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中堅・大企業の新規事業開発で、成果を出すための組織構造とコツ

こんにちは、UNIQUEX(ゆにーくす)の松下です。

ここ10年間、中堅・大企業からスタートアップ(エンジェルラウンドから、シリーズBラウンドあたりまで)のプロダクト開発、事業立ち上げをしてきました。その中で、いくつかの成功(ビジネスとして持続可能になった)と、たくさんの失敗(ビジネスとして持続可能にならなかった)がありましたが、ここ最近携わっている事業が、どれも小さく成功するようになってきています。

成果を出すための構造とコツが分かってきたので、事業立ち上げをしている方、これから事業立ち上げをしたい方になんらかの手助けになれば良いと思い、そのナレッジをnoteに書こうと思います。

想定読者

こちらのnoteは、2000年以前に創業したデジタルネイティブではない中堅企業から大企業の経営者(創業者)を想定しております。

スタートアップの方は、下記のnoteを読んでみてください。

はじめに

コロナ危機、新しい生活様式、人口減少、働き方改革、2025年の崖、急激な社会変化

経産省から出された「2025年の崖」というレポートが記憶に新しい中、新型コロナウイルスが流行し、それにより様々な業界でデジタルシフトが急速に進んだと感じています。多くの会社がリモートワークを取り入れ、オフラインビジネスを、オンラインビジネスに変えるなど、一気に変革が進んだことと思います。

その一方で、デジタルシフトが急激にできない業界、例えば、鉄道会社が巨額の赤字を出すなど、10年前では考えられない世界が訪れてしまいました。大企業は、既存の資本が強みですが、社会が急激に変化している場合には、その資本を全く活かせず、逆に負債に変わってしまうことが現実に起こり得るのです。。

現在、ワクチン接種が世界的に進んでいますが、果たしてコロナ以前の世界へ完全に戻るでしょうか?リモートワークは、メリットもデメリットもあるかと思います。しかし、ひとりの労働者として思うことは、リモートワークが全くできない会社では、今後も働きたくないなぁということです。

企業としても、今後も新たな感染症が流行してしまう可能性もあるでしょうし、ビジネスモデルと働き方を見直すのが普通の感覚だと思います。さらに、この世界に生きる人々も、今回のコロナを契機に、自分らしい生き方を見直しているのではないでしょうか?住居も、東京都内から地方に移住している方もいるでしょう。。

さらにさらに、行政もデジタル庁を新たに創設し、今まで自治体ごとに点在していた行政システムの統合と、開発の内製化を進めるなど、大きな変化が起ころうとしています。

このような社会の急激な変化にともない、企業の事業構造、組織構造の変革は必須ではないでしょうか。

前置きが長くなりましたが、急激に変化している社会には新たなニーズが発生していると考えられます。このnoteでは、そのようなニーズに対して、企業が既に持っているアセットを利用しつつ、新しい事業をどのような体制でやっていくのがいいのか、私のこれまでの経験と知識をベースに書いていこうと思います。

結論:新規事業立ち上げには出島戦略しかない

いきなり結論です。新しい事業を中堅・大企業で始めるには、出島(でじま)戦略しかありません。(もっといい方法があれば、教えてほしいです!)

ここから先は、出島戦略に関して概要をサクッと説明しつつ、具体的な進め方のコツについて、書いていきたいと思います。

出島戦略とは何か?

出島戦略とは、新規事業を創出する策として、会社本体の意思決定や評価制度を切り離し、物理的にも距離を置いた異質な組織を「長崎の出島」をモチーフに立ち上げることです。

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出典:経団連提言「Society 5.0 –ともに創造する未来-」(2018年11月13日)

出島戦略の由来とは?
日本は江戸時代に鎖国していましたが、幕府は長崎に出島という人工島を建造し、海外と貿易することを特別に許可していたことに由来します。

僕はこの出島戦略を用いたチームで、事業開発・プロダクト開発を合計6年間してきました。もともとは、出島戦略という言葉も知らなかった(存在しなかった?)のですが、結果的に出島戦略と類似した組織構造で事業開発にいきついていました。

なぜ出島戦略がいいのか?

【メリット1】会社からの圧力を極小化し、事業開発における意思決定を歪ませない。

既存の事業とシナジーが無いからダメ!とか、既存の事業とカニバルからダメとか!一見真っ当な批判を、偉い人がいってきたりします。

でも、もし本当にカニバって既存事業がピンチに陥るなら、なおさら自分たちでその事業を取り込むべきではないでしょうか?

アップルのスティーブ・ジョブズは、下記のような言葉を残しています。

If You Don't Cannibalize Yourself, Someone Else Will - Steve Jobs

翻訳すると「自分で自分を食わなければ、誰かに食われるだけだ」ということで、スティーブ・ジョブズはiPodの売上が落ちると分かっていてもiPhoneを売り出し、iPhoneの売上が落ちるかもしれないのにも関わらずiPadを発売しています。結果として、Appleの売上は大きく伸びました。

新規事業開発では、顧客が求めているものを純粋に作る必要があります。そして、顧客が求めているものを純粋に作ることすら、とても難しいのです。会社の論理が、日々の意思決定に影響してしまうと、その事業開発の難易度はさらに上がってしまいます。アップルの創業者であるジョブズなら、周囲からの圧力に屈しないこともできるでしょう。しかし、新規事業を任された責任者が、このような圧力に屈しないでいることができるでしょうか。

【メリット2】時間を可能な限り、事業開発に向ける。

出島戦略をとることで生まれるものが、事業責任者の時間です。出島戦略では、意思決定権と決裁権が事業開発チームに移譲されます。会社本体にチームが含まれている状態だったならば、上長に説明し、承認が必要だった事柄から、かなり解放されます。

たとえば、最近の事業開発において、アプリ開発やWEBサービス開発は、ほぼ必ず通る道でしょう。この時、月々数千円かかるサーバーを契約する必要があるのですが、この数千円のために、承認フローを回すのは大変すぎじゃないでしょうか。事業立ち上げをやってきた身としては、考えただけでちょっと憂鬱な気持ちになってしまいます。

ちょっとお金を使いたい、ちょっとこのサービスを使いたいという事態がしばしば発生します。こういう時に、自分たちの権限でお金を使う意思決定ができるのは、大変重要なことです。これにより事業責任者は、顧客開発とプロダクト開発により多くの時間を使えることになります。

【メリット3】既存の社内文化を守れる・尊重する

実は、出島戦略をとるというのは、現在の会社の文化を守ることにもつながります。

たとえば、1つのミスで100億の損害がでてしまう。1000万人のお客様に影響があるなら、品質保証に時間とお金をかけるのは必要なことです。そのようなチームでは、意思決定が少し保守的になるのは当然でしょう。

一方、新規事業開発の場合には、顧客は存在しません。なので、より積極的に素早く意思決定をして、さまざまなアクションをとり、顧客課題を発見し、その解決策を探索することが必要になるのです。必然的に、チームの文化としては積極性・主体性・大胆さなどが必要になってきます。

このように、同じ社内にチーム文化が異なる人達がいると、混乱や妬みが生じます。なので、出島戦略では、物理的にも会社と距離を離す設計になっています。

メンターとしてのエグゼクティブスポンサー

社長直轄プロジェクトではダメなのか?

出島戦略の他に、「社長(エグゼクティブ)直轄プロジェクト」という新規事業創出策をとっている企業も多いと思います。

個人的な意見ですが、社長直轄プロジェクトでは、社長の意向が強く反映されすぎてしまう傾向があります。主役がどうしても社長になってしまうのです。。

事業責任者が社長の顔色を伺い始めたら、終わりです。

事業開発の主役は、あくまで事業責任者であり、事業責任者は顧客とプロダクトに向き合わねばなりません。そういった意味で、社長とプロジェクトは一定の距離を保たなければならないと考えています。

たとえば、下記の記事は良い示唆を与えてくれます。

しかしながら、上司や社長に対して「あなたの年代がターゲットではない!」と、言える肝のすわった人ばかりではないと思うのです。

メンターになる

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では、社長やエグゼクティブは、事業開発に全く関わらない方がいいのか?というと、そんなことはありません。これもあくまで私の経験によるものですが、エグゼクティブが事業責任者の良きメンター・支援者になっているプロジェクトは、素晴らしく進捗しました。

事業開発は、成功するかどうかなんて分かりません。(というか、ほとんど上手く行かない...)そんな中、事業責任者は、どんどん追い込まれていくことになります。出島戦略とはいえ、定期的な事業の進捗報告は必要です。その報告時に、事業が上手く行っていないことを説明しつづけるのは、なかなかメンタルが病んできます。

事業責任者が辛そうな時、エグゼクティブは事業責任者の精神的に支えること、周囲の反対意見から事業責任者を守ってあげることが重要です。

エグゼクティブは、これまで修羅場をくぐり抜けた方たちだからこそ、事業責任者の強い味方になれるのです。

実際にあった話ですが、事業が上手く立ち上がっていない時に、創業社長が周囲の取締役から「そんなプロダクト上手くいくわけないから投資をさっさと止めた方が良い」と、何度も忠告を受けていたと聞きました。忠告を受ける度に社長は取締役を制し、事業責任者を守りつづけた結果、そのプロダクトは社内の業務改善に目覚ましい効果をだし、他社とさまざまなところで協業できるところまで育ったのです。

もちろん、これは結果論にすぎません。しかし、この時社長が取締役の忠告に従い、投資を止めていたら、このプロダクトは生まれなかったのは間違いないでしょう。

このように、社内に影響力のあるエグゼクティブが事業責任者を支援し続けることが、中堅・大企業での事業開発において成功率を高めるために、大変重要なことだと思います。

エグゼクティブスポンサーが事業責任者をメンタリングし、外部からの圧力から守ること。それにより、事業責任者が顧客とプロダクト開発に集中できる環境が整うのです。

事業アイデアの社内公募は、オススメしない。地頭がよく、逃げずに愚直にやりきれる人を発掘するべし。

新規事業を立ち上げるために、社内でアイデアを公募する。そして一番優秀なアイデアの発案者を事業責任者にする、という取り組みがよく見られるようになりました。

しかしながら、アイデアには、あまり意味がありません。というのも、事業を進めるにあたって、そのアイデアはほぼ確実に違うものに変わるからです。さらにいうと、そのアイデアの良し悪しを判断できる人は(スティーブ・ジョブズでもない限り)存在しません。どちらかというと、はじめのアイデアから仮説検証し、顧客に会いに行き、誰も気づいていない真実を探す作業を愚直にできるかどうかが重要です。

そういった観点から、事業に関わるメンバーの人選は、飛び道具的なアイデアを出せる人というよりは、どちらかというと地頭が良く、その任を任されたら逃げずにやり切れる人をアサインするべきだと思っています。責任感や根性が、重要だと思っています。

LayerX CEOの福島さんも、最近、起業は根性だ!としかいっていない気がします。

事業開発は、9割が辛いことの連続です。なので、逃げずに立ち向かえて、根性があり、地頭が良い人をヘッドハンティングするのがよいと考えています。

企業で出世するのは、弁が立ち、アピールが上手で人の注目を集めるのが得意なタイプが多かったのではないでしょうか。しかし、本当に会社の将来を任せたい人材は、どんな人材なのかを考えた上で、事業責任者をアサインすることを強く推奨します。

共同創業者は、2人が良い

事業責任者(プロダクトオーナー)は、地頭が良く、粘り強くやりきれる人物をエグゼクティブ自らスカウトするということを書きました。

では果たして、事業責任者だけで事業は進むのでしょうか?

下記の図を見てみてください。拡大期までにかかった時間(横軸)と創業メンバーの数(縦軸)のデータがあります。このデータから明らかにわかることは、創業メンバーが1人の場合は、拡大期に到達するまでの時間が2倍以上かかっているということです。そして、2人での創業が最も効率的だということもわかります。

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出典: Startup Genome Report version 1.1 2011, p.50

このデータは僕の経験とも一致しています。事業の立ち上げを1人でやることは大変難しいです。やらないといけないことの量も多すぎるし、事業立ち上げに必要な能力を1人で全て発揮してやりきるのは難易度が高すぎるのです。

しかし、闇雲に人数を増やせばいいというのも違います。人数が増えると、コミュニケーションが複雑になり、チームマネジメントが難しくなるからです。会議の時間も長くなったり、平凡なプロダクトができやすくなってしまったり、そもそもお金が沢山かかるなど、悪い影響が目立ちます。

また、スタートアップの創業者がチームメンバーとのコミュニケーションに追われて、肝心のプロダクトと顧客に集中できないという例は、枚挙にいとまがありません。

ということで、中堅・大企業の事業立ち上げ時の創業メンバーは2人で十分で、投資効率として最も高くなるというのが僕の結論です。この2人を周りの人がしっかりサポートしていくということが、とても大切です。

経済的なインセンティブを約束する、 できれば株を持たせる(買わせる)

金融市場は今、バブっています(つまりお金が余っている)。それにより、起業家が資金調達をしやすい環境が整っています。つまり優秀な社員は、会社を辞めて起業してしまうリスクがあるということです。終身雇用制度は崩壊し、大手企業でも若くて優秀な人から会社をやめて、転職もしくは起業してしまうという話をたくさん聞くようになりました。

優秀な人ほど、社内で事業を立ち上げるよりも、起業しちゃう選択をしやすい環境なのです。

会社としては、せっかくここまで育ててきた優秀な人材が流出してしまうことは損失でしかありません。そこで、そういう人材が会社の新規事業の立ち上げに情熱を注げるような、経済的なインセンティブを約束しましょう。

僕が見た例では、事業責任者に会社の株式を持ってもらっていました。正確には、事業責任者が会社の株を100万円くらい買わされてました。事業責任者としては「買うのかよ〜!」と不満をいいつつ、満更でもない様子だったのを覚えています。(余談ですが、事業責任者に抜擢された人がもし自分の会社を創業するとしても、100万円くらいは資本金として会社に入れることになるので、実質的には同じでしょう。会社を興すとなると、もっといろいろな手続きが必要なので、100万円なら安いですね。)

この例のように株式を持たせるというのは極端かもしれませんが、事業の進捗により昇進、昇給させるという仕組みを導入することを予め検討するのが良いと思います。

プロジェクト用にクレジットカードを発行する

前述の「なぜ出島戦略なのか?」でも触れましたが、事業開発チームは月々数千円〜数万円のサービスをクイックに使い倒していくことで、仮説検証を高速に回していくことができます。

そのために、クレジットカード(コーポレートカード)を必ず発行してください。上限金額は、30万円もあればいいと思います。そして実際には、30万円も使われることは少ないでしょう。

しかしこの少額の決裁権限をチームに移譲することは大変重要なのです。繰り返しになりますが、月々数千円のサーバーを借りる時に、承認フローを回すのは大変つらいです。

必ずプロジェクト用に利用できるクレジットカードを(上限金額は少なくても良いので)、渡してください。

内製開発から逃げない

ここまで、事業を立ち上げるための組織構造や仕組みについて書いてきましたが、ここからはさらに具体に踏み込んだ内容を書いていきます。

このnoteの想定読者の方々は、デジタルについて詳しい方とそうでない方がいらっしゃると思います。詳しい方には釈迦に説法かもしれませんが、そうでない方にお伝えしておきたい言葉があります。

ソフトウェアが世界を食べる

これは2011年8月20日にマーク・アンドリーセンがウォールストリートジャーナル紙に寄稿した記事の話ですが、2021年6月の世界時価総額トップ10企業を見ると、まさに世界をソフトウェアが食べてしまったことが証明されました。

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2021年6月の世界時価総額トップ10

トップ10のうち、ソフトウェアを武器にしている会社が7社ありますね。

お伝えしたい内製開発が何か、伝わりましたでしょうか?

ここでいう内製開発とは、ソフトウェアの内製開発のことを主に指しています。スマホのアプリ開発だったり、WEBサービス開発、組み込みソフトウェアのことです。このソフトウェア開発を外注することをやめ、事業開発チームの中に、ソフトウェアエンジニアを所属させてください。

車をはじめとした様々なハードウェアがインターネットで繋がり、スマートフォンから操作できる時代になっています。いかなる事業を行うにも、ソフトウェアは必要不可欠なコア領域になってくるのは自明です。

一昔前、コア技術の流出を回避すべきだと、電機メーカーを始めとした数多くの企業で叫ばれた時があったかと思います。今となっては、ソフトウェア開発のノウハウが、すでにコア技術になってしまっているのです。そのコア技術の開発を、他社に外注するのは、もう辞めた方がいいのではないでしょうか。

電機メーカーのパナソニックもソフトウェア会社を7600億円で買収しました。これから、ハードとソフトの統合を進めていく覚悟なのだと思います。

事業立ち上げフェーズにも、内製開発が必要なのか?

内製開発の必要性についてご理解いただけたと思います。ここからは、事業立ち上げの初期フェーズにも内製開発が必要なのかについて、書いていきたいと思います。

結論からいいますと、事業立ち上げの初期フェーズだからこそ内製で開発するべきというのが、僕の主張です。

それはなぜか?を説明する前に、まずは逆説的な例から説明させてください。

例えば、銀行で使われているような巨大で影響度が高いシステムができ上がってしまっていると、そのシステムを内製開発に変えていくのは、めちゃめちゃ大変です。

まず、どこに何が書かれているのか分からない。しかもそれが巨大で、関係者が多く、開発会社が多重下請け構造になっていたりすると、もはや誰が全体像を把握しているのかも分からない。

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そういうシステムを内製開発に切り替えるとしたら、これまでの開発会社の人にめちゃめちゃ協力してもらわないといけません。でも開発会社からしたら、自分たちの仕事が無くなるかもしれないのに、協力したくないですよね。。という感じで、既存システムを内製開発に切り替えるのは、技術的な面も心理的な面も大変困難を極めます。

何事もそうですが、時が経つにつれて、システムは複雑になっていってしまいます。なので、すでに何年も運営されて複雑になってしまっているシステムを内製開発に切り替えていく(作る人を替えていく)のは、とても大変なことです。(もちろん、何年運営されていても、綺麗に保たれているシステムもあるでしょう!そういうシステムは、とっても素敵で、開発チームの多大な努力と、誰かの”絶対に汚さない”という狂気があるのだと思います。)

さて一方、事業立ち上げフェーズはというと、ソフトウェアは何もありません。

そもそもそこにソフトウェアが存在しないのであれば、複雑さも何もありません。つまり事業立ち上げチームは、ソフトウェアを自由に作っていいのです。アーキテクチャをどうするかといった議論に、たくさん時間を費やす必要もありません。

どうやって作るかよりも、何に価値があるのかを探索することが大事なのです。そのためには、いきなり難しいことをする必要はありません。まずは、簡単に動くサービスでいいんです。

つまり、内製開発を始める難易度が低いのです。

そして運よく売れるサービスを作れたら、そこでようやく、長く使われるサービスをどう作っていくのかを、真剣に考えましょう。

しかも近頃は、クラウドサービスを利用すれば、何十万円もするサーバやルータ、ファイヤーウォールを買う必要もありません。月々数千円で、サービスを小さく始められるのです。さらにもし仮にサービスがすぐにうまく行ったら、サーバーを簡単に増強できる。しかもこれも格安で。大規模な設備投資が不要なのです。

つまり、ソフトウェア開発において、大きくかかるお金は人件費だけなのです。

というわけで、ソフトウェア開発も、やればできます。もちろん大きく育てていくことは簡単じゃないですが、ゼロイチフェーズの開発の方が、小さく始められるので何とかなります。

事業初期フェーズのプロダクト開発が簡単!?なら、それこそ外部委託でもいいのでは?

事業初期フェーズは、小さいプロダクト(MVP)を作るので、内製開発を始めやすいという話を書きました。では、小さいプロダクトなら、それこそ外部に委託してサクッと作ってもらうほうがいいんじゃないの?という反論が聞こえてきます。

事業初期フェーズのプロダクト開発は、銀行の基幹システムを作るよりも、技術的な難易度は低いでしょう。しかし、事業初期フェーズにおけるプロダクト開発の難しさは別のところにあるのです。

エンジニアリング組織論の招待という本では、プロダクト開発における不確実性を、”方法不確実性”と”目的不確実性”の2つの軸で説明しています。

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この軸で改めて考えてみると、銀行の基幹システムの開発の難しさは、方法不確実性をどのように減少させていくかという難易度が高いのです。一方で、目的不確実性は低いといえます。銀行システムの用途としては、銀行の行員が窓口で行っていた業務をコンピュータにやらせること。より効率的に早く、正確に処理するためのシステムを作ろうという話で、目的は明確に(確実性が高い状態で)定義されています。

翻って新規事業開発におけるソフトウェア開発においては、目的不確実性がとても高いといえます。事業開発初期フェーズでは、顧客が誰かもよく分かっていません。誰かもよく分かっていない顧客の、どんな課題を解決するといいのかも、もちろん分かりません。

そこで、ソフトウェアを作る前に顧客の課題をコンシェルジュ型やコンサル型で人手による解決方法を試しながら、ニーズがあることを確認しつつ、それをプロダクトに落としこみ、プロダクトが本当に求められ、使われるかどうかの仮説検証をすすめていくのです。

このように、”方法不確実性”と”目的不確実性”の2つの軸で捉えてみると、事業開発の初期におけるソフトウェア開発と、銀行の基幹システムにおけるソフトウェア開発では、難しさの種類が全く違うことが分かります。

事業開発の初期フェーズのソフトウェア開発において、重要なのはトライアンドエラーを行う力です。顧客の課題や解決策の仮説が検証されたら、さくっとプロトタイピングして、顧客に持っていきます。顧客からフィードバックをもらって、さらにプロトタイプをブラッシュアップします。そしてまた、顧客にもっていき、フィードバックをもらい、またブラッシュアップして・・・という感じで仮説検証ループをめちゃめちゃ回す必要があるのです。

・・・ここまでで説明がだいぶ長くなりました。この章の冒頭の質問に戻りましょう。すでにお気づきの方もいると思いますが、事業開発の初期フェーズのプロダクト開発は簡単!?だったら、外注でもいいのでは?という問いに関して答えると、

仮説検証ループをゴリゴリに回すフェーズと、外注の相性はよくない、という答えになります。

特に請負契約での外注はめちゃめちゃ相性が悪いです。。なぜなら、成果物なんて定義できないからです。プロダクトの要求仕様、書けません。契約書や仕様書書く時間を、プロダクト開発にあてた方がいいです。

じゃ、準委任契約で開発するのがいいんじゃないの?

それでは、次の反論について。

準委任契約でのプロダクト開発はありだと思います。が、限定的に、条件とあっていれば、ありという答えになります。

なぜなら、アジャイルなソフトウェア開発になれている人じゃないと、たぶんそこそこキツイことになるからです。例えば、そんなにたくさん変更されるとキツイですよ。。とか、売れないもの作らせないでくださいよ。。というコメントが出てきてしまうと、なんだかお互いに悲しい気持ちになります。下記の図のように、目的不確実性を減少されるためのプロダクト開発を進めていくことが必要です。

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引用: https://twitter.com/hiroki_daichi/status/1050919657719267328

あと、ただプログラミングを書けるだけの人だとなかなか難しくて、顧客がどんな悩みを抱えているのかに興味があったり、プログラミングをしなくても問題解決できちゃう方法を考えられたりする人が望ましいです。

初期フェーズからシリーズBくらいまで経験したスタートアップのCTO(つまり、なんでもゴリゴリやってきた人)が初期フェーズに入ってくれるといいのですが、なかなかそういう人材が市場にでることはありません。。だいたいイケてる会社にいたり、なんか自分で面白いことしちゃっています。

さらにさらに、能力的には申し分ない人を幸い見つけられたとしても、会社組織にフィットしなかったり、その結果、コミュニケーションコストがめちゃ高くなってしまう場合があります。そうすると、プロダクト開発や顧客開発に集中できなくなってしまうのです。

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内製開発のキーパーパーソンは、社内にいるエクセルオタク

請負契約でもダメ、準委任契約でも難しい、、では、どうすればいいのでしょうか。デジタル人材を募集して、いきなり雇用するのがいいのでしょうか?

デジタル人材を募集して、雇用できる会社はトライするのが良いと思います!しかし、現在ではデジタル人材の取り合いの状態になっていて、なかなか採用できません。優秀なデジタル人材は、労働条件も環境も良いところで活躍しているのです。そして、デジタル人材を採用するには、デジタル人材専用の評価制度を用意したり、キャリアパスを設計したり、さまざまな準備が必要となります。

そのような中、私が中堅・大企業のプロダクト開発に伴走する中で見い出したキーパーソンは、社内にいるエクセルオタクです。

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エクセルオタクといっても、エクセルの関数を駆使して、複雑なエクセルシートを作って業務をしている人ではありません。

どちらかというと、エクセルの特性をよく理解し、とてもシンプルに使いこなし、問題解決している人です。エンジニアリングのポテンシャルが高い人は、エクセルをシンプルに使いこなすことで、エクセルの長期運用に耐えられる設計をし、そのエクセルが汚れていかないように管理できる人です。

こういう人は、プログラミングをさせても、とてもシンプルなコードを書きます。難しいことをわざわざせず、問題解決をシンプルにできちゃったりします。

なので、エクセルをシンプルに使いこなし、問題開発をしている人を探すのが超おすすめです。

事業開発責任者は、自らそういう人(エクセルオタク)を口説いて、事業開発に巻き込んで、プロダクトを小さく作り始めるというのが、内製化の第一歩だと思います。

ちなみに、そういう人にプログラミングスクールに行ってもらうのもありです。プログラミングスクールは賛否ありますが、明確な目的意識を持って行くのは良いことだと思います。

さらに最近ではノーコード系のサービスも増えているので、ピタゴラスイッチ的にプロダクトを作り、価値探索することは十分可能です。

そもそも内製開発が必要な根源的な理由

ここまで様々な角度から内製開発が必要な理由と、その具体的なやり方を書いてきましたが、その根源的な理由をこれから書いていきたいと思います。

リーンスタートアップという本が流行った時期がありましたが、そこで述べられていたのは、スタートアップが成功するために科学的な手法を取り入れて、高速に仮設検証を進めていくことが重要ということです。

内製開発とは、高速に仮説検証をすすめるために必要不可欠な手段なのです。

仕様書も契約にも縛られないチームを組成し、プロダクトを顧客のニーズに合わせて変更しつづけることで、どんどん仮説を検証していくのです。

組織文化と人材が、模倣不可能な価値となる

プロダクトやアイデアは、市場で求められてくるとマネされてしまいます。しかし、組織文化とチームは、真似されづらいです。

トヨタ生産方式が世の中に出た時、他の自動車会社がマネしようとしました。しかし、現在もトヨタは自動車販売台数、世界トップです。トヨタ生産方式は知識として知っているけど、その組織文化や人材は一朝一夕でマネすることはできません。もし本気でトヨタを真似するのであれば、トヨタ生産方式を現場で実際に回していた人たちからの直接的にフィードバックや問題点を指摘してもらうことは必要不可欠でしょう。

なので、高速な仮説検証組織を素早く作るためには、アジャイル開発やソフトウェアを核としたプロダクトを開発してきたプロフェッショナルに伴走開発してもらったり、技術顧問に入ってもらい、チームの良い行動、良くない行動に関してフィードバックをもらい、改善しつづけることが必要でしょう。

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まとめ

冒頭でも触れましたが、2020年当初からのコロナ禍により、社会は急激な変化を続けています。これからはデジタルが中心で、アナログが補完となるライフスタイルになるのは間違いないでしょう。その中で、あらゆる会社で既存のビジネスモデルを抜本的に変革する、もしくは全く新しい事業の立ち上げを行う必要性に迫られてきています。

この記事でお伝えしたかったことは、以下の3点です。

・中堅・大企業の事業開発は、出島戦略しかない。
・粘り強くやり遂げる社内人材に事業を任せてみよう。
・ソフトウェア開発から逃げてはいけない。

以上、長文をここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。

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