見出し画像

理屈ではない気持ちと現実

最近私が職場で特に気にかけている赤ちゃんがいます
仮にその赤ちゃんをAちゃんとします。
今回はAちゃんの退院までのお話です。

Aちゃんは3週間ほど前に私の勤務する病院にて産まれ入院しました。
私の勤務する病院で産まれても、入院となるケースは多くはありません
多胎(双子ちゃん以上)児、あるいは 疾患の可能性がある場合 入院となります。

最近の入院では未受診出産で入院となる場合が以前に比べて多くなりました。
未受診・・・出産まで1度も産科受診なく、いきなり出産する
Aちゃんは未受診で産まれました。加えて呼吸機能低下の為 入院となりました。

産まれてすぐ名前がついている子はいません。
保護者さまが名前をお決めになっていたとしても、名前の届け出の後に病院に名前をお知らせいただくこととなっています。
そのため、殆どの赤ちゃんは入院中は名字で呼ばれます。

Aちゃんも産まれて直ぐの入院時は名前は付いておらず、名字で呼ばれていました。
病院内で出産された場合、お母様が同じ病院に入院ということで
余程お母様の体調不良などでなければ、出産した翌日には お母様は産んだお子さんに面会にいらっしゃいます。
ところが、Aちゃんのお母様はいっこうに面会に来ません。
シングルマザーとのことで、お父様はお見えになりません。
お母様ご自身が退院する日に面会にいらっしゃる筈が、面会にいらっしゃいませんでした。
理由は上のお子さんが待っているから、と。

私はその理由を聞いて「え?」と思いました。
上のお子さんはお母さんの帰りを待っているでしょうが、
産まれた赤ちゃんはずーっとお母さんが来てくれるのを1人で待っているんです。結局その後
お母様は1度も面会にいらっしゃらず 3週間ほど経ちました。

深くは書けないのですが、上の子が待っている、は事実ではありませんでした。
お母様は21歳。お子さんを既に4人出産。
自分で育てている子はおらず、施設や実母に預けている。
退院後、お母様は父親である"内縁の夫らしい人" の ″お店″ に行っていたことを
御本人が後に担当ナースからの電話にて話したとのこと。

話をAちゃんに戻します。
Aちゃんは色白で目がスッキリ、シャープで凛々しく鼻筋が通っています。
新生児としては既に整ったお顔立ち。
入院したばかりは、点滴をしミルクが飲めず、ちぃさな声で泣いてばかり。
保育士として出来るのは、声掛けと抱っこ。
未受診の赤ちゃんは暫くビニールガウン対応です。ガウン越しに抱っこし声をかけなだめます

入院して暫く経ち、ガウン解除となり点滴も外れ、ミルクの許可もおりました。
呼吸機能は成長につれ正常値に。
ゴクゴクとミルクを飲めるAちゃん。泣く声は大きく、手足の動きも大きく強くなりました。
周りの赤ちゃんは毎日保護者の方がいらして数時間抱っこされたりお声をかけで、嬉しそう。
Aちゃんは一人ぼっち。
私達保育士の出番です。お隣の赤ちゃんがご両親に抱っこされてお写真を撮ってもらい、幸せな空気感が漂っています。
Aちゃんには私達保育士が交代で抱っこし、声をかけ笑顔で寄り添います。
それでも3週間経って、なかなか笑顔がAちゃんから見られません。
私は笑顔が見たくて、自分がシフトの際はなるべくAちゃんの動きを見て、起きている時は
必ず声をかけ、泣いている時は他の赤ちゃんの
お世話をしていなければ、必ず1番にAちゃんに向かい、
「どうしたの?」と声をかけ抱き上げていました。

一昨日、担当ナースさんにミルクをもらった後、暫く泣き止まないAちゃん。気になっていたものの私は別の赤ちゃんのお世話をしていました。
そのお世話が終わり、まだ泣いていたAちゃんの抱っこ担当に。
30分は抱っこできそうだな、とその時の時間と自分の業務を鑑み、ゆったりとAちゃんを抱っこして話しかける私。
「どうしたの?ミルクもらってたよね?」
と声をかけ、雨がかなり降っていたその日。
雨の話をAちゃんにして、
私は ″あめふりくまのこ″ をゆっくり歌いずっと抱っこしていました。
20分位経ちAちゃんがウトウト・・・そしてコット(ベッド)にAちゃんを戻そうとすると、私の二の腕をギューッとちぃさな手が離しません。手を外そうとすると、今度はビニールエプロンを掴みビローンと伸びたエプロンが。
「Aちゃんは抱っこ大好きだもんね。じゃあ
もうちょっと抱っこしようかな」
私は時間ギリギリまでAちゃんを抱っこしました。スヤスヤ寝息を立てるAちゃん。コットに戻ると眠りながらの にっこり!!
あーなんて可愛いんでしょう!!私は思わず
「Aちゃん、笑ってくれたの?可愛いね!又
抱っこするからね!」
とAちゃんのお顔近くにてちぃさく声をかけました。
それからのAちゃんは、時々笑顔を見せてくれるようになりました。
私はAちゃんが可愛くて可愛くて。

