令和4年度財政制度分科会の防衛関連資料を読む その8
財務省では毎年財政制度分科会が開催されています。これは国の予算、決算および会計の制度に関する事項などを調査審議するものです。
その中に防衛に分科会があり、そこで使用される資料が毎年公表されています。意外に注目されていないのですが、防衛省では出さない資料や防衛省には都合の悪い指摘も含まれており、防衛に関しては貴重な資料となっています。これは「資料」と「参考資料」があり、今回から数度に渡って、この「資料」を解説していきます。
「資料」
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings_sk/material/zaiseisk20220420/03.pdf
「参考資料」
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings_sk/material/zaiseisk20220420/04.pdf
研究開発投資の重点化の必要性(P22)
○ 投資対効果の観点からの研究開発の再考に当たっては、量産取得時の国⺠負担や企業負担の考慮も必要ではないか。
○ 主要な航空機で⽐較したところ、国産航空機の取得コストは⾼騰する⼀⽅、グローバルサプライチェーンを有する航空機の取得コストは低減。
○ 研究開発投資は、量産取得段階を含め、⻑期間・多額のコストを要することから、中⻑期的な国⺠負担への影響、企業のサプライチェーンを含めた⽣産・技術基盤への影響なども含め、その取組の重点化を⾏うべきではないか。
上記は当たり前のことですが、日本政府、防衛省が無能だからできていないわけです。
毎度毎度申し上げておりますが、諸外国では軍がコンセプトをねって、どのような装備が必要か、それはどの程度の数が必要か、そしてどの程度の期間で調達、戦力化するのか。予算は総額いくら掛かるのか。それを議会が承認してメーカーや商社と契約します。
ところが我が国では他所の国が当たり前にやっているこのシステムが取り入れられていない。国会は例えばこの戦車が何両必要で、いつまでに調達されて戦力化されるか、総額はいくらかも知らされずに予算を通す。
こんなもの文民統制ではありません。
当然メーカー、商社だって普通ならば事業計画なんて立ちません。だからリクスを考えればコストは高く設定せざるを得ません。少量不安定生産だから高くなるのは当たり前です。ラインの維持でも5年と30年では6倍コストが違います。そしていつまでに必要ということを決めていなので、戦力化?なにそれ、美味しいの?状態です。
つまり装備導入は有事の戦闘に備えるのではなく、細々と高い金で使えない装備を買うこと自体が目的となっています。
まず、諸外国がやっている当たり前のシステムを取り入れるべきです。
できないのは政府と防衛省が無能だからです。そのような無能な役所に更にカネを与えれば余計無駄使いするに決まっています。
<⾃衛隊航空機の計画取得コストの推移>
幣制年度を100とすれば、P-1は18.2%、C-2は14.8%増加しています。対してF-35は-37.8%です。
輸送機同士で比較してみましょう。
自衛隊機のコスパを検証する(後編)
https://japan-indepth.jp/?p=55801
>財務省によれば空自のC-2輸送機の維持費はF-35Aより高い。であればCPFHも当然高い。実は財務省の資料ではC-2のCPFHが公開されている。これによればC-2のCPFHは約 274万円、米空軍のC-130Jが 約 61.8万円、C-17が 約150.9万円(※1ドル/ 112円 30年度支出官レート)だ。(※参考:『防衛』平成30年10月24日)
>C-2のCPFHはC-130Jの4.4倍、C-17の1.8倍にもなる。ペイロード1トン当たりのCPFHは、C-2は10.5万円(26トン)、C-130Jは3万円(20トン)C-17(77トン)は1.96万円である。C-2のペイロード1トン辺りのCPFHはC-130Jの約3.5倍、C-17の5.4倍と、比較にならないほど高い。
>因みに1機あたりのLCC(ライフ・サイクル・コスト)はC-2が 約 635億円、C-130Jが 約 94億円、C-17が 約 349億円である。C-2の1機あたりのLCCはC-130Jの6.8倍、C-17の1.8倍である。これがペイロード1トン当たりのLCCになるとC-2は24.4億円、C-130Jは4.7億円、C-17が4.5億円であり、C-2の1機あたりのLCCは、C-130Jの5.2倍、C-17の5.4倍となり、これまた比較にならないほど高い。
>調達単価も来年度の防衛省概算要求では1機225億円で、ペイロードが3倍近いC-17と同等である。C-2の調達及び維持費は輸送機としては極端に高いことがわかるだろう。調達単価、CPFHの面からもC-2は極めてコストが高い。
率直にも仕上げてお話にならないレベルです。他の装備や整備費、需品が買えないのはあたりまえでしょう。喩えるならば安サラリーマンが中古のカローラを3倍の値段で買うようなもので、食費や子供の給食費にしわ寄せが行くのは当たり前です。
【国産航空機】
国産航空機(P-1、C-2)については、独⾃仕様・少量⽣産ゆえの部品価格の上昇等により取得コストが上昇。
企業は、顧客が⾃衛隊のみの少量⽣産に対応するとともに、多くを占める輸⼊部品を含めたサプライチェーン管理に対応。
電⼦部品等の主要部品の部品枯渇が発⽣し、追加で対応。
部品枯渇に対応するため、多額の再設計経費等を追加で国費計上。
【F-35A】(国内企業が最終組⽴・検査)
