見出し画像

花の中の花は花の名三島の忌

30代の一時期、俳句を詠んでいた。俳句は季題を含めて17文字から成るので、言葉を断捨離しなければならない。説明的になったら、詩は死んでしまう。私の詩作の上で、俳句を勉強した事は大変プラスになった。俳句にとって1番大切なのは季題の選び方だろう。メタファー同様、季題とそれ以外の部分がかけ離れていながら寄り添う時、作品に広がりが生まれる。

花の中の花は花の名三島の忌
                 橘しのぶ

季題は「三島忌」、初冬。憂国忌、由紀夫忌とも言う。小説家で戯曲家の三島由紀夫は、一九七〇年十一月二十五日に「盾の会」のメンバーらと自衛隊の市ヶ谷駐屯地に乱入し割腹自殺をとげた。当時10歳だった私は、学校から帰ったら、テレビ画面いっぱいに演説している男が写っていた(中継ではなく、録画のニュースだったと思う)その時は、まだ三島作品は読んだことがなかった。後に、三島の文章の虜になって初めて、三島の自決は最も彼らしい了り方で、彼の芸術は死によって完結された事を理解した。

「花の中の花」は、精油を採取するイランイランという植物。タガログ語。Ylang Ylangと英語で表記する。インドネシアでは新婚カップルのベッドにその花びらを敷きつめる風習があるほど甘く官能的に薫る。アロマテラピーを習っていた頃、最も好きな香りの1つだった。

耽美的で品格の高い三島作品は、どれを読んでも私を酔わせて止まない。まさしく私にとって、三島由紀夫は、芸術の中の芸術、花の中の花である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?