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「BACK TO BASICS 70年代ソウル」を参考に自らのソウル/R&B史を振り返る

私は音楽ガイド本を読むのが好きだ。

その理由は自分の趣味嗜好に合うにも関わらず見逃してきた名曲や、過去に好んでいたのにそれから随分耳にしなくなった楽曲と再び出会うことを期待しているからだ。

今回ご紹介する「BACK TO BASICS 70年代ソウル」1997年に6名の執筆者により刊行されたもので、70年代ソウルについてPart Iでは10のカテゴリー毎に推薦ディスクを挙げ、Par IIではライブ・アルバムやサンドトラックといった切り口で同様に推薦ディスクを挙げている。

出版年が90年代ですでに20年以上が経過しているが、70年代ソウルというターゲットには変化が無いので2020年になった今でも古臭さは全く感じないAmazonでは中古しか入手できないようだが、ご興味ある方にはお薦めだ。

ソウル(ファンク)との出会い

さて、ここではこの本のジャンル分けに準じながら、私自身のソウル・R&B史を振り返ってみたいと思う。

そもそも私は1962年生まれなので、70年代前半はまだ小学生だった。このためせいぜい75年以降しか70年代ソウルの楽曲を同時代で聴いたとは言えない。しかも当時ロックミュージックに軸足があったし、ソウルを流すようなディスコに中高生が頻繁に出入りするには敷居が高かったため、70年代後半以降も正直同時代で楽しんでいたとは言い難い。

従って同時代的にソウル(ファンク)と言うと、ポップチャートを席捲したKC and the Sunshine Band、Average White BandやWild Cherryぐらいしか正直記憶に無い。

ロック系ブルーアイドソウル

一方Rockと被る部分が多いBlue Eyed Soulとなると、様相は全く異なる。Daryl Hall & John Oates、Boz Scaggs、Bobby Caldwell、Gino Vannelliは70年代後半によく聴いていたことがあるし、さらにロック系のTodd Rundgren、David Bowie、Rod Stewart、The Rolling Stones、Joe Cocker、Robert Palmerも70年代は皆Soulっぽかった。彼らを通じて知ったSoul/R&Bセンスの影響は大変大きい。

ディスコミュージックとMTV

Blue Eyed Soul以外のソウル・R&Bに本格的に興味を持ち始めたのは80年代のディスコミュージックからで、EW&FやQuincy Jones、Kool & The Gangから始まってL.T.D、Cameo、Shalamarなど当時のヒット曲を通じて周辺を掘っていった。PrinceはMTVが盛んとなった”Purple Rain"からはまっていった。

モータウンとボーカルグループ

一方ソウル・R&Bでは欠くことのできないMotownについては、80年代に入ってもまだ良作があったStevie Wonder、Diana RossやMichael Jackson、Rick Jamesから入って、Marvin Gaye(84年没)を遡って聴くようになった。確か83年に発売されたMotown25周年のビデオをレンタルしてThe TemptationsとFour Topsが対バンするのを見てそのヒット曲の多さとボーカルグループの実力を知った記憶がある。

ブラックコンテンポラリーミュージックとAOR

私は70年代後半のフュージョンやクロスオーバーがあまりにこ洒落ていて正直好きでは無かったのだが、80年前後はGeorge Bensonを皮切りにJazz系のミュージシャンがBlack Contemporary Music(いわゆるブラコン)に参入した頃で、George DukeとStanley ClarkのClark Duke Projectも大ヒットしていた。

Al Jarreauは1981年作の”Break Away"が初体験で、同アルバムに収録されているジャズスタンダード曲”Blue Rondo a la Turk"を声で表現するのには大変驚いた。当時のアルバムはJay GraydonがプロディースしていたのでかなりAOR的な音作りだった。

AORが全盛期だった頃に日本でもヒットしたものではGrover Washington Jr.Bill WithersのVocalがフィーチャーされた”Just the Two of Us”がある。当時発売されたこの曲を含むBill Withersのベストアルバムは未だに愛聴盤だ。今年の3月にBillは亡くなっている。

同じ時期で好きになったのがBobby Womackの”I Wish He Didn't Trust Me So Much"だった。この人の歌詞はそれだけでドラマになる。後にタランティーノが映画”Jackie Brown"”Across the 109th Street"を冒頭に使っていたのにはその巧妙さに驚いた。あの曲の歌詞も自分の恵まれない幼少時代から始まるストーリーだった。

Southern Deep SoulにカテゴライズされるAl Greenについては1983年のMTV時代に大復活を果たしたTina Turner”Let's Stay Together"がキッカケで、後にAl GreenのオリジナルCDを購入する。

映画ブルースブラザーズ

また1980年の映画”Bruce Brothers”を遡って見る機会があって、映画に登場していたAretha Franklinのド迫力に圧倒される。この映画の夫婦喧嘩の部分は本当に最高だ。

名プロデューサー ナイルロジャース・クインシージョーンズ

またDavid BowieのLet's Dance初期Madonnaのプロデュースを手掛けたNigel RodgersのChicQuincy JonesファミリーからThe Brothers Johnsonを聴くようになった。後に”Strawberry Letter #23 "はオリジナルのShuggie Otisのバージョンがお気に入りになった。

