ある家の野良猫

近所に「野良になった猫がいる」と聞いて耳を疑った。

その子は茶色と白の明るい毛色をしていて、人懐こい性格だった。

人が通り過ぎても動かず、見つめると「にゃー」と低い声で甘えて撫でてアピールをしてくる。

「飼い主のおばあさんが倒れて、外に出されたっきり、そのままこの付近で野良になってるんだって」

なんて悲しいんだろう。もともと住んでいた家の前で野良になるなんて、夜は家に入れて貰えてるの?暑い日は?寒い日は?ご飯はちゃんと貰えてるの?

そんなことばかりが頭をよぎった。飼い主だったおばあさんは家に戻ってきていないらしい。そこに家族は住んでいるはずなのに、家で飼ってもらうことはできなかったのか…。

やりきれない思いを抱えたまま、いつもその猫がいないかどうかを気にして、その道を通る。

家猫から野良になったというのに、その子は人を警戒せずに甘えている。おおらかな性格に感心した。可愛がられていたのだろう。愛嬌のない野良ネコは食いっぱぐれることが多いらしいから。

そして、聞いた話では近所の人が決めてはいないが変わりばんこでご飯を上げていると言っていた。

せめて、飢えて苦しむということがこの子に起こりませんように…。

家でぬくぬくと過ごしてきた子が野良になる…。仕方のないこともあるかもしれないけれど、猫の気持ちやおばあさんの気持ちを考えると、やるせなくなった。



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