財務省「歴史の転換点における財政運営」防衛の部


財務省、財政制度審議会が令和4年5月25日に公表した「歴史の転換点における財政運営」の防衛の部門の本文と資料を公開しておきます。
SNSでは読みもしないで批判している情弱が多いようですから。

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20220525/zaiseia20220525.html
本文
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20220525/01.pdf
資料
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20220525/05.pdf


本文
7.防衛
我が国を取り巻く安全保障環境は、中国、北朝鮮、ロシアによる軍事活動の活発化等によって、これまでにも増して緊迫化している。特に、今般のロシアによるウクライナ侵略では、我が国も国際社会と連携しながら多様な措置を講じており、経済・金融面では、既に有事対応に踏み込んでいるとも言える。こうした状況の下、政府は、新たな国家安全保障戦略、防衛計画の大綱(防衛大綱)、中期防衛力整備計画のいわゆる「三文書」
の策定を進めている。〔資料Ⅱ-7-1参照〕
「三文書」の見直しは、我が国の安全保障や防衛力の在り方を定めることは当然であるが、財政(歳出)面においても、複数年度にわたる防衛予算の編成の目途になり、かつ、その規模からしても、他の経費の中長期的な規模に大きく影響する極めて重要な位置付けとなる。
防衛関係予算は平成 25 年度(2013 年度)以降、中期防衛力整備計画に基づき一貫して増加してきたが、それは他の経費の削減・効率化によっ
て実現できたものである。〔資料Ⅱ-7-2参照〕
各国の国防費について見ると、税収配分を国防分野に重点化している国、あるいは高い国民負担を求めている国など、財源の重点の置き方には
それぞれ特徴がある。しかし、その増額に関しては、奇策や近道があるわけではなく、税収配分や国民負担の在り方など、実現方法を正面から議論することが必要である。〔資料Ⅱ-7-3参照〕
このため、「三文書」の見直しに当たっては、安全保障に留まらず、国の財政全体の中長期的な方向を左右することを踏まえ、国民の「合意」と「納得」を得なければならない。
また、昨今のウクライナ情勢を踏まえ、ロシアの侵略に至るまでの経緯、両国はもとより NATO(北大西洋条約機構)関係国の戦略・戦術・軍事技術・装備品のほか、ロシア向けの経済制裁を含む、各国の経済・金融・財政面への影響とその対応等に係る教訓を十分に踏まえながら、議論を進める必要がある。

このような前提に立った上で、「有事に備え、かつ、抑止するための経済・金融・財政の在り方」や、「緊迫化する安全保障環境に真に応じた防衛態勢、研究開発、防衛産業の在り方」といった根本的な論点について、「三文書」の見直しに向けて正面から議論しなければならない。
(1)有事に備え、かつ、抑止するための経済・金融・財政の在り方我が国を取り巻く厳しい安全保障環境を乗り切るためには平時からの
十分な備えが必要となる。しかも、その環境の解消時期を予測することは困難であり、長期化することも十分に想定される。安全保障を確保するために、長期にわたって継続する支出を暫定的な手段によって裏付けなく賄い続ければ、財政面での不安定性を増長させながら有事への備えを進めることとなり、結果として防衛力そのものを損ねる脆弱性につながりかねない。

欧州では、NATO は国防費の対 GDP 比2%目標を平成 26 年(2014年)に発表し、加盟国は国防力強化を図ってきた。同時に、加盟国は健全
な財政運営を両立させ、財政余力を培ってきた。さらに、近時のロシアによるウクライナ侵略によって、欧州諸国は域内に戦場を抱えることとなり、国防費の増額を表明する国が出ている。こうした国々が国防費増額を可能とした背景には、平時において財政余力を確保してきた事実がある。
