マガジンのカバー画像

15
作品集。
運営しているクリエイター

#お別れ

『蟹座の溺れかけた町』

ある春の終わり、3年と少しの時間を一緒に過ごした彼と別れを決めた僕は、勤めていた映画館で知り合い、長い年月付き合いを続けることになった女友達の引っ越した、京都へ遊びに行った。その帰りのバスの中で、ぼんやりと外の景色を眺めながら、彼のことを考えていた。 そのおよそ一年前、半ば突発的にある人の死で背負うことになった悲しみに折り合いをどうつけて良いのかわからず、少しずつ変わってしまったふたりの空気。自分以上に彼の方がつらさは大きかったはずなのに、繋いでいたはずの手を手放したのは僕か

『虹のむこうに』

2006〜2007年頃の作。 思えば、結局こんなふうに大事にしていた人とも 離れ離れになってしまって、時間が経った。 一緒にいる人は変わってもその人のことを、 忘れるわけじゃないし、変わらずに大切に思う。 そんな人が増えていくってことを 悲しいことや寂しいことだとせずに、 嬉しいことなんだって思えるようになれたら、 またひとつ、素敵な出会いがそこにあったんだって 受け入れていけるんだなって今だからこそ言い切れる。 ずっと一緒にいたいと思うのは、素晴らしいこと。 でも、ずっ

『僕が君にできたこと』

出来ることは全部、 やったつもりでいた。 嘘も我が儘も聞いてきたんだ。 知らない振りだってしたし。 待ち合わせも、時間なんていくらでも待てた。 誓いは叶わずに ふたりは離れた。 悪戯に「もう、ダメだね」と よく言ってたけど... 問い質す言葉に 意味を求めたってきっと 仕方がないから ただ「そうかもね」って。 君の見ていた夢を嘲笑う、 すべてのものから守りたかった。 その輝きが好きだった、 住み慣れた街を捨てるのも 怖くない程に。 乗り越した駅で、居場所なんかないのに。