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【シナリオ】あなたが消えない #1

登場人物

  • 佐倉亜季(20) 大学生

  • 鞠元優二(35) レストラン店長

  • 酒牧千鶴(22) レストランスタッフ

  • 石川海斗(24) レストランスタッフ

  • 佐倉真紀子(45) 亜季の母

  • 佐倉吉江(70) 亜季の祖母

  • 藍沢(58) レストランオーナー

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〇亜季の実家・外観(朝)
  青空の下、住宅街に立つ2階建ての戸建て。

〇同・居間(朝)
  佐倉真紀子(45)が朝食の支度をしている。
  ソファでは、佐倉吉江(70)がお茶を飲んでいる。
  2階から階段を駆け下りる音が響き、
  佐倉亜季(20)が入ってくる。
亜季「おはよっ!」
  亜季、冷蔵庫からオレンジジュースを出して飲む。
真紀子「何? そんなに急いで?」
亜季「今日ね、バイト早いの! じゃ、急ぐから!」
  亜季、居間から急いで出ていく。
真紀子「え? ちょっと! ごはんは⁉」
亜季の声「いらなーい!」
真紀子「もー‼」
吉江「なんだい? あんなに急いで」
真紀子「バイトよ。海沿いにあるレストラン。時給、いいんだって」
吉江「へぇー。今度行ってみようか?」
真紀子「あの子、そういうの嫌いよ。 (時計を見て)あ! ちょっと遅れるー!」
  急いで食事を並べる真紀子。
  構わず、お茶をすする吉江。

〇バス停(朝)
  バスが到着し、乗客が乗り込んでいる。
  そこに亜季が走ってやってきて、飛び乗ると、バスが出発する。

〇バス車内(朝)
  席に座る亜季。
亜季「あー、間に合ったー」
  と、息を整える。

〇バス停(朝)
  海沿いにあるバス停。
  亜季が降りてきて、レストランに向かって歩き出す。

〇『ザ・シー&フラワーズ』・外観(朝)
  目の前に、海が広がるレストラン。

〇同・入口(朝)
  入口に看板が置いてある。

〇同・厨房(朝)
  料理人たちが慌ただしく、準備をしている。

〇同・客席(朝)
  スタッフたちがウエディングパーティーに向けて、
  会場準備をしている。
  そこに、制服に着替えた亜季がやってきて、作業をしている
  酒牧千鶴(22)に話しかける。
亜季「千鶴さん、おはようございます!」
千鶴「あー、亜季ちゃん! おはよう。今日初めてだよね? ウエディングのシフト」
亜季「はい! すっごい楽しみです!」
  二人が話している後ろに石川海斗(24)がやってきて、
海斗「初めはみんな、そう思うよなー」
亜季「あ、石川さん! おはようございます!」
海斗「ま、現実を見るだろうよ。ほら、佐倉。これ、やって」
  と、亜季にメニュー表の束を渡す。
亜季「はいっ!」
  亜季、張り切って作業を始める。

〇同・客席
  ウエディングパーティーが始まり、新郎新婦が入場してくる。

〇同・厨房
  厨房の中で、料理人たちが慌ただしく作業している。
  その横で亜季がせかせかと、提供するパンの準備をしている。
  そこに海斗がやってきて、
海斗「乾杯終わったら、前菜だからな」
亜季「はいっ!」
  焦る亜季。

〇同・客席
  列席者が挨拶を終えて、
列席者一同「(グラスを上げて)かんぱーい!」
  と声高々に言う。
  がやがやと歓談が始まる。

〇同・厨房
  亜季は、まだパンを準備している。
  そこに海斗がやってきて、
海斗「佐倉っ! 乾杯終わったぞ! 料理、運べっ!」
  と言って、料理を運んでいく海斗。
亜季「はいっ!」
  亜季、パンをバスケットに詰め、海斗に続いて料理を運ぶ。

〇同・客席
  亜季が前菜を運んでくる。
  視線の先に、新郎新婦が列席者と楽しく会話をしているのが目に入る。
亜季「(目をキラキラさせて)うわぁー!」
海斗「(小声で)佐倉っ!」
  と、海斗の声にビックリする亜季。
海斗「(小声で)早くっ!」
亜季「は、はい!」
  亜季、料理をサイドテーブルに置く。
  亜季が運んできた料理を千鶴や海斗がゲストへ配膳する。
千鶴「お待たせいたしました。前菜でございます」
  千鶴がスマートに配膳する姿をぼーっと見ている亜季。
海斗「(小声で)何、ぼーっと見てんだよっ!
 次、持って来いよ!」
亜季「(小声で)あ、すいません!」
  と、足早に厨房に戻っていく。