さらに、国防費増額と併せて歳入についても議論している国122がある点を見落としてはならない。このように防衛力の裏付けとして、それを支える財政基盤が不可欠である123。〔資料Ⅱ-7-4参照〕
また、実際に有事が発生した場合に、防衛力を十分に発揮するためには、その大前提として国民社会・経済・金融面での安定が不可欠である。特に、貿易や対外投資で依存度の高い周辺国と有事が発生した場合には、戦略122 ドイツは、NATO による国防費の対 GDP 比2%目標が掲げられた 2014 年以降、新型コロナ対応が生じるまでの間、国防費の増額と財政収支の黒字を両立していた。その上で、今般のウクライナ侵略を受け、国防費の対 GDP 比2%の達成を表明した際には、2022 年予算から1,000 億ユーロ(約 13 兆円)の特別基金を新規借入によって設立する方針を公表しつつ、その償還方法は、別途法律で定めると明示している。また、スウェーデン(EU 加盟、NATO 非加盟(令和4年(2022 年)5月 25 日時点))は、今般のウクライナ侵略以前において、国防費の増額と同時にたばこ税・酒税の引上げ等の措置を発表している。
123 中長期の視点で歳出の在り方を議論するには、我が国が他国と比べて急速に生産年齢人口の減少が進むという今後の人口動態を考慮することが必要。
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物資124の需要急増等による外貨需要の高まりのみならず、相手国やその周辺国からの供給の制約、日系企業・金融機関の収益低下や資金繰り難などの現象が発生し、これによって平時の経済状況が一変し、資本逃避や物価高が生じることが予想される。軍事的な有事を想定するに当たっては、防衛力のみに焦点が当たりがちであるが、こうした経済・金融・財政面における危機が発生する可能性を十分に認識しなければならない。
このような「経済・金融・財政面における脆 弱性」を踏まえると、平時から、防衛力強化のみならず、有事に十分に耐えられる経済・金融・財
政とするためのマクロ経済運営に努めなければならない。仮に防衛力を抜本的に強化したとしても、それを支える経済・金融・財政の強いマクロ構造がなければ、防衛力を継続的かつ十分に発揮することはできず、結果的に「戦わずして負ける」ことにもなりかねない。〔資料Ⅱ-7-5参照〕
(2)緊迫化する安全保障環境に応じた防衛力強化
① 防衛態勢
「三文書」の見直しに当たっては、防衛予算の規模ありきではなく、現下の安全保障環境に照らした自衛隊の防衛態勢や装備品の在り方につい
て正面から検証することが重要である。
一般に我が国のように海洋に面した国の基本的な防衛構想としては、相手国の上陸や占領を阻止することが肝要であり、これを重視した防衛
態勢の構築が重要との考え方がある125。こうした点を踏まえ、どのような戦略や戦術を採るのか、そのためにどのような防衛装備品や態勢が必要となり、今の水準が適切なのか、といった点について現実的な議論を行うことが必要ではないか。〔資料Ⅱ-7-6参照〕
また、防衛装備品については、各国の軍事技術や戦略・戦術の変化への対応や、費用対効果などの課題を指摘する声もある。例えば、ミサイル防衛分野では、極超音速滑空弾等の技術発展等への対応や、搭乗員の確保等124 防衛装備品、エネルギー、食糧等。
125 中国では、空母キラー等の配備によって相手国の侵入防止や行動制限を図る「A2/AD(AntiAccess/Area Denial)能力」の強化を行っている。英国では、伝統的に海軍中心の防衛策を構築しており、令和3年(2021 年)11 月、陸軍の削減案を含む計画を発表している。
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の運用面、さらには、イージス・アショアの洋上化について、同盟国を含む諸外国と仕様が異なるため、運用に伴う知見が十分蓄積されるのか、といった指摘もある。また、近年の紛争における陸上戦闘126では、戦車や装甲車に対し、比較的安価な携帯型対戦車ミサイルが有効に対抗している。
