見出し画像

ブックレビュー「僕の樹には誰もいない」

2022年3月12日に亡くなった松村雄策氏の新作が発売されたことを知ったのは、同じロッキンオンの創刊メンバーだった橘川幸夫氏のnoteだった。

実はその前に橘川さんがnoteで”幻の”イターナウの初CD化を教えてくれたので発売後すぐに購入したし、それがキッカケとなってヤフオクで未聴だった松村さんのLPレコード「プライヴェイト・アイ」も買った。

本書は松村さんの十冊目の著書で、私はこれですべての松村さんの著書を読んだことになる。今手元に何冊あるのか改めて本棚をチェックしてみると、タイトルバックの写真にある通り六冊が見つかって、「岩石生活入門」は無かった。記憶が定かでは無いが、同書発行当時はまだロッキンオンを毎月購読していて、同雑誌への原稿はすべて読んだことがあったので購入しなかったのかもしれない。「ウイズ・ザ・ビートルズ」と「僕を作った66枚のレコード」は近所の図書館で借りて読んだ。

本書は生前から松村さんの十冊目の著書を刊行しようとしていた米田郷之氏が準備し始めていたもので、残念ながら松村さんは本書を見ることなく旅立たれた。米田さんがそういう難しい仕事を最後まで仕上げられたことをファンの一人として感謝したい。そして米田さんが本書でおっしゃる通り、これをキッカケに再評価されて色々な形態でさらなる著書が刊行されることを願っています。

本書に収録されている松村さんの文章は、若い時代とは異なり、自然体というか少しとっちらかっていてオチが無いものが増えているな、と感じた。2015年に脳梗塞で倒れてその後も入院を繰り返していたので安定したリズムで文章を書くことが簡単では無かったのだろうと推測している。

それでも私を含めたファンは松村さんの文章を最後まで読み届けて、松村さんらしさを丁寧に拾おうとしていると思う。

本書のタイトルの「僕の樹には誰もいない」は松村さんらしくThe Beatlesの”Strawberry Fields Forever”の歌詞の一節である”No one I think in my tree"である。

また表紙には”Good Evening Memory Almost Full Still Alive And…"と書かれているが、こちらは本書にも掲載されている文章からPaul McCartneyのAlbumタイトル”Good Evening New York City”と”Memory Almost Full”に由来したものであることがわかる。

本書には松村さんがロッキンオンに寄稿した最後の文章も掲載されていて、そのタイトルが残りの”Still Alive And…"である。このフレーズで私がすぐに思いつくのはJohnny Winterの”Still Alive And Well”だが、Paulに関してはPaul死亡説といのが昔からあり、またYouTubeに”Katy Perry Surprised that Paul McCartney is Still Alive”というのがあるのでこういったエピソードを引用したのかもしれない。

最終原稿では約一年間ロッキンオンに原稿を書かなかったことへの読者への陳謝と既に肺癌、肝臓癌、腎臓癌が見つかり骨に転移しており、この一年の間に四回入院したこと、一年経ってやっと原稿を書く気になり、あと一年でも二年でも生きていきたいという気持ちが吐露されており、最後は「もうすぐ、ビートルズの『レット・イット・ビー』の、新しいヴァージョンが発表されるという。それを見なければ、死ぬに死ねない。」で締めくくられている。

しかし残念ながらそれから4ヶ月後に永眠された。

本書のあとがき「本書について 松村さんの十冊目」の最後に、松村さんのお子さんたちからの依頼で付け加えられた文章が掲載されている。

「父が亡くなって初めて、私たち子供は父がこんなにたくさんの人達に愛されて、支えられて生きてきた事を知りました。
悲しみの中、その事実が私たちの励みになり、とても嬉しかった事を覚えています。
今まで父を応援して下さった皆様、長い間本当にありがとうございました。」

出典:松村雄策「僕の樹には誰もいない」

合掌。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?