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遺産分割協議をすると相続放棄できなくなる?

一徹さんが亡くなりました。相続人は、長女明子さんと長男飛雄馬さんの二人です。
飛雄馬さんと一徹さん親子は濃密、かつややこしい親子関係を過ごしてきました。お互い会うだけでも疲れてしまうことから晩年は疎遠であり、全面的に明子さんが一徹さんの面倒をみていました。
このような経緯から、一徹さんが死亡した際に明子さんと飛雄馬さんは「全ての遺産を明子が相続する」という内容の遺産分割協議書を作成しました。
ところが、作成後、一徹さんには特注のバネを発注しすぎたことによる多額の債務があることが判明しました。
この場合、明子さんは相続放棄することができるでしょうか?

A.相続放棄できない可能性が高い
相続放棄申述事件の審理においては、法定単純承認事由をしていないことが受理の前提であり、万が一、相続人が法定単純承認事由を行なっていたような場合には相続放棄が無効となってしまいます。
遺産分割協議は、通常、積極財産・消極財産の全容を把握した上で、その承継について共同相続人間でなされる者であるため、遺産分割協議が成立すれば、相続財産の処分と評価されます。
しかしながら、裁判例の中では、遺産分割協議自体が錯誤によって無効になる場合などに例外的に「処分」に該当しないと判断された場合もあります。

★世戸弁護士のコメントです
民法は,920条(単純承認の効力)で「相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。」とし,続く921条(法定単純承認)で
「次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。」としています。
そして,相続人が、遺産分割協議をした場合、これは原則として民法921条1項の単純承認事由に当たります。
遺産分割協議をするということは、相続財産につき相続分を持っているということを認識して、そのことを前提に、相続財産に対して持っている権利を処分する行為であるからです。

【相続対策虎の巻2021/07/23配信分より】

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