ボーイングの強欲主義は米資本主義の典型例



 朝日新聞でボーイングの強欲主義が事故を起こした特集「強欲の代償 ボーイング危機を追う」が連載されています。
こういう記事こそ新聞の生き残りに必要な記事だと思います。

第1回
ボーイング機はなぜ墜ちたか 妻子奪われた私 問い続けて見えた病理
https://digital.asahi.com/articles/ASQ1L4JJ2PDYULFA00S.html?iref=pc_rensai_article_short_1422_article_1

> 二つの事故を招いたのは、まったく同じ飛行制御システムの不具合であることが、両国の事故調査当局などの調べで次第に明らかになっていく。737MAXは、2017年にデビューしたばかり。世界の航空産業をリードするボーイングが誇る、最新鋭機である。それがほぼ同じ形で立て続けに墜落する。1世紀あまりの世界の航空史で類例のないことだった。

> ボーイングの、株価への執着だ。外から見ていても心配になるほどの、自社株買いや配当の大盤振る舞い。業績の見通しを実際の決算で上回り続けることへの異様なこだわり。ファンドマネジャーたちを指揮する銀行の投資部門責任者として、ジョロゲは737MAX事故のずっと前から、ボーイングのなりふり構わぬ株価つり上げが会社にゆがみをもたらしていないか、気になっていた。

> ボーイングは、安全な飛行機をつくるための「エンジニアリング企業」から、株主のためにキャッシュを生み出す「金融マシン」へとその本質を転じていたのだ、と。

 どういうことか。

>研究開発に投資してイノベーションを生むよりも、外注やリストラといったコストカットで利益をひねり出す。米国最大規模の防衛関連企業、かつ国内唯一の大型旅客機メーカーとしての独占的な立場をテコに、献金やロビーイングでワシントンににらみをきかせ、当局の安全規制をも骨抜きにする。

>そうして稼いだ現金をすべて吐き出す勢いで配当を増やし、自社株を市場から買い戻し、株価をつり上げる。株高のご褒美として、経営陣は株価に連動した巨額報酬を懐に入れた。そうした経営は世にもてはやされた。

> ライバルの欧州エアバスへの対抗上、ボーイングが急ごしらえした737MAXは、安全性の根幹に関わるチェックもおろそかなまま、米連邦航空局(FAA)の審査をパス。ボーイングの民間機受注の8割を占める稼ぎ頭として、「キャッシュ製造機」さながらに世界に売りさばかれた。

>それは、株価に支配された経営の申し子だった。

>ボーイングの稼ぎ頭だった737MAXは世界の航空当局から1年8カ月以上も運航を止められ、一時は400機以上も在庫が積み上がった。遺族や航空会社への補償など事故をめぐる費用は、決算に計上した分だけで200億ドル(約2・3兆円)規模に膨らみ、ボーイングは赤字に転落。約100年前の創業以来となる経営危機に陥った。

>ボーイングが負った金銭的打撃は、将来の受注を失ったり、値引き販売を余儀なくされたりする分まで合わせれば、メキシコ湾で大量の原油が流出した事故で英石油大手BPが被った680億ドル(約7・8兆円)を超える可能性があるという。そうなれば、特定の事故をめぐり民間企業が受けた打撃としては史上最悪となる。

>ほかのすべての価値よりも株主価値、すなわち株価を優先してきたコーポレート・アメリカ(アメリカ株式会社)。連続墜落事故とコロナ危機で経営の根幹が揺らいだボーイングの姿は、株価に乗っ取られた米国型資本主義のゆがみを凝縮しているかのようだ。

第2回
魔のショートカット 連続事故の737MAXはこうして生まれた
https://digital.asahi.com/articles/ASQ1L4JJCPDYULFA00T.html?iref=pc_rensai_article_short_1422_article_2