ある日、Aちゃんの退院が間近であると聞きました。
Aちゃんは何処に?と考えると悲しい気持ちに。Aちゃんは退院後は施設送致と。

電話にて施設へ送致希望を連絡してきたお母様。
病院としては、送致の前に書類や打ち合わせ、何よりも1度はAちゃんを見て抱っこしてあげて欲しい、と伝えました。
約束の日を3回飛ばし、お母様は先日初めて面会に。

長く美しい黒髪の内側は今流行りのメッシュを入れお化粧バッチリ、香水も漂う。
見た目から若さがみなぎっているお母様。
Aちゃんの上に4人のお子さんがいるとは到底見えません。

お母様がAちゃんと初対面に私はたまたま立ち会うことに。
「A・・・」とお母様がAちゃんの名前を呼ぶ。名前を付けたのはお母様の筈。
するとAちゃんは満面の笑みを浮かべた。
手を差し出すことはまだしないけれど、Aちゃんの精一杯の表現であり、私は思わず
「こんなに満面の笑みを浮かべるなんて!Aちゃんは お母さんが大好きなんですよ!
Aちゃん、可愛いですよね!!」
と興奮して言葉が出てしまいました。
お母様は困惑そうに
「あ、そうですか・・・」と一言。
担当ナースに抱っこを促されお母様がAちゃんを抱っこすると
Aちゃんの嬉しそうな顔といったら!!
お母様はAちゃんとじーっとみつめていました。
何も声掛けはありませんでしたが、抱っこの間
Aちゃんは終始満面の笑顔でお母様をジッと
みつめていたのです。

淡々とお母様は病院側と話を進めていました。
その間、私はAちゃんを抱っこすることに。
業務中なのに、何故か涙がこみ上げてきます。
でも泣く訳にはいきません。
グッとこらえていました。
Aちゃんは私をじっとみつめています。
ミルクをあげるとAちゃんは満足そうにして
スヤスヤ眠ってしまいました。

お母様は1時間ほど病院にいらっしゃいました
Aちゃんは退院が1週間ほど伸びることになりました。
お母様が迎えに来ることになったのです。

Aちゃんの顔を見て、「Aちゃんは自分で育てる」と。
お母様はAちゃんのお父様にあたる、内縁の夫に瓜二つのお顔のAちゃんを、出産後初めて見ることで知り、Aちゃんを傍に置きたいと思ったとのこと。
Aちゃんを愛しく思っての引取りではないようで、病院としてはお母様の真意を お迎えまでの1週間で確かめることになったのです。

とはいえ、Aちゃんのあの満面の笑み。
私達保育士が心を込めて3週間近く笑顔を見るのに時間がかかったところを、お母様は一瞬で満面の笑みを引出しました。

Aちゃんは、来週退院でお母様のお迎え予定。
お母様には理由はともかく、Aちゃんを施設に送致でない決断をされたことに、心から感謝をしています。
私は間近でAちゃんの精一杯のお母様への自分のアピールの笑顔を見ていました。
Aちゃんのこれからの笑顔を心から願わずにはいられません。

赤ちゃんにとってお母さんは 理屈ぬきで
唯一無二の絶対的愛情の全てを任せたい相手。

現実はどうであれ、理屈はなしで お母様には
Aちゃんの笑顔を大切にして欲しい。
どうかAちゃんの笑顔を絶やさないように傍にいて 時には抱っこしてあげて欲しい。

願うことしか出来ない私は、あと1週間Aちゃんとの時間を大切に愛情をたっぷり注ぎます。


今日も1日が始まります。
自分の機嫌を取り
気持ち良い1日を過ごします。

#ジブン株式会社マガジン


この記事が参加している募集

今こんな気分

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?