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ブックレビュー「超一流になるのは才能か努力か?」...来シーズンこそはCarv!

もう10年ほど前になると思うが、英国からの帰国便の中でMalcom Gladwellの”Outlier(邦題「天才! 成功する人々の法則」)”を読んでいると、隣に座っていた英国人が「その本は良い本だよね」と声を掛けて来た。たしか理系の大学教授で日本の大学に用があるようなことを言っていたと思う。

Malcom Gladwellは同書で、彼が編み出した「一万時間の法則」を提唱することで有名になった人だ。端的に言うと、「たいていの分野では達人の粋に到達するには一万時間の練習が必要だ」、とするものだ。

実はGladwellの「一万時間の法則」は、今回紹介する「超一流になるのは才能か努力か?(原題:"PEAK Secrets from the New Science of Expertise"」の著者Anders Ericksonが共同研究した論文を引用したものなのだが、そのEricksonは本書で、Gladwellは誰でも能力を伸ばすことができることを周知させた貢献はあるものの、「一万時間の法則」は間違っている、とはっきり指摘している。

まず一万時間には意味が無い、とする。Gladwellはバイオリンかのトップクラスの学生が20歳までに注ぎ込んだ時間を一万時間としているが、論文で研究対象としたバイオリン科の学生は、将来性はあったものの、20歳当時ではまだ到底トップクラスの粋には達していなかったという。しかもバイオリン以外の楽器、例えばピアノの場合、国際的なピアノコンクールで優勝するのは30歳前後だという。

次にトップクラスのバイオリン学生にしても一万時間という数字は平均値でしかない。Ericksonが研究したトップクラスの学生10人の内、半分はその年齢までに一万時間の練習を積み上げていなかった。

さらにGladwellは一万時間の練習の質を問わなかった。どんな練習でも良いとしているが、そこをEricksonは否定する。単なる練習では無く、「限界的練習」が必要だというのだ。

それでは「限界的練習」とはどういうものか。Ericksonは次のようにその特徴を挙げている。

・すでに他の人々によって正しいやり方が明らかにされ、効果的な訓練方法が確立された技能を伸ばすためのものである。
・学習者のコンフォート・ゾーンの外側で、常に現在の能力をわずかに上回る課題に挑戦しつづけることを求める。一般的に楽しくはない。
・明確に定義された具体的な目標がある。
・学習者には全神経を集中し、意識的に活動に取り組むことが求められる。
フィードバックと、そのフィードバックに対応して取り組み方を修正することが必要だ。
・有効な心的イメージを生み出すと同時に、それに影響を受ける。
・すでに習得した技能の特定の側面に集中し、それを向上させることでさらなる改善や修正を加えていくことが多い。

本書では本物のエキスパートが見極めにくい分野として、最高の医師、最高のパイロット、最高の教師を挙げ、さらに最高の企業管理職、最高の建築家、最高の広告代理店経営者となると見当もつかない、と指摘する。

ビジネス界ではそれでも限界的練習に近い取り組みを行うコンサルタントもいるようだ。アート・タロックがその一人で、彼は顧客が新たなスキルを練習し、能力を伸ばしていけるように、コンフォート・ゾーンから追い立て、フィードバックの大切さを説く。世界トップクラスのリーダーの特徴を研究し、優れたプレイヤーになるためのリーダーシップ、営業、自己管理能力を探る。

さらにアートは次の三つの誤解を排除することが必要だという。

・人間の能力の限界は遺伝的特徴によって決まっているという考え方。
・何かを長い間継続すれば徐々に上達するというもの。
・努力さえすれば上達するという考え方。

限界的練習の原則は、これらの考え方とは全く異なり、誰でも能力を伸ばすことが出来るが、それには正しい方法が必要である、とする。アートの場合は、時間の無いビジネスピープルに対して「仕事しながら学習法」、企業の日常業務を目的のある練習あるいは限界的練習の機会に変える方法を考えた。

アートはまた技能を向上させることとダイエットは類似している、と言う。いわゆるリバウンドのことである。目的のある練習あるいは限界的練習を長期にわたって継続できる人は、毎日一時間以上、完全に集中して練習している。しかし多くの人はそれをやめてしまう。やめないためには、練習を妨げる要素を最小限に抑え、身体の調子を整え、集中力を維持するように練習時間を一時間で区切るのも有用だ。

意欲を高めるには、自分は成功すると信じる気持ちだ。外発的意欲として他者からの承認や尊敬も社会的意欲に貢献する。目標に向かって併走できる仲間を見つけることも有用だ。しかし最終的に長持ちさせるためには内発的意欲が必要だ。

さて、本書あるいはMalcom Gladwellの間違った「一万時間の法則」は、遺伝的な能力の限界は否定する一方、単なる経験や意味の無い練習の蓄積の効果には疑問を呈し、目的のある、あるいは限界的練習を継続すれば一流になれると主張している。

私はスキーヤーで、還暦を迎えても未だに上手くなりたいと目指しているが、限界的練習をしているかというと残念ながら必ずしもそうでは無い。

そもそも私のやっているいわゆる基礎スキーは、タイムを計るものでは無く、エッジングの切れや安定性を審査員が主観的に評価するもので、客観的指標が示し難い。そして主観的な評価には偏見が絡みやすい。

また一流のデモンストレーターに教わることもあるが、それもシーズンに数回程度で、頻繁に彼らからフィードバックを受けている訳では無い。また驚くほど人によって違うフォーカスがあり、何が本質的なことなのかを見極めるのが極めて難しい。

それでも諦めずに一流を目指すとしたら、どうしたら良いのだろうか。まず自己抑制により意欲を失わず、毎日一時間以上集中して練習する機会を設ける。そして客観的なフィードバックとそれに基づいた修正の回数を増やす。

そのためにもCarvのようなデジタル・ツールを導入するのは有意義かもしれない。来シーズン、マジで考えようかな。



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