凄まじく、テッペイは「歩く火薬庫」と呼んでいた。

レッサーボガールはボガールの下位種。
知能は低いが食欲は相変わらずで、仲間の死体すら捕食する貪欲さを持つ。

アークボガールはボガールの元暗黒四天王のひとり
クビになった理由こそ拾い食いばかりしているというコミカルなものだが、惑星ひとつを核も残さず食い尽くしたり、配下の怪獣たちを使って地球を襲い「調理」(地球人の抵抗を「中々楽しませてくれた」と評してる)したり、地球を食卓、地球人をオードブル、ウルトラ戦士をデザートと呼んだりと、生存のため以上に食に対するこだわりと快楽を見出している様子がわかる。

レッサーボガールに関しては単に食欲の旺盛な怪獣といった感じで、現実世界で言ういわゆる害獣のような感覚に近いだろう。
だがボガール(と変異体であるボガールモンス)やアークボガールに関しては、己の食欲のために必要以上の被害をもたらし、アークボガールに至ってはそれを楽しむ残虐さも持ち合わせている。

以上の点から、ボガールは少なくとも倒されてかわいそうというほど同情できる存在ではなさそうである。

実際の言動

いよいよ実際に本編で描写されたツルギの言動について見ていく。
言動すべてを拾ってしまうとキリがないので、今回は特に人道を外れていると呼べそうな言動のみをピックアップした。

①街の被害を気にせずナイトシュートを撃つ
②メビウス巻き添えでナイトシュートを撃とうとする(未遂)
③倒れてる自分に声をかけてきたメビウスに「俺に干渉するな」とナイトブレードで斬りかかる
④「人間はアーブの知性体に比べれば下等な生命」発言
⑤セリザワを「入れ物」呼ばわり
⑥大爆発を起こす可能性のある状態のボガールに対してナイトシュートを撃とうとする
⑦邪魔したリュウに刃を向けようとする(セリザワの意識が一瞬戻り未遂)

ちなみに、メビウスと直接戦闘の描写があるのは9話の1回のみ。この時は⑥がきっかけとなり、ボガールを倒すことそのものは目的として一致しているものの、その方針の違いによって対立している。
それ以前は敵か味方か分からない曖昧な立ち位置での登場だった。

なお、「今ここで奴を倒さなければもっと多くの犠牲が出る、数え切れない命が食い尽くされるぞ!!」という台詞から推測するに、復讐の副次的にではあるものの復讐に取り憑かれる以前、そしてヒカリになった後にも通ずる救える命を救うという意識はあった模様。

事実、結果だけをみればボガールが倒されることでその先救われる命はある。ただ、その過程において犠牲を出さずに済む手段を検討せず、犠牲はやむなしとすることには是非が問われるところであり、人道という面においては手放しでよしと言えないところである。

また、一切の擁護が出来ないのは③~⑤だ。
③に関しては心配してくれたメビウスに対してあんまりな行動であるし、④と⑤に関してはかなりの暴言である。これは人道を外れた言動であると言わざるを得ない。

まとめ

ツルギ時代を振り返ってみると、復讐の大枠は大義名分としては通っているものの、人道を外れているかどうかという面で鑑みた場合に悪と言える言動が見られる。
復讐という鎧によって光が閉ざされ、本来持っていた「罪なき命を守る」という意識が塗り潰されたこと、それによりなりふり構わずボガールを倒すことに執着してしまったことが原因と言えるだろう。

ただし、メビウス(ミライ)の言うように完全に捨て去ることは出来なかったその優しさは、ほんの僅かにだが言葉の中に垣間見えている。

10話ではメビウスに自分の体が限界を迎えていることを告げ、「お前の力が必要だ」と協力を求めている。
復讐に執着するキャラクターが盲目的になりすぎるあまり他人が決着をつけることを良しとしないパターンもある中、これは個人的な感情よりもボガールを倒すことで救われる命を優先したと言えるかもしれない。
それによってツルギの罪が帳消しになるわけでは決してないが、復讐の鎧で覆いきれなかったその心だけは、間違いなく善と言えるのではないかと私は思う。

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