ヒップポップやラップでのサンプリング

1980年代前半頃からHip PopやRapが流行し始めたが、彼らは積極的に過去の名曲のサンプリングを多用するようになる。特に1981年のGrandmaster FlashChicの”Good Times”Blondieの”Rapture”を上手く組み合わせていた。

14枚組 Street Sounds Presents Love Ballad

1984年にはまだ実家にいた姉が14枚組のLPボックス”Street Sounds Presents Love Balladsを買ってきた。これは必ずしもSoulばかりでは無いが、バラード曲が142曲も収録された名盤だった。

LPレコードからCDへの過渡期での出会い

また80年代中盤にはレコードがCDに置き換わる時期で在庫一掃のような形で古い輸入LPレコードが安く出回り始め、まだ持っていなかったAWBやSly and the Family Stone、Isley Brothersを購入した記憶がある。

一方同じ過渡期に最初に買ったCDはJames Brownの”The CD of JB”だった。1984年にはJBがアフリカバンバータと"Unity"で共演したり、1985年に映画ロッキーⅣでLiving in America"がフィーチャーされてJBが再脚光を浴びたころだ。

この他にも今や私のお気に入りに入ったDonny HathawayMinnie RipertonもすべてCD時代に入ってからの後学だ。

セカンドライン

90年代に入ると渋谷のレコファンでたまたま流れていたThe Metersにはまってアンソロジー二枚組を購入。あのパキパキなギター音とリズムセクションに一発でやられた。彼らの独特なリズムはセカンドラインと呼ばれていることを知り、さらに13歳で初めて購入したLPでかつ終生の愛聴盤でもある大瀧詠一の名盤”Niagara Moon"のリズムがこのセカンドラインだと再認識することになった。

2001年頃米国ケンタッキー州レキシントン在住時にラップアリーナでNeville Brothersのライブを観ることができたのはラッキーだったし、2005年頃にはNew York Cityの今は亡きBB King Blues Club & GrillでFunky Metersを、また日本へ帰国後はBill Board TokyoでAaron Neville(故Charles Nevilleも参加)やMeters Experience(故Bernie Worrel参加)を観ることができた。

タワーオブパワー

同じ頃90年代前半にまだ六本木にWaveがあったころに入手したCDがTower of Powerの”Back to Oakland"だった。ToPは2018年と19年の二年連続で東京でLiveを見ることができた。今でも本当に良いバンドだ。

カーティスメイフィールド

この本で言うとChicagoのカテゴリーにあるCurtis Mayfieldを最初に興味を持ったのは1985年にRod StewartがJeff BeckのギターをフィーチャーしてカバーしたImpressions時代の”People Get Ready"からで、次に94年のトリビュートアルバム”A Tribute to Curtis Mayfield”を買っている。長い間に培われる免疫が無い分最近はCurtisの名曲により感動することが多い。

フィリーソウル

Philadelphiaカテゴリーで言うと、The Delfonicsの”Didn't I (Blow Your Mind This Time)"がクエンティン・タランティーノ監督の”Jackie Brown"のOSTに効果的に使われていたのと(白人中年男性のMid-lifeクライシス的な恋?)、”La-La Means I Love You"をPhiladelphia出身のTodd Rundgrenがカバーしていた。

今後来日する可能性があるとすれば

これらのアーティストはすでに1970年からだと50年が経過しており、アーティストの高齢化から今後はますます見る機会が無くなってくるのだろう。

まだ元気な姿を見せてくれるとすれば、Goerge Benson(今年出た新譜は良かった!)、Mavis StaplesやHerbie Hancock、かろうじてMarlena Shawぐらいか。メンバーが随分入れ替わったのでも良ければTower of Power、Kool & the Gang、EW&F、Chic、AWB、Stylisticsはまだ来日だろう。

Liveと言えば米国ケンタッキー州レキシントンでは毎年Labour DayにLexington Roots & Heritage Music Festivalが開催されていて、2000年頃にBobby WomackとJames Ingramを二年連続で生で見る機会があった。周りは黒人がほとんで日本人は私と一緒に行った他の会社の日本人駐在員(ドラムが趣味の人)の二人だけだったと思うが、BobbyもJamesも二人とも亡くなった今となっては見に行って良かったとつくづく思う。

総括

こうやって見ていくと、70年代ソウルは同時代的には聴いていないものの、メインストリームと言われる人たちは何とか後学で網羅して来たように思う。改めてこの本で70年代ソウルを体系的に振り返ると、ジャンルで言うとChicago系、Philadelphia系、Vocal Groups、Solo Singers、Southern Deep Soulにまだまだ抜けがあることがわかった。

実は最初に自分の年齢から言い訳を書いたが、驚くことにこの本の執筆者の年齢を見ると一名を除いて皆私より若い。お陰で改めて名曲掘り出しの意欲が湧きました。

最後に本書に基づいた12 PlaylistをApple Music上で”Keith Kakehashi"名義で公開しているのでご興味あるかたはご視聴ください。どうしてもApple Music上に登録されているアルバムは限られているため、本書と完全に準拠とまでは行っていないが、かなりの部分は本書の通り出来たと思う。





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