さらに、サイバーをはじめとする新領域や無人機の活用に伴い、戦闘様相のほか、装備品をめぐるコスト負担の在り方が大きく変化しているとも言われている。こうした中で、我が国の防衛態勢は、現状の部隊配置を前提とした際に、差し迫る脅威に対して有効に対処できるのか、あるいは装備面では我が国が相手国装備に比べ非対称的なほど大きいコストを強いられ、結果的に防衛上不利な状況を招きかねないのではないかといった指摘も踏まえた上で、防衛装備の必要性に関して改めて国民に説明を尽くす必要がある。〔資料Ⅱ-7-7参照〕
さらに、新たに整備が進む防衛態勢に関しても、限られた資源の下でいかに優れた防衛態勢を実現していくのか、彼我のコスト負担のバランス
はどうあるべきか、といった視点で検討することが重要である。特に「次期戦闘機」やいわゆる「敵基地攻撃能力」については、長期間にわたって多額の開発・運用コストが生じかねないため、より一層国民に対する説明責任が求められる。例えば、今後議論が具体化していく見込みである「敵基地攻撃能力」についても、過去のイージス艦の導入の議論127を踏まえると、目的を明確にしつつ、実戦をよく意識して費用と性能のバランスを図ることが重要である。また、こうした議論をオープンにしながら進めることで、国民の理解形成に尽力すべきである。〔資料Ⅱ-7-8参照〕
② 研究開発
激変する安全保障環境の中で、防衛関係費の研究開発への配分に係る検証・見直しも必要である。防衛関係の研究開発費は、これまで英・独等
126 ロシアによるウクライナ侵略、アゼルバイジャンとアルメニアとの軍事衝突等。
127 イージス艦(昭和 62 年(1987 年)導入)の導入は、「防空体制研究会」を発足し、「対空能力の向上」という明確な目的を設定した上で検討を実施。新たな装備品の導入ありきという姿勢ではなく、既存装備品の活用含めた複数の選択肢において経費効率を研究し、最終的には最
も効率的な組合せ(護衛艦1隻・イージス艦1隻)を選択している。
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の主要国と遜色ない水準128で推移してきた中、令和4年度予算(契約ベース129)では、2,911 億円(対前年度比+796 億円)と、これまでを大きく上回る過去最大の金額を計上している。
一般に、防衛装備品は、既存のものであっても契約、製造、取得、配備、訓練といった過程を2~5年程度かけるなど、実戦向けに使用可能となるまでに多大な期間を要する特性を持つ。その上、研究開発から開始する場合は、量産取得段階や運用段階までのリードタイムが一層長くなり、スケジュール・成果・コストの観点からリスクが大きいため、これに優先的に資源投入できるかは、その国を取り巻く安全保障環境を踏まえたリスク許容度によるところも大きい。例えば、米国では、冷戦終結以降、国防費に占める研究開発費の割合が高くなっているが、目前の脅威への対処が求められていた冷戦期では、研究開発よりも装備品調達を優先させていた。我が国においても、これまでにない安全保障環境の緊迫化を踏まえれば、いつ・どのような成果が得られるか等、具体的な事業内容を検証することは当然として、さらに、緊要性・優先度の観点から足もとの財源の振分けが適切か、見直す必要があるのではないか。〔資料Ⅱ-7-9参照〕
また、効果の発現を念頭においた研究開発の在り方も検討する必要がある。防衛関係の研究開発は、防衛装備品の生産・技術基盤の確保という
効果がある一方で、それ以外への波及効果を見ると、民生技術への転用については、実績上、これまで限定的な範囲にとどまっている130。このほか、海外市場への防衛装備品移転という効果もあるが、現状では、ほとんど実績がない131。海外市場への移転に係る効果の高い国として、イタリアやスウェーデンの実態をみると、国費としての研究開発費は約 80 億円と少額であるものの、企業自身が自らの強みのある領域を明確化した上で 10 倍128 日本の防衛関係の研究開発費を上回る水準を維持している国は、米国、フランスなどに限られる。
129 一般物件費と新規後年度負担の合計額。
