展望なき防衛装備庁の装甲車開発。


防衛装備庁には装甲車開発の展望や戦略はありません。
単に国産装甲車を作りたいという情念だけです。
端的に申せば技術屋の寝言です。
産業として如何に継続、発展させて行くかという視点が全くありません。


我が国の装甲車開発を踏まえた
次世代水陸両用技術の成果と今後の展望

防衛装備庁 プロジェクト管理部
事業監理官(情報・武器・車両担当)付 事業計画調整官
1等陸佐 井上 義宏



https://www.mod.go.jp/atla/research/ats2019/doc/inoue.pdf


1-2 日本における装甲車開発の概要(P7)

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2-3-a.国産技術の概要(日本のエンジン開発の傾向)(P15)

211217装備庁水陸両用装甲車開発_page-0015



国産エンジン、トランミッションすげーだろ、みたいな話です。
これで喜ぶのはテクノナショナリズム大好きな軍オタとか国士様です。

装甲車用のエンジンもトランスミッションも各モデルの調達数が極めて少ない。
それは毎年の調達数が少なく、またファミリー化をおこたってきたわけです。この文書でもそれに対する反省はなく、技術自慢ばかりです。
装甲車の調達は1モデル30年にも及びます。
ですから例えば300両調達するのであれば平均、10両です。エンジンもトランスミッションも10基です。民間の大型トラックと比べて極めて少ない。
30年の途中でとっくに旧式化しています。そしてその旧式化したコンポーネントをメーカーである三菱重工、その下請け企業はラインを30年以上(最後に作ったロットの維持のためには10年は必要でしょう)、40年は必要でしょう。当然ながらコスト効率はたいへん悪い。
そしてそのような少数生産のエンジンの信頼性は高いのか。これまた大変疑問になります。

例えば、エンジンならばMTU、キャタピラー、イベコ、シュタイアーなど、トランスミッションであればレンク、アリソン、ZFのようなメーカーと比べて、性能、品質、信頼性、コストはどうなのか。多分かなわないでしょう。

大量に生産するということは、それだけ利益も大きくなり、研究開発費も多くなります。対して家内制手工業、工芸レベルの我が国のエンジンやトランスミッションが対抗できるかどうかは疑われて仕方ないでしょう。

ではどうしたらいいのか。
一つの解は輸入品に切り替えることです。MHIのカスタムエンジンをキャタピラーやMTUに変えれば、高い信頼性、性能、安いメンテコストが実現できます。

それはイヤだ、国産を維持したいというのであれば知恵を出すことが必要ですが、装備庁に知恵を出す人はいないようです。

国産でもやりようはあります。
●調達期間を短くして、30年かけるところを5~10年にする、であれば量産効果は3~6倍になります。
●ファミリーを進める。これまで陸幕や装備庁は死ぬほど嫌なのか、諸外国が当たり前にやっているファミリーを拒否してきました。このため少数生産ばかりでコストが極めて高いものになりました。今進められている共通戦術車輌、次期装輪装甲車になってやっとファミリー化が実現しそうです。共通戦術車輌はMHIのMAVに事実上決定、次期装輪装甲車はMAVとパトリアのMAVの一騎打ちとなりましたが、MAV採用にあたって、MAVのエンジンとトランスミッションを搭載するという手もあるでしょう。であればMCV、 共通戦術車輌、次期装輪装甲車のエンジンが共通となり量産効果がでるし、維持整備費も安く上がります。整備員の教育も共通化できます。
ですが、装備庁や陸幕にはそのような発想がないようです。
●輸出の促進。装備庁やMHIの自己宣伝の通りであれば戦車に限らず、中型小型装甲車両向けのエンジンの輸出は可能でしょう。戦車向け政策上できないなんていう、寝言はやめるべきです。エンジンは単なる汎用品です。それを理由に欧州各国は洗車用エンジンも含めて中国に輸出、技術供与を行ってきました。中型小型エンジンならばなおさらです。
●ハイブリッド化、電動化を進める。いまのEVバブルは利権の匂いプンプンのインチキくささ満開ですが、長期的に見れば軍用車両のEV化は進むでしょう。既に英国防省は現用装甲車両のHV化の実験や技術検証を進めています。
ですが現状ではディーゼルが圧倒的に強い。世界の軍隊でもHVやEV化はさほど進んでいません。であれば早いうちに自衛隊でHBV、EVを進めて、輸出を促進して世界のシェアを獲得するという手があるでしょう。残念ながらこれまた防衛省や経産省にはそのような構想は無いようです。


つまり、国産を維持するのであれば生産数を増やすしか無い。それには輸出も不可欠である。ところが装備庁はそんなことを考えずに、目先の装甲車の開発だけを考えて、国産エンジンすげー、国産トランスミッションすげーとやっているわけです。

結果として陸自の装甲車両の更新は遅々としてすすまず、設計者、技術者の経験は深まらず、新しい技術の取り入れもできていません。この四半世紀ほどで、日本の装甲車は技術的にはトルコ、南アフリカ、UAE、シンガポール、韓国から大きく遅れをとっています。
これは現物を見れば分かる話ですが、そのような事実に目をつぶって「ウリナラファンタジー」を信じているのが防衛省、メーカー、軍オタさんたちです。

トルコやシンガポールが急速に技術力を上げたのは、外国製の信頼性の高いコンポーネントを採用したことも大きい。エンジン、トランスミッションに限らず、車軸、伝達系では
主要コンポーネントメーカーが信頼性の高い、リーズナブルな製品を供給していきたからです。これはパソコンのCPUやメモリーがコモディティ化したのと同じことです。
ですから彼らは輸出市場でも大きく売上を伸ばしてきました。何しろ補修部品が世界のどこでも手に入るのですから、それは輸出では大きなアドバンテージです。
そして実力が付けば、それらのコンポーネントを国産に変えて行ったりもしています。

対してイスラエルはパワーパックの設計や開発は行っていますがエンジンやトランミッションは外国製に依存しています。臨戦国家であれば国産しそうなものですが、イスラエルは人口が少なく、国内で自動車産業を育てる市場がないからです。
これは人口の多い、南アやトルコとは大きな違いです。

日本の場合でも、量産を行い、輸出をするということに興味がないのであれば、潔く国産をやめるべきです。少数生産で、高コストで信頼性の引く製品を高コスト作って、高い維持費を払い、将来は撤退して税金をドブにすてるのであれば、それはやめるべきです。

日本政府、防衛省、経産省、そして業界にやる気がなく、惰性で国内開発生産基盤の現状維持をするのは自ら日本の安全保障と産業の弱体化を招くだけです。


週刊東洋経済12/25、1/1合併号に寄稿しました。
増額で自衛隊は強くならない(P166)

Japan In Depth に以下の記事を寄稿しました。
新聞が誤報する史上最大の防衛補正予算
https://japan-indepth.jp/?p=63181

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