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『アウトプット大全』

いまさら感あるけど読みました『アウトプット大全』。

 読もう読もうと思いながら読まずに積読していたところ、テレビ東京『FOOT×BRAIN』で、作者の樺沢氏がサッカーを絡めアウトプットについて語っているのを観た。うなずけるところ、逆に首をかしげてしまうところがあり、これは自分の目で確かめるしかないと読むことに。

 正直、特別に真新しいこと、斬新なことは書かれていない。アウトプットに関する心理学の紹介と作者の考え、みたいな感じだ。ただ、薄々考えてはいたものの綿密に言語化できていなかったことを、いくつかのシンプルなキーワードと適切なたとえ話をまじえ説明してくれるので、脳内を整理するにはちょうどよかった。

 なかでも印象に残っている内容と雑感を、つらつら書き出していこうと思う。アウトプットのために。


運動性記憶

「書く」「話す」といった運動神経を使った記憶のこと。分かりやすい例で言えば、自転車の乗り方といった運動と連動した記憶のことで、記憶に残りやすく一度覚えたら忘れにくいという特徴がある。勉強においては「書いて覚える」「声に出して覚える」ようにするだけで運動性記憶として記憶することができるそうだ。

 自分の経験則から言っても、机にへばりついてじっと目だけを使って暗記しようとしたときよりも、ジェスチャーや他の五感もフル稼働させて覚えたときのほうが記憶に定着した。単なる情報として脳に格納するのではなく、肌や身体に浸透させる感じというか。言葉通り、運動性記憶は「身になる」気がする。

 余談だが、最近英語の勉強を始めた。語学なんかは特にこの運動性記憶の効果をフルに活用できる分野だと思うので、自分実験台に試してみたい。


ザイオンス効果

 アメリカの心理学者ザイオンスの実験によって明らかになった効果で、日本語で単純接触効果とも呼ばれる。どうやら接触回数が増えるほど人の好感度は高くなるらしい。人と話すとき、練りに練ってココ一番の小話を披露するより、なんでもいいから声をかけ接触回数を稼いだほうが好感度が上がりやすいという。ようするに質より量。

 もし父親になる日がきたら、年一度の豪華家族旅行で挽回しようとするのではなく、日ごろから交流する機会を増やして好感度を上げる作戦でいこうと思う。とはいえ、ザイオンス効果を過大評価して絡みすぎると嫌われる可能性もあるので要注意だ。距離感大事。


ヤーキーズ・ドットソンの法則

 その名の通り、ヤーキーズとドットソン博士によって明らかにされた法則で、人間は適度な緊張があったほうがパフォーマンスが向上するというもの。ストレスは強すぎても弱すぎてもダメだという。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」とはよく言ったもので、自分の過去を振り返ってもたしかにそう、鬼のような教師に指導されていると過度に委縮して本来の力を出せなかったし、逆に仏のような教師に遠くから見守られていると過度に弛緩してパフォーマンスは低下した。

 この「適度な緊張」というのが難しい。ぼくは元来緊張しいで、すぐに顔が赤くなる。顔が赤くなっている自分を意識すると、そんな自分が恥ずかしくてもっと顔が熱くなる。気がついたらアガりきっていて、どうにもこうにも使いものにならない。

「緊張は敵ではなく、味方である」
 本にはそう書いてあった。緊張してきたら「ヤバいよヤバいよ」と自分の首を絞めるのではなく、「ノルアドレナリン分泌、パフォーマンス向上中!」と、自分を奮い立たせられるぐらいのマインドで逞しく生きていきたい。


想像性の4B

 アイデアが生まれやすい場所として、「Bathroom」「Bus」「Bed」「Bar」の4つが挙げられていた。共通点はリラックスしていること。

 たしかに、自分がなにかを思いついたり忘れていたことを思いだしたりするのはシャワーを浴びているとき(Bathroom)だ。アルキメデスが「ユリイカ!(分かった! という意味)」と叫んだのも入浴中だった。ちなみに、アルキメデスは「ユリイカユリイカ」と2回叫んだあと、浴槽から飛びだし、人に伝えたくてたまらず全裸でシラクサの街を疾走したらしい。当時のギリシャでは男性が裸で運動するのは珍しいことではなかったようだが、現代日本でやったら即捕まるのでよい子はマネしないように。