グローバルサプライチェーンを有し、運⽤国の増加に伴うスケールメリット等により取得コストは逓減し、タイムリーな部品供給・運⽤維持体制等を実現。
※ サプライチェーンは10か国以上、1500社以上。供給参加国も拡⼤中。
C-2、P-1でもコスト低減の手はありました。まず、P-1の開発費は後回しにする。P-3Cの主翼を新造すれば機体寿命はほぼ新機同様になります。そしてエンジンやアビオを交換すれば運用コストも下がり機体性能も上がります。ミッションシステムだけ入れかえればいい。
C-2の開発製造を優先して調達ペースを3~4倍程度に上げる。そうすれば量産効果がでて、価格は相当下がったはずです。更に出来もしなかったP-1との部品共用などせずに信頼性が高い外国製のコンポーネントもっと採用すればコストは更に下がったでしょう。
更にC-2、P-1、US-2が同時に開発生産となったことで、技術者が足りなくなったことが、コスト高騰と開発のトラブルの原因となっていました。同時開発をしなければ技術者にもっと余裕があり、不具合の発生も小さくなって開発費の高騰も避けられたはずです。
その後にP-1を開発すれば良かった。当時は、哨戒機は技術的に端境期にありました。P-3Cの時代はレシプロ輸送機やジェット旅客機でも低速機がありましたが、それがもうありませんでした。無いから作ると機体、エンジン、システムまで専用にしたから、価格が高騰するのは当たり前です。
仮に機体も自前にするにしてもC-2と同時でなければ生産数を上げて調達してコストをお大幅に下げられたはずです。また外国製コンポーネントを多用すべきでした。コストをさげようという意図が全く見えません。
例えば機体、エンジンは既存機を利用すればコストは大幅に下がったわけです。別にポセイドンみたいに737のようなジェット旅客機を使わずに、ターボプロップ機でも良かったはずです。ジェット機で進出速度を上げて、低速で哨戒するなどという無理な要求をしてでも全国産にしたかったのでしょう。そのツケが価格と運用費の高騰となったわけです。多少なりとも専門知識があればわかった話ですが、当時の海幕と内局は石破防衛大臣の反対を押し切って開発を決めました。彼らがその後責任を全く取っていません。
つまり、やり方によってはかなりコストを削減できたわけです。無論両方とも、輸入にすればもっとコストが下がって、他の分野、例えば無人機などに投資ができたはずです。
野放図にC-2、P-1を開発、調達したのは防衛省と海空幕が無能だったからです。
無能と言うのが失礼だといえば金銭感覚のない準禁治産者で、軍事知識が欠如してた素人とでも言い換えましょうか。それは現実が雄弁に物語っています。
それでもP-1で開発された国産エンジンをジャンプボードにIHIが世界のエンジン市場の自社ブランドの製品を投入して独立したエンジンメーカーとして勝負をかけるということであれば「先行投資」であったと言えるでしょう。ところがIHIにはそのような気はサラサラなく、外国メーカーの下請けと、防衛省需要に寄生虫のように寄生しているだけです。であれば高コストで信頼性の低い国産エンジンを採用する必要はありませんでした。
>研究開発投資の重点化にあたっての視点
- 諸外国とのインターオペラビリティ
- 国内の災害リスク等を踏まえたサプライチェーン
- 中⻑期的な国⺠負担、投資対効果
- 国際共同開発・⽣産 or ⽇本独⾃開発・⽣産
- 装備品全体レベル or 部品レベル 等 例えば外国との共同生産や生産分担という方法も模索すべきでしょう。
何が何でも、何でも国産にこだわれば、結局コストは高騰し、しかも性能が怪しげな飛行機となってしまうことはC-2、P-1をみれば明らかです。
また重工3社に加えて新明和の4社を本来経産省が音頭を取って統合再編すべきでした。
防衛省という親にたかる、50面下げた「子供部屋おじさん4兄弟」航空機メーカーを全部食わせる必要はありません。
であれば事業統合再編成は最低でも行うべきですが、それができません。
いちばん簡単なのは、国内メーカーに開発も生産も発注しないことです。であれば立ち枯れして税金の浪費は止まります。整備能力さえあれば良いわけです。
将来にわたって産業として自立する気がなく、自前の技術開発もやる気がなく、高コストで、クズを調達するくらいならば航空産業を潰した方が国益になります。
各社ともに税金泥棒みたいな商売をやるよりも、リソースを別な事業につぎ込み、ちゃんと世界の民間市場で売れる製品をつくって納税してくれほうがよほど国益にかなっています。税金を浪費することが国防と勘違いしているとしか思えません。
東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
財務省が戦車の有益性を辛辣に指摘した真の意味
現実を直視した「真に有効な防衛力」の議論が必要だ
https://toyokeizai.net/articles/-/587274
apan In Depth に以下の記事を寄稿しました。
ゴム製履帯の可能性 前編
https://japan-indepth.jp/?p=66289
ゴム製履帯の可能性 後編
https://japan-indepth.jp/?p=66297
国産防弾装備を盲信する岸防衛大臣の見識 その1
https://japan-indepth.jp/?p=66121
国産防弾装備を盲信する岸防衛大臣の見識 その2
https://japan-indepth.jp/?p=66134
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