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【シナリオ】あなたが消えない #3

登場人物

  • 佐倉亜季(20) 大学生

  • 鞠元優二(35) レストラン店長

  • 酒牧千鶴(22) レストランスタッフ

  • 石川海斗(24) レストランスタッフ

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〇『ザ・シー&フラワーズ』・客席(夜)
  一部の間接照明しかついていない客席に入ってくる亜季。
  辺りを見回す。
  窓側の客席から、白い煙が上がっているのが見える。
  目を細めながら、近づく亜季。
  海を見ながら、煙草を吸っている優二だと気づき、背後から、
亜季「……ここ、禁煙席ですよ」
優二「ビックリした―!」
亜季「あ! すいません‼」
優二「どうしたの⁉ 帰ったんじゃ……」
亜季「コンビニでケーキを買おうとしたら、財布ないのに気づいて、戻ってきました」
優二「あったの? 財布」
亜季「はい、ロッカーに」
優二「夜にケーキ食べるなんて、疲れてる? シフト、キツイ?」
亜季「いえ……今日、誕生日なんです。私」
優二「えっ、自分で買うの? ケーキ」
亜季「昔から親が忙しくて、忘れられちゃうんですよね。だから、ケーキとかプレゼントとか、そういうの全然ないんです」
  苦笑いの亜季。
優二「そう……あ! ちょっと、座って待ってて」
亜季「はい?」
  優二、立ち上がり、厨房に向かう。
  亜季、戸惑いながらも席に座る。
  しばらくして、優二が戻ってくる。
  手には、モンブランをのせた皿。
  モンブランにはローソクが1本立っていて、
  チョコソースで、『ハッピーバースデー』と書いてある。
  それを亜季の前に置き、ローソクに火をつける。
優二「誕生日、おめでとう」
亜季「え? いいんですか?」
優二「残り物だけど。好き? モンブラン」
亜季「はい! これ、ずっと食べてみたかったんです!」
優二「(向かいの席に座り)ほら、消して」
  亜季、頷いて、火を消す。
  亜季を見て、微笑む優二。
亜季「ありがとうございます! うれしいです」
優二「いくつになったの?」
亜季「21です」
優二「若いのに、落ち着いて見えるね」
亜季「そうですか? でも、早く自立したいとは思ってます」
優二「なんで?」
亜季「んー、自由になれそうだから? ですかね。気を使わなくていいっていうか。だから、バイト頑張って、早く独り暮らししたいです」
優二「あんまり無理しないでよ」
亜季「無理してないです! ここ、楽しいし。今日も食べたかったケーキ、食べられたし」
  と、笑顔の亜季。
優二「あー、でも食べたって言うなよ。怒られるから」
亜季「分かってますよ」
  煙草に火をつける優二。
亜季「あ! だから、禁煙ですっ!」
優二「あ!」
  と、笑う二人。
  亜季、モンブランを食べながら、
亜季「鞠元さん、オーナーと仲いいんですか?」
優二「仲いいっていうか、俺が入りたての頃
に藍沢さんがまだこの店の店長してて、しごかれたってだけだよ。今はあんな優しそうな人だけど、昔はすげー厳しい人でさー」
亜季「想像つかないです」
  優二、海を見ながら、
優二「藍沢さんにとってこの店は、命より大事な店だからなー。頑張んないと」
亜季「命より?」
優二「なんでもない。それより、早く食べろ! 帰れなくなるぞ」
亜季「はーい」

〇同・客席
  営業中の店内。
  客と笑顔で会話している優二。
  こっそり優二を見る亜季。
  お互いに目が合う。
  微笑む優二。
  微笑み返す亜季だが、その後不安顔になる。