 移動中(Bus)も、ふとひらめくことが多い。移動中という大きなくくりで言うと、哲学者のカントは散歩が日課で、毎日同じ時間に歩きながら思索を深めたという(歩くことで血流がよくなる、同じ時間に行うことでルーチン化される、といった別の要因も作用してそうだが)。東京に住む自分の場合、移動というと基本的に電車になるのだが、あの流れる景色がいいのか、あるいはあの小刻みな揺れがいいのか、それともあの雑多な騒音がいいのか、もしくは目的地までというあの時間制約がいいのか、考えごとをするには電車は持ってこいで、仕事のアイデアなんかはほぼ電車で練っている。

 Bedについても、リラックスすることでひらめきが生まれる、と解説されていた。ぼくは、ベッドに横になるとリラックスしすぎてなにも考えられなくなる。寝床でひらめいた覚えがない。著名な作家や映画監督の、枕元にノートとペンを置いてひらめいたら飛び起きてメモをとる、みたいなエピソードがかっこよくてマネをしたことがある。「ねむい」と書いただけで終わった。

 最後のBarについても、アルコールが入ると完全に思考が鈍り、ひらめきから遠ざかる。さっき書いたヤーキーズ・ドットソンの法則と同様で、「適度」なリラックスが大事なのかもしれない。そういえば、高校の漢文の授業かなにかで、文章を考えるのによい場所として「三上」を習った。「馬上」「枕上」「厠上」この三つである(ばじょう、ちんじょう、しじょう、と読みます。念のため)。

 さっきの4Bに対応させると「馬上」=「Bus」、「枕上」=「Bed」、「厠上」=「Bathroom」となり、Barに対応するものがない。文化や習慣の違いだろうか?


ファーストチェス理論

 この理論によれば、最初の判断は概ね正しいらしい。プロのチェスプレイヤーに5秒で次の手を決めてもらったときと30分かけて次の手を決めてもらったときで結果を比べてみると、86%で結果が同じになったそうだ。プロだから知識も経験もあっての上での判断だという点は考慮が必要とはいえ、直感を信じる、最初に思いついたほうを優先するのが大事というのは、自身の過去に照らしても納得できる話だった。選択式の試験で、最初に選んだ選択肢を熟考して別のものに変えたら、最初のものが正解だった、みたいな経験は誰にでもあるはず。

 直感というとギャンブルのようなよくないイメージがまとわりついていて敬遠されるかもしれない。しかし実際は、経験と本能がほどよくブレンドされていて成功する確率が高い。もっと直感を信じてあげよう、と考えを改めた次第だ。


まとめ

 ここまで、自分のフィルターに引っかかった内容とそれに対する感想をつらつらと書きだしてきた。アウトプットという自身の気になる分野であること、しばらく読書から遠ざかっていて読書欲が高まっていたこともあり、最後まで集中して読みきることができた。ひとつひとつの内容が頭にすいすい入ってきたのは、著者の文章の簡潔さ、書籍の構成の分かりやすさによるものだと思う。

 気になった点としては、後半にかけて著者の自分語りが増えてくること。自分はこうやっている、まではいいとして、こんなにフォロワーが増えたみたいな自慢に近いような話が増えてくると、読む側の温度は下がった。おそらくこの本を手にとった多くの人は、この「著者の名前」を見て買っていない。この本が売れていると聞いて「著書の名前」で買っている。著者が累計何冊本を出していようがフォロワーが何人いようが、一見の読者には関係のない話で、その文字数があれば他の理論を知りたかった、というのが正直な気持ちである。

 と少し厳しいことを言いつつも、そういった面も含めて学び多い読書体験だった(了)












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