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ブックレビュー「流転の海 第三部 血脈の火」

宮本輝による自伝的長編小説で全9部の第3部は、松坂熊吾ら一家が愛媛県南宇和から再び大阪に活躍の場を移す。

先の第1-2部のブックレビューで、「登場人物をその人の出自や生き様、人としての器の大きさ、そして品格という軸でとらえていくところが本書の特徴」と述べたが、今回最も気になったのは「俺は、支離滅裂な未熟者だが、人情の機微とか物事の要を読み取る能力は人に恥じるものではない」と熊吾に語らせているところである。

本書では熊吾の目を通じて読者にその人情の機微や物事の要の読み方を見せていく。「わうどうの伊佐男」、妹のタネ、母ヒサ、観音寺のケン、上海時代の友人周栄文の愛人の子である麻衣子、伊佐男の子を育てる喜代、熊吾の最初の妻貴子の兄で警官を退官後プロパンガスの共同経営をする杉野、腹心の部下だった辻堂と熊吾に恨みを持つ岩井亜矢子。

彼らが起こす騒動と裏切り、その背景にある人情、そして大阪に出てから次から次へと新しい事業に手を染めるがそれらが予想外の台風や恨みを根に持った陰謀、パートナーとの相性などを間接原因としながらも、大局観を持ってすべてをすっぱりと諦め「きんつば」を焼く熊吾。

本書の解説に、宮本輝が本書について「私は、自分の父をだしにして、宇宙の闇と秩序をすべての人間の内部から掘り起こそうともくろみ始めたのです」と記したことが挙げられている。

今の時代にはなかなかお目にかかれないような多様性を持った登場人物たちを通じて人間の業と確執、その人情の機微の描写を通じてStreet哲学を語るのが本シリーズの著者の狙いだったのだろう。

第3部に入っても新たな登場人物が出てくるが、流石になかなか記憶に残らないので登場人物表でもあったら良いのにな、と思ってネットで調べたら、しっかりとまとめたものがあった。お陰で読み進めるのも苦に無くなりそうだ。

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