〇居酒屋・座敷(夜)
  優二の歓迎会。
  スタッフたちがテーブルを囲み、談笑している。
  優二の横に千鶴、その向かいに亜季と海斗が座っている。
  海斗が立ち上がり、
海斗「えー、鞠元さんが来て少々時間が経ってしまいましたが……」
  海斗に注目する一同。
海斗「(優二を見て)鞠元さん、我がシーフラワーをよろしくお願いしまーす‼ カンパーイ‼」
一同「カンパーイ!」
  少し照れている優二。
  それを笑顔で見ている亜季。
千鶴「鞠元さん、どうぞー」
  優二にビールを注ぐ千鶴。
優二「ありがとう」
千鶴「鞠元さんが来て、なんか仕事が楽しくなりましたよー! 最近、厨房の人たちも優しいし」
海斗「あー! 俺もこないだ料理長に声かけられましたよー。今まで仕事以外で声かけてこない人だったのに。釣りの話とかしちゃって」
千鶴「やっぱり、できる人がいると違いますよねー」
優二「そんなことないよ」
海斗「またまたぁー。照れないでくださいよ!」
千鶴「でも、毎日遅くまで仕事してると、奥さん、寂しがりません?」
  料理を食べようとしている亜季の動きが止まる。
優二「もうこの仕事長いから、何も言わないよ」
千鶴「そう、ですよねー」
  亜季、下を向きながら静かに料理を食べる。
  優二、ビールを飲みながら亜季を見る。

〇同・女子トイレ(夜)
  亜季が、鏡を見つめている。
  そして、ため息をつく。

〇同・廊下(夜)
  亜季がトイレから出てくる。
  向こうから優二がやってくる。
  優二を見て、目をそらし、軽く会釈をして優二の横を通り過ぎる。
  優二、振り返り、
優二「大丈夫? 気分でも悪いの?」
   優二と視線を合わさずに、
亜季「いえ。大丈夫です」
  と、足早に席に戻る。
  考える優二。

〇同・座敷(夜)
  スタッフたちが酔っぱらい始め、席が乱れている。
  ウーロン茶を飲む亜季。
  戻ってきた優二が隣に座ってくる。
亜季「‼」
優二「ホントに大丈夫?」
亜季「本当に大丈夫です」
  と、視線を逸らす。
優二「もしかして、避けてる?」
亜季「(優二を見て)‼」

〇同・入口前(夜)
  入口前にいる優二にスタッフたちが挨拶をして、帰っていく。
  酔っぱらった海斗を抱えた千鶴と亜季が店から出てくる。
千鶴「じゃ、鞠元さん。私、こいつを送っていきますので」
優二「大丈夫? 一人で?」
千鶴「しょっちゅうなんで、慣れてますよ! じゃ、お疲れさまでしたー」
優二「お疲れ」
  千鶴が海斗を連れて歩き出すが、振り返り、
千鶴「亜季ちゃん? 一緒に行く?」
亜季「え?」
  亜季の腕を優二がつかんでいるが、千鶴からは見えない。
亜季「あの……私、ちょっと買うものがあるので、行ってください」
千鶴「そう? じゃあねー」
  海斗を連れた千鶴が去っていく。
  亜季、戸惑いながら、ゆっくりと優二の方を向く。
  真面目な表情で亜季を見る優二。

〇道(夜)
  人気のない道。
  亜季と優二が歩いている。
優二「……さっきはごめん。腕、大丈夫?」
  亜季、戸惑いながらも頷く。
  沈黙のまま歩く二人。
  緊張している亜季。
  そんな亜季を見て、
優二「なんで避けられてるのかな? 俺」
亜季「……避けてないです」
  視線を合わさないまま歩く亜季。
  そんな亜季の腕を引っ張り、いきなりキスをする優二。
亜季「‼」
  亜季、優二を突き飛ばし、
亜季「何するんですか⁉」
   亜季をじっと見る優二。
亜季「……どういう、意味ですか?」
優二「……意味は……したかったから」
  亜季、優二をちょっと睨む。
優二「……俺は、佐倉が気になるよ」
亜季「