130 防衛技術の民間転用契約の実績は、P-1 哨戒機用 F7 エンジンに係るもの(平成 28 年(2016年))に限られる。また、経済安全保障の観点から、機微技術の情報保全に向けた取組も進んでおり、防衛関連のものは厳格な管理対象となる見込みである。
131 完成装備品の移転実績は、フィリピンへの防空レーダーに係るもの(令和2年(2020 年))のみである。
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以上の研究開発投資を実施し、国の施策などとも相俟って、国際市場を見据えた装備品の開発・生産を行っているという実態が伺える。研究開発の効果を高めるため、装備品移転による市場の拡大等も念頭に置き、どのような装備品を開発すべきか、官民がどのように連携し研究開発を進めるべきか、改めて見直すべきである。その際、防衛装備品移転に係る制度面も含め、研究開発の在り方も問われている。〔資料Ⅱ-7-10 参照〕
加えて研究開発投資(国費)の重点化という視点も必要である。国産航空機の取得コストは高騰する一方、グローバルサプライチェーンを有す
る航空機の取得コストは低減している例もある。こうした実態も踏まえつつ、諸外国との相互運用性、国内の災害リスク等を踏まえたサプライチェーン、中長期的な国民負担など多面的な効果・影響を考慮した上で、取組の重点化が求められる。〔資料Ⅱ-7-11 参照〕
目下の調達に係る重要課題は、昨年に引き続き、次期戦闘機プロジェクトである。次期戦闘機は令和 17 年(2035 年)頃の運用開始を目標とし
ているが、世界的に無人機が戦場に実装されていることを踏まえると、次期戦闘機の運用開始時には、より安価で、人的損失の無い無人機の実装が一層進んでいる可能性がある。こうした中、彼我の勢力差、将来の戦い方、パイロット・整備士を含む限られた人的資源、無人機活用のメリットなどを見据え、具体的なスケジュール・コスト・開発の方向性について国民へ説明し、理解を得ることが必要である。〔資料Ⅱ-7-12 参照〕
③ 防衛産業
防衛産業に関しては、昨今撤退が相次いでおり、FMS(有償援助調達)をはじめとする輸入品の増加や低い利益率を要因とする指摘もある。し
かしながら、調達実態をみると、国内調達金額は過去 10 年において2割以上の増加となる約3兆円に至り、主要な防衛装備品の調達数量は増加
している。また、原価計算方式の適用実績を基に財務省が試算した利益率で見ると、他産業に比べて低いとは言えないと考えられる。〔資料Ⅱ-7
-13 参照〕
それにもかかわらず、防衛関係企業から調達条件の見直しを求める声が上がるのは132、防衛省が防衛装備品に係る国内の生産・技術基盤の維
持を重要課題と位置付け、戦車から戦闘機まで需要が防衛省のみの「独自仕様」「少量多種」の開発・調達を行ってきたことにも要因があるのではないか。さらに、企業からは、防衛省からの度重なる仕様変更に直面している、あるいは自社の強みを追求しにくい、といった声も聞かれる。防衛産業を支えるこうした企業の声を受け止め、装備品移転に係る課題にも対応しつつ、例えば比較優位を持つ技術・分野を企業自らがいかし、海外のニーズを獲得できれば、市場の拡大のみならず国際的な安全保障に資することも期待されるのではないか。
防衛省は、自らの調達手法、企業の経営資源の配分・維持などに係る根本的課題を分析・把握するとともに、自ら見直すべきところは見直し、防衛産業の在り方も含め、抜本的な対策を検討することが必要ではないか。
〔資料Ⅱ-7-14 参照〕
132 装備品調達においては、契約締結時の利益率に上限が課されている中、材料や部品の大幅な値上がり等、契約履行中に生じる不可避な追加コストが発生した場合、企業側はこれらを負担せざるを得ず、防衛事業から撤退する一因となっているとの指摘もある。また、我が国の防衛
関係企業は、欧米の企業に比べると、防衛事業の利益水準が低く、事業継続についてステークホルダーへの説明に苦慮しているとの声もある。


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