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ブックレビュー「「正しい戦争」は本当にあるのか」

今年の5月に新書版として復刊された本書は元々rockin'on社から発売されたもので、ロッキン・オン・グループ社長の渋谷陽一と同社から出版された「現代ロックの基礎知識」の著書があり日本国際政治学会の会員でもある鈴木あかねのインタビューによる対談形式の著書である。

初版は2003年12月で、アメリカ軍中心の有志連合がイラク侵攻を開始した直後で、その意味では今我々が直面するウクライナ侵攻や台湾有事については言及されていないが、そこで提示されている論点は今でも重要だ。

その根底に流れているのは著者が丁寧にみる国際政治での現実追求にある。

「ぼくは抽象論が嫌いなんです」
「正義とかなんとか、大袈裟な言葉はかえって危ない」
「平和を唱えるのが理想主義で、戦争が現実なんだっていう二分法は必ずしも正確じゃないんですよ。現実に向かうと戦争を肯定する、理想を唱えるとハト派になるってそんなバカなことはじゃない。現実の分析っていうのは、目の前の現象をていねいに見て、どんな手が打てるのかを考えることです」

特に平和主義については全く信用していない。

「軍隊なかったら平和になるんだっていう極端な平和主義が裏返しになったみたいなね。世の中は危ないんだからガツンとやるしかないっていう。これは逆の軍事崇拝みたいな感じで、教条的ですよね。敵がとう動くのかって考えてないんじゃないかな。」
脅せば秩序が保たれるどころか、脅したら戦争になるかもしれないということです。」
「平和っていうのはそんな観念よりも具体的な、目の前の戦争をどうするか、戦争になりそうな状況をどうするかって問題なんです。平和主義を守るか守らないかってことよりも、具体的な状況のなかで平和も作る模索が大事だって思ってます」

本書では「日本は核を持てば本当に安全になるのか」、「デモクラシーは押しつけができるのか」、「日本の平和主義は時代遅れなのか」といったシンプルかつパワフルな質問に著者が丁寧に答えていく。

そして最後の「アジア冷戦を終わらせるには」では、米中関係が今と違って安定していてアジアでは当時唯一の懸念であった北朝鮮との冷戦を終わらせる具体的な方法について語っている。そこでも「平和を作る」努力を強調する。

「国際政治の選択というと、どうしても平和を祈ることと軍隊を派遣することの両極にいきがちになる。でもそのどちらも、実は状況を見ていない。いま必要なのは、現在の紛争や将来の紛争を招きかねない緊張のひとつひとつについて、できる限り犠牲の少ない対策を作り、その実現のために努力することでしょう。」
「問題は憲法を守ることじゃなくて、日本の置かれた地域から軍事紛争の芽をどれだけ摘みとることができるのかっていうところにあるんです。平和はお題目じゃない。必要なのは祈る平和じゃなくて、作る平和です。」

著者は、最近の東京新聞のインタビューで、ロシアのウクライナ侵攻については欧米の抑止戦略の失敗だと分析し、台湾有事については「中国に国際社会に協力した方がいいと理解させ、日本が中国と協力する準備があることを示さないといけない。必要なのは外交努力だ」と指摘している。

「国内社会向けに終始しがちだった日本の平和主義」を国際社会を作るという現実的な平和形成につなげる好機ととらえることができるかどうか。まさに日本の外交力の実力の見せ所だ。

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