小銃さえ満足に手入れできない陸自に戦車やヘリの開発や調達、運用ができるのか?


 昨日某証券会社からお座敷がかかって、オンラインセミナーで講師を勤めてきました。
防衛産業に対するお話をさせていただきました。

 さて、以前から何度もご案内しておりますが、陸自は小銃の手入れも知りません。
89式小銃の教範には射撃後のクリーニングではクリーニングロットは銃口から入れろとかいてあります。ですが、これをやると銃身内部が傷みます。ですから本来は薬室側から挿入しなければならない。
 
 射撃をすると銅着という現象が起こります。これは弾丸を被覆している銅が、銃身内にこびりつくものです。通常のオイルなどでは除去できません。ですから専門の薬剤が溶かすのですが、自衛隊は入れていません。
 これらは空海自衛隊でも同じでしょう。

 そして外国では普通に行っている銃器の定期的なリファブリッシュもされておりません、陸自では整備の段階にもよりますが、補給統制本部まで送り返すと、銃身交換や表面のパーカーライジング処理等のほぼ新品に近い状態まで戻す整備が可能です。ですがが、部隊に予備の銃が殆どなく、送り返せずボロボロのまま使われているのが現状です。
対して 空自、海自は組織内ではそこまではできませんので、メーカーに送り返してオーバーホールをしています。

 本来ならば例えば1万丁小銃が必要ならば、それより多めの小銃を予備として調達して、このような場合は隊員には予備の銃を与えて、その隊員の銃をリファブリッシュするのが軍隊では当然です。それができないのは「必要数」しか調達しないからです。ところが「本当の必要数」はもっと多いわけです。これを知ってか知らずか、必要な頭数分いれればいいや、といい加減な調達をしているわけです。
 現場の小銃は手入れが間違っている上に、リファブリッシュされないのでボロボロです。
こんなことで戦争に勝てるのでしょうか?

 そして小銃の調達は無計画で、概ね30年かかっています。内部で計画らしきものがありますが、それが全数、調達期間、総予算が明らかにされず、それを場当たり的に国会が了承するというデタラメがまかり通っています。

 兵隊の頭数しか小銃を調達せずに、30年もかかるのではその間、旧式銃と二重の訓練、兵站が必要であり、ただでさえ高い国産銃の維持コストが更に上がります。
 そして調達後期になれば、はじめに調達した小銃の寿命が来るので、調達予定数の小銃が揃って戦力化されることはありません。
 つまり例えば1万丁を調達しても、最大でも8千丁ぐらいが揃うにとどまるでしょう。であれば計画は完成しないということになります。つまり陸幕には調達計画能力がない、ということになります。これは装甲車両などでも同じです。恐らくは戦時に使える装備の調達が目的ではなく、調達すること自体が目的なのでしょう。

そして杜撰な調達計画のためで5.56ミリMINIMIの調達は約30年かかっても終わらないという無様な結果を迎えました。来年度予算で要求されるであろう。MINIMI Mk3は現行のMINIMIの後継ではありません。調達が完了しなかったので、その足りない分の補填として別な種類の銃を採用したのです。
 そしてその代用銃のコンペからは住友重機が撤退するというおまけが付きました。延々と他国で何倍も高い単価で住友重機の機銃は性能、品質の偽造を続けた挙げ句、同社は逃げ出しました。拳銃のミネベアもライセンス品の9ミリ拳銃の品質が著しく低く、値段はたかく、陸幕は輸入に切り替えました。自衛隊の売上が無くなったことで、同社の拳銃事業は将来撤退するでしょう。

 防衛省はメーカーのライン維持のためで仕方がないと言い訳するでしょう。ですが、それは防衛省の怠慢です。すでに何度も指摘しているように、ミネベア、豊和工業、住友重機、日本製鋼所の火器部門を統廃合すべきでした。多くの国が拳銃から大砲まで生産する企業を持っています。それができないのは防衛省に当事者能力がなかったからです。
 それが実現していれば、例えば5年は拳銃と小銃、次の5年は20ミリ機銃と、迫撃砲などとラインを回していけるはずです。

 普通の軍隊であれば兵隊1万人に1万丁、更に予備の銃を例えば2千丁を6~7年前後で調達します。それは自衛隊でも可能だったはずです。そうすれば量産効果によって単価はやすくなり、調達期間が短縮されて、装備の戦力化の際の必要な数が全部揃う期間が長くなる。兵站や訓練のダブりもなくなります。装備の陳腐化も抑えられます。

 それができないのが防衛省と自衛隊です。
 小銃の手入れすらまともにする方法を知らない「軍隊もどき」の組織が、装甲車両や攻撃ヘリなどの高度な装備の仕様を策定し、開発を指導して、運用ができるでしょうか。

 まともな常識を持った人間であれば、防衛省、自衛隊の能力を疑うはずです。

■本日の市ヶ谷の噂■
 国産のP-1哨戒機は導入開始から10年置きに予定されているアップデートの時期になり、予算化が図られている。が、肝心の対潜哨戒に纏わる部分で性能未達問題が囁かれている。米海軍のP-8哨戒機と合同訓練し、P-8が発見した潜水艦をP-1が発見できなかった、との噂。


週刊東洋経済今週号は自衛隊特集です。「世界を常識を知らない装備開発の黒歴史」を寄稿しました。
また企画の段階から関わっておりました。バランスのいい特集になっているかと思います。


週刊東洋経済 2022年7/16号[雑誌](自衛隊は日本を守れるか) - 週刊東洋経済編集部


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