顔面を殴れないボクサー

こないだチラッと話した、僕がやってたスポーツっていうのがボクシングなんですけどね。
ボクシングやってない人がボクサーを目にする機会というのは、テレビやネットが大半だと思います。そういう、映像が残っている人たちは、まず間違いなく実力のある人たちです。ズブの素人を映像に残したりしませんし、その映像を公開したりしませんので。何が言いたいかというと、実際にボクシングをやってない人は、上手い人しか見たことがないということです。
実際にボクシングをやっていると、本当に初心者から熟練者まで、実にさまざまな人に出会います。僕も10年ちょっとやってたので、いろんな人と出会いました。

ちょっと印象的だったのは、大学1年生の男子で、彼は人を殴れない子でした。
どうも、元々スポーツ空手か何かをやっていて、顔面禁止ルールだったみたいです。それがくせになってしまって、顔を狙ったパンチがすべて胸元に飛んでくる。ボクシング経験者ならわかりますが、胸部へのパンチなんて当たる訳ないです。だってそこにはこっちの腕があるから。え?ハートブレイクショットですか?あれは漫画の技です。
フルフェイスのヘッドギアをして、16オンスのグローブをつけ、無抵抗で顔面を晒しても、胸元にパンチが飛んできました。顔だよ!顔面を殴れ!そういうスポーツだから!そう言いながら顔を差し出しましたが、間をとって首にパンチを打ってきたので、一回だけボディで倒しました。ノーガードの人間の首を狙うな、いっちばん危ない部位だぞ。

改めて考えてみれば、それほどおかしなことではないかもしれません。日本で普通に生きていて、気を失うような『マジパンチ』を人に食らわせたことがある人や、食らったことがある人って、だいぶ少ないと思うんです。日本人が1億人いるとして、100万人いますかね。「他人の顔面を力一杯殴れないんです」という悩み相談を受けたら、普通そうだよって言います。
ただ、自分からボクシング始めたにも関わらず、殴れないんですっていうのはやっぱりちょっと変わり者か。相変わらず顔面は殴れないので対人戦は成立しませんでしたが、練習は誰より真面目にやっていました。

もういっそ、ボディ打ちをメインに鍛えました。だって顔面は打てないっていうから。
彼は右ストレートが最も良かったので、空手で言うところの『中段打ち』に全振りさせました。ジャブでつっつきあって、隙あらば相手のパンチをかいくぐってカウンター気味に中段打ちを狙う。そんなボクサーに成長しました。成長っていうか、うん、成長か。
彼は不器用だったので、マスボクシングもできませんでした。寸止めだっつってんのに、僕の土手っ腹に本気の中段打ちをブチ込んでくるので、軽くスウェーカウンターを放り込んで撃退してました。だって左ジャブか右ボディストレートかしかないから、見てカウンター打つ練習してた。

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