> ボーイング経営陣は考えを変えた。手元にある737NGに改良を施したうえで、A320neoと同じCFM製大型エンジンを据え付ければ、手っ取り早くエアバスに対抗できる――。

>かつてボーイングで飛行制御システム開発に関わっていたという元社員は言う。「本来は、機体の不安定さという問題の根源をどうにかするべきだったが、それには全く新しい機体を開発しなければならない。問題の根源を残したまま、それがもたらす現象にだけ生煮えの技術で対処しようとしたことに、致命的な落とし穴があった」

> FAAが737MAXに「型式証明」を与える認証手続きの中で、ボーイングは開発スケジュールの厳守だけでなく、「訓練を義務づけられるのを回避する」という1点にこだわり抜いた。

>そのためなら、FAAを欺くことも、乗客が危険にさらされることもいとわない――。737MAXの開発にかかわったボーイング幹部らがいかに倫理観を欠いていたのか、米議会などの調べで驚くべき実態が次々と明らかになっていく。

第3回
「ボーイングのおごりが殺した」事故機のリスク、操縦士も知らされず
https://digital.asahi.com/articles/ASQ1L4JJJQ19ULFA00D.html?iref=pc_rensai_article_short_1422_article_3

 >「NGからMAXへの移行に、いかなるシミュレーター訓練も要求させはしない。ボーイングは、そんなことは許さない。それを要求しようとする、どんな規制当局にも立ち向かう」(17年3月28日)

 >「君は家族をMAXに乗せるか? 自分なら乗せない」(18年2月8日)

 >737MAXの開発とFAAによる審査が並行して進んでいた2013~18年、チーフ・テストパイロットだったマーク・フォークナーらボーイング社員が同僚らに宛てた膨大なメールやメッセージの原文が、米議会の調査によって明るみに出た。


>「この飛行機を設計したのは道化で、そいつらは今度はサルたちに監督されているんだ」

>「道化」はボーイングのエンジニアを、「サル」はFAAを指すとみられる。ちなみに、日本の国土交通省航空局について「ボーイング社員」は、ブラジル当局とともに「まだ石器時代に取り残されている(stuck in the stone ages)」(17年3月24日)と表現していた。

>社内記録には、極限までのコスト削減とスケジュール順守を強いられ続ける、現場社員のこんな嘆きも残されていた。「こいつらをどう解決すればいいのか分からない。これはシステムであり、文化(の問題)なんだ。経営陣はビジネスをほとんど知らないくせに、明確な目標だけは押しつけてくる」

第4回
巨額の自社株買いの末に 「金融マシン化」したボーイングの自滅
https://digital.asahi.com/articles/ASQ1L4JJNPDYULFA00V.html?iref=pc_rensai_article_short_1422_article_4

>737MAXは次々に注文が入り、ボーイング株も上昇を続けた。その代償は、極めて高くつくことになる。

>2度目の墜落事故が起きた後ですら、ボーイングは「安全性には絶対の自信がある」としばらく主張していた。法的責任を逃れるとともに、欠点を認めて稼ぎ頭の受注を失いたくなかったものとみられる。

> 737MAXの受注増と軌を一にするように、ボーイングの財務戦略にも変化が生じていた。

>430億ドル超を買い戻し
>企業の決算を伝える米国のニュースで通常見出しになるのは、利益の総額よりも「1株あたり利益」(EPS=Earnings Per Share)であることが多い。多くの投資家が気にするのがその数字だからだ。
>自社株買いは、市場に出回っている自社の株式を一部買い戻すことを意味する。資本効率を高め、計算上の分母を小さくして「1株あたり利益」を増やす株主還元の手法の一つで、株価を引き上げる効果が期待できる。

>アメリカではかつて、自社株買いは禁じられていた。経営者による株価の恣意(し)的な操作につながりかねないからだ。

>リーマン・ショックから途絶えていた自社株買いをボーイングが再開したのは、737MAXの受注が1000機を超した翌年の13年。それから737MAXの2度目の事故が起きる直前まで、その間のもうけの総計を大きく上回る600億ドル(約6・9兆円)超を株主に還元していた。そのうち7割の430億ドル超が自社株買いだった。

