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ひとつの空席

今日バスに乗っていたら

杖をついたおばあちゃんが乗ってきた

「あ,譲らなくちゃ」

そう思ったけど私は窓側の席

隣にも座っている人がいた

バスはなかなか混んでいて

他に空いている席はなかった


そしたら私の前に座っていた人が

「どうぞ」って席を譲った

おばあちゃんは嬉しそうに

「ありがとう」って返事をした

そして「隣,座っていいよ」と

2人掛けの椅子の左側を指さした

だけどその人は

「体が大きいから,窮屈になっちゃうから」

と笑いながら答えた

おばあちゃんは何度か「座って」と言ったけど

その人は何度か同じように笑って答えた


ひとつ席は空いたまま,次のバス停についた

乗ってきた人はその空いた席を見つけて

どかっと座った

後ろから見るおばあちゃんは

なんだか悲しそうだった

私の隣に座る人は

自分の手元に夢中だった


それからしばらくして

赤ちゃんを抱っこしてリュックも背負って

買い物袋も持っている人が乗ってきた

「あ,譲らなくちゃ」

そう思ったけど私は窓側の席

その人の目の前にいる人は

入口近くの横長の椅子に座って寝ていた

空席は一つもないまま,2つ先のバス停についた

乗ってきた人は空いた席を見つけて

どかっと座った


次のバス停についたとき

席がひとつ空いた

その席を見つけて

赤ちゃんとお母さんは座った


その後ろ姿を見て私は心の中でつぶやいた

「3つ分長く,立たせてしまってごめんなさい」


そうつぶやいた時も

何事もなかったように

みんな静かにバスに乗っていた


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