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カストディアンと大量保有報告について(5%以上保有していても大量保有報告しなくて良いケースはあるの??)

ファミリーオフィスの仕事柄、大量保有報告書や有価証券報告書から大株主の変遷をチェックしたり、株式売却がらみのイベントを読み取ったりすることが多々あります。そんななかでずっとなんとなく分かっているようでよく分かっていなかった、外資系金融機関名で出てくるカストディアン名義と実質保有者の違いについての記録です。(他部署(VC)の方から「大量保有報告制度って詳しいですか?w」との質問があり、「ま、まあ詳しいはずです。。はい。。」と答えたものの、即答出来ず。。悔しいので調べました。。間違っているところなどあればご指摘いただけますと幸いです。

今回は2019年12月に上場したfreeeについて「有価証券報告書に載っている大株主のゴールドマンサックスが7%ちょっと持っているのに大量保有報告書出してないんです。なんでか分かります?出し忘れですかね?」という質問から始まりました。

freee大株主GOLDMAN,SACHS&CO.REGの事例

freeeの第8期(令和1年7月1日~令和2年6月30日)有価証券報告書、大株主の状況を見るとGOLDMAN,SACHS&CO.REG(常任代理人ゴールドマン・サックス証券株式会社)が出てきます。こちら2020年6月30日で7.17%と記載があり、大量保有報告のルール上、報告書の提出が必要な5%を超えているのが分かります。

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EDINETで大量保有報告書の方を見ると確かにゴールドマン・サックスの名前は見当たりません。うーん、本当に出し忘れなのか??

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財務局担当者の見解

普段、実務的なとこは「こんなケースどうするんですか?」「これ開示不要の認識であってます??」などよく財務局担当者に電話して聞きながら判断してるので、例によって財務局の方に電話をしてみました。
・出し忘れですかね?⇒ゴールドマン・サックスで出し忘れは無いと思います。
・じゃあどんなことが考えられますか?⇒カストディアンだから議決権保有者がその先にいて見えなくなっているケースだと思います。
なるほど。。カストディとかカストディアンとか言葉知っているがあまり詳しくない分野だったので良い機会ですね。整理しました。

カストディアンとは

まず、カストディとは投資家が保有する有価証券の保管、受渡決済、議決権行使などの業務を指し、カストディアンとはそれを受託する金融機関のことつまり、投資家に代わって株式や債券など有価証券の保管・管理を行う金融機関のことです。特に国外の有価証券に投資をする際、現地で有価証券を管理する金融機関のことを言います。

「GOLDMAN,SACHS&CO.REG」について調べていくと、ゴールドマンサックスのカストディアン口座は下記3つ。

・ゴールドマンサックス・インターナショナル
・ゴールドマンサックスアンドカンパニーレギュラーアカウント
・バンクオブニューヨークGCMクライアントアカウントEISG

2番目と一致するのでfreee第8期有価証券報告書に記載されているのはカストディアン口座であることが分かりました。また、細かく言うとこれは米国でのカストディアンで、先ほどのfreee第8期の有価証券報告書には(常任代理人ゴールドマン・サックス証券株式会社)とあり、これは日本でのカストディアンとなるようです。

カストディアンと実質保有者は別のときがある

財務局担当者の「カストディアンだから議決権保有者がその先にいて見えなくなっているケースだと思います。」の回答について、議決権保有者が見えないとはどういうことか?これは、投資目的やネームを明かしたくない5%未満freee株式を実質所有している投資家が居て、カストディアンのGSと信託契約を結んで保有している可能性が極めて高いということ。年金基金、大学、産油国王族ファミリー、中国の富豪とか??でしょうか。
信託契約は契約内容の作りこみによって、実質所有しているかどうかの概念に関わる議決権や行使権を名義人と分離することは可能です。なので名義人として見えているGSと別に実質保有者がいるというのはありえます。
ここから先、実質保有者バイネームのトレースをすることは不可能な次元に突入するため、カストディアン名義と実質保有者は別のときがあるということで整理は終了したいと思います。。

制度的に報告しなくて良いケースにあてはまるのか?

次に信託契約を内包するカストディアンが大量保有報告書を提出しなくても良いのかを大量保有報告制度から確認してみました。最も関連深いと思われるのは下記の関東財務局Q&A、Q8の内容でした。

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・信託財産に属する株券は信託契約の内容で判断する。
・議決権の行使権or指図権を持っている、かつ、事業活動を支配する目的を有する場合。
・投資決定権を有している場合。
・上記両方を合わせ持つ場合。
裏返して考えると、カストディアン名義で5%以上保有しているように見えても、信託契約により議決権・その行使権or指図権・投資決定権が実質的に別の投資家に帰属しているのであれば大量保有報告書は提出しなくて良いこととして読み取れます。
念のため、金商法第27条の23抜粋を添付します。

InkedFireShot Capture 699 - 金融商品取引法(抄) 第27条の23 大量保有報告書の提出 - 法令集 - www.zeiken.co.jp_LI

ここまでで、GOLDMAN,SACHS&CO.REG=カストディアン口座のため、信託契約でその先に複数の委託者(年金基金や大学とか)がいる。信託契約で実質的な投資家は隠れ蓑に隠れて見えないのですが、実質的な投資家の保有割合が個別で5%超えていなければ大量保有報告出さなくて良いということが見えてきました。

5%以上保有しているが大量保有報告書提出していない他の事例チェック

じゃあ、他に同様の事例がないかということでチェックしてみました。
こちらはIRBANKという決算まとめサイトが提供しているGOLDMAN,SACHS&CO.REGの有価証券報告書ベースで大株主として登場する一覧です。
このうち、帝国電機、イーガーディアンが2019→2020で5%超えているので、大量保有報告出ているかチェックしましたが、出ていませんでした。freeeと同じパターンですね。
他、一覧で単純に5%超えている銘柄もチェックしましたが、どれも大量保有報告出ていないですね。
これらも、信託契約で議決権・その行使権・指図権がGSではなく委託先に分散しているものと思われます。

まとめ

・カストディアン名義で5%以上保有していても大量保有報告書を提出しなくて良いケースはある。ルール違反ではない。
・出し忘れではない。
・それらはカストディアンの先に実質的に保有する投資家の存在があるが、実体が見えなくなっているもの。

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