>18年末には、1機目の737MAXが墜落した後だったにもかかわらず、2割増配と追加の自社株買い200億ドル(約2・3兆円)も決めた。いかに事故を過小評価していたかがわかる。

>新型機をゼロから開発するコストと比べてみても、ボーイングの自社株買いの規模の大きさが際立つ。稼いだ分をはるかに上回る現金を株主にはき出しつづけた末、さらに上積みしようとしていたのだ。

>自社株買いの隆盛は、ボーイングだけの話ではない。米大企業全体でみても、コロナ危機までの10年間で総額5・3兆ドル(約600兆円)にのぼる。ドナルド・トランプが大統領に就任する前の16年には5360億ドルだったのが、トランプ政権が大規模減税を決めた後の18年には8060億ドル(約93兆円)にまで増えていた(S&Pダウ・ジョーンズ・インディシーズ調べ)。

>1・5兆ドルもの「トランプ減税」は、投資や雇用、イノベーションにつながってアメリカ経済を潤すという触れ込みだった。しかし、ふたを開けてみれば、企業はもうけた額以上の現金を自社株買いと配当に回した。元手がなければ借金まで増やして株主に還元するのが当たり前になった。スターバックスやマクドナルドなど債務超過に陥る有名企業が相次いだ。

>737MAXの好調な受注、そして株主還元の大盤振る舞いを好感し、ボーイングの株価は上昇を続けた。13年はじめに75ドルほどだった株価は、二つ目の事故直前の19年3月1日に440ドルの高値をつけた。投資家も、株価に連動した報酬を得る経営陣も、株高を謳歌(おうか)した。当時の最高経営責任者(CEO)、デニス・ミュイレンバーグは18年、3千万ドル(約34億円)の報酬を得ていた。

>その間に、企業としての体力は逆に細っていき、株価が最高値をつけた同じ年にボーイングは債務超過に転落していた。


>「株主価値を最大化するという名の下で、企業がキャッシュを求めて金融マシン化していき、超富裕層への富の集中と、普通の人々にとっては雇用の空洞化、そして経済全体にとっては生産性の停滞を招いた」。自社株買いの拡大に警鐘を鳴らし続けてきた、米マサチューセッツ大の名誉教授ウィリアム・ラゾニックは言う。

>「ボーイングに限らない。1980年代から続く、アメリカ経済の病理だ」

既に何度も米国式「強欲資本主義」の病巣については何度もこのブログで書いております。ボーイングの例も出してきました。787開発頃は主翼を三菱重工や世界の企業に丸投げしたり、自社工場を売却したりしていました。

それはバランスシートを見た目きれいにするためです。固定費用が少ない会社がいい会社、という株主の受けが良いためです。ところが787開発では本社と現場での乖離が進み、開発が難航してコストも高騰しました。その後ボーイングは工場を買い戻すなどして反省したかに見えましたが、その後も強欲資本主義に戻りました。

今のアメリカの大企業は株価、株式配当第一です。

投資家受けが良いようにするためにはバランスシートをいじるわけです。
固定費用を減らすためには、工場、オフィスなどの不動産を持たず、従業員を極限まで減らす。ですから好業績でもリストラもやります。
当然ながら短期利益を減らす、研究開発も抑えます。ホンダジェットや東レの炭素繊維みたいな10年単位で時間もカネもかかる研究開発には投資をしません。技術がほしけりゃ、ベンチャー企業を買収します。

当然ながら従業員の教育や訓練などへの投資も利益を削ることになるので嫌がります。
そうしてひねり出した利益は配当でばらまき、また自社株買いの資金に使って株価を釣り上げます。そうすれば投資家の受けはいいし、経営陣はストックオプションで儲かるから熱心にそれをやります。

まるで栄養失調のファッションモデルみたいなものですが、これが米国資本主義では「美人」の定義です。

 こういう「強欲資本主義」では株価を釣り上げるためには、長い期間や費用をかけた努力を嫌います。経営陣も投資家も四半期ごとの利益と株価だけが大事です。3年後にその会社が倒産しても今の利益が高ければそれでいいわけです。
それが必然的にインチキや詐欺の方向に向かいます。

「シリコンバレー史上最大の詐欺」はなぜ起きたか
セラノス元CEOホームズ有罪判決が意味する事
https://toyokeizai.net/articles/-/500529

株価を釣り上げて、一見素晴らしく見える派手な投資やアイディアをぶち上げて、株さを更に釣り上げて、利益を得るわけですから詐欺との境界線は極めて曖昧です。

会社として存続するための基礎体力はどんどん下がるわけです。企業として本来必要な努力をさけて濡れ手に粟で儲けることしか考えていない。

それをしない強欲主義の詐欺師まがいの会社を「エクセレント・カンパニー」持ちあてて来たのがアメリカ資本主義と「経済の専門家」の学者やアナリスト、ウォール・ストリート・ジャーナルなど経済、ビジネス誌に限らず、大手メディア、格付け会社です。それらがグルに成って国民を洗脳してきたわけです。
かつて10年ほど前に米国の格付け会社がトヨタを格下げしましたが、それはトヨタが1兆円も研究開発につぎ込み、雇用を維持してきたからです。研究開発費を配当に回して、社員の3割ぐらいをリストラすれば格付け会社はトヨタの格つけを上げたでしょう。

株価さえ上がれば景気が良いと「専門家」とメディアがグルになって世論操作をしてきたわけです。米国留学で「洗脳された」日本も専門家もメディアも同じです。
ですから官製相場で「株価だけ」よくなったアベノミクスを礼賛してきました。

ボーイングの軍用部門でいえば、戦闘機は未だに半世紀前のF-15やFA-18が主力です。新しい機種を開発すれば莫大な費用がかかります。リスクもある。対して既存機の改良であれば投資は最少額で済むわけです。UAVなどであればインシスなどのベンチャー企業を買収すればすみますが戦闘機はそうは行きません。

装甲車輌なども同で、米国企業に新型装甲車を開発する能力はありません。海兵隊のACVにしてもイタリアのイベコの製品が元です。
ネット分野では強いでしょうが、中長期的にみてアメリカの軍事技術は衰退に向かい、相対的に中国に対する優位が減じていくでしょう。

そういうアメリカ式強欲主義を何周か遅れで真似しているのが、日本です。第二次安倍政権は企業に配当増やせ、利益を捻出しろ、株価を上げろ、社外取締役を増やせと米国企業の猿真似を要求してきました。

ですが株価だけは上がったアベノミクスで、企業は研究開発や社員に投資をせずに、内部留保で溜め込んでバランスシートを綺麗にみせる、また自社株買いで株価を釣り上げてきました。ですから安倍首相が言ったトリクルダウンなんて実現はしませんでした。
そして名前だけの「社外取締役」は役に立たず、社外取締役採用の優等生である日本郵政、東芝、みずほ銀行などの企業では粉飾や不祥事が続出しています。

恐らくは近い将来株価至上主義は終焉を迎えるのではないでしょうか。米国でもサンダースのような議員が大統領本命候補になり、また企業でも株主だけではなく、従業員などステークホルダーを大事にして長期的な成長を目指すと公言する会社も増えています。


Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。
10式戦車の調達は陸自を弱体化させるだけ(上)
https://japan-indepth.jp/?p=63876
10式戦車の調達は陸自を弱体化させるだけ(中)
https://japan-indepth.jp/?p=63884
10式戦車の調達は陸自を弱体化させるだけ(下)
https://japan-indepth.jp/?p=63896


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