〇同・客席
  パーティーの終盤。
司会者「お時間もそろそろ迫ってまいりました。
 それでは、新婦様よりご両親に向けてお手紙をお読みいただきます」
  と、司会者が言い始めると千鶴がバックヤードに向かう。

〇同・バックヤード
  亜季が片づけをしている。
亜季「(残念そうに)全然見れなかったなー」
  扉から千鶴が顔を出して、
千鶴「亜季ちゃん」
  と、亜季に手招きをしている。
亜季「?」
  不思議そうに千鶴に近づく亜季。

〇同・客席
  新婦が泣きながら、手紙を読んでいる。
  客席に入ってきた千鶴と亜季。
  壁側に並ぶ海斗、千鶴、亜季。
  泣いている新婦を見つめる亜季。
  徐々に目が潤んでくる。
  新婦の手紙が終わり、新郎新婦が両親へ花束を渡すと、
  会場が拍手喝采。
  亜季は、泣いている。
海斗「泣くんじゃねーよ!」
千鶴「最初は誰でも泣いちゃうよー。(亜季を見て)ねぇー?」
  亜季は、泣きながら頷き、拍手をする。

〇同・客席(夕)
  パーティーが終わり、亜季、千鶴、海斗らスタッフたちが
  片づけをしている。
  海斗が千鶴に、
海斗「あ。そう言えば中本さんの異動、本当らしいぜ」
千鶴「え? じゃ、誰がここの店長になるの?」
海斗「ウワサじゃ、カフェの鞠元さんが来るって」
千鶴「えー! マジ⁉ 超楽しみー‼」
亜季「中本マネージャー、いなくなっちゃうんですか?」
海斗「まぁ、前の店長が独立してから中本さんが来たけど、結果、売上もあんまりよくなかったしなー。鞠元さんは、オーナーとも仲いいから、信用あるんじゃん」
千鶴「ヘルプに行った時もさー、優しかったし。好きだなー、鞠元さん」
亜季「鞠元さん?」
千鶴「さくら公園、知っている? 再開発でできた公園。あそこの近くにあるおしゃれなカフェ。知らないかな? あそこの店長」
亜季「あっ! 通ったことあります」
千鶴「あそこも、うちのオーナーが経営してるのよ」
亜季「へぇー、そうだったんですか」
千鶴「(海斗に向かって)で、いつ来るって?」
海斗「早ければ、来月から?」
千鶴「へぇー。もうすぐじゃん!」
  二人の会話を他人事で聞いている亜季。

〇公園内にあるカフェ・外観(夜)
  目の前に芝生が広がるカフェ。

〇同・事務所(夜)
  鞠元優二(35)がデスクで事務作業をしている。
  そこにオーナーの藍沢(58)が入ってくる。
優二「藍沢さん! お疲れ様です」
藍沢「お疲れ。どうだ? 売上は?」
優二「今日はよかったです。公園でイベントがあったんで」
  藍沢が、ふらふらと事務所を見て回る。
  優二、不思議そうに藍沢を見て、
優二「どうしたんですか? 何か言いたいことでも?」
藍沢「んーん」
  藍沢、ゆっくり座る。
藍沢「急に異動頼んで、悪かったな」
優二「オーナーのご命令であれば、逆らえません。中本さん、辞めるんですか?」
藍沢「店長をお前にしたいって話したら、最初は納得したようだったが、結局知り合いの店に行くってよ」
優二「中本さん、プライド高いですからね」
藍沢「まぁ、去る者追わずだ。この店もなんだかんだあったが、お前のおかげで、いい店になった……どうだ? 古巣に帰る気分は?」
優二「古巣って言っても、俺のこと知ってる人間はもういないでしょ? 人の出入り、激しいし」
藍沢「……優二?」
優二「はい?」
藍沢「俺になんかあっても、あの店だけは守ってくれよな?」
優二「?」
藍沢「な?」
優二「(理解したように)……はい」
   藍沢、安心したように微笑む。
   不思議そうにしながらも口角を上げる
   優二。

つづく

photo by NoName_13


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