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蝶  ルナール『博物誌』より

蝶    Le Papillon

二つ折りの恋文が、花の番地を捜している

               ルナール『博物誌』より 岸田国士訳

 風に舞う蝶は確かに恋文のようだ。翅と翅の隙間から、愛の言葉が鱗粉になってこぼれ落ちる。息を呑むほど美しい一行詩である。

 去年の夏、庭のパセリに、2匹、キアゲハの幼虫がいるのを見つけた。保護して(以前そのままにしておいたら、天敵に食べられたようだった)プラスチックケースで飼育した。黒白の芋虫は脱皮して、緑の芋虫になり、やがてさなぎになり、無事、2頭の蝶が生まれた。(画像の蝶です)
 その数日前、私は、愛猫を病気で喪ったばかりだった。精一杯看取ったつもりだったが、ああすればよかった、こうするべきだったと、悔いが溢れて、私は溺れそうになっていた。そんな時、蝶という小さな命は、私に、小さな光もたらしてくれた。あの蝶は、星になった猫からの2通の恋文だったのかもしれない。夏から秋への風の頁をめくったとき、猫の首につけた鈴の音色がこぼれ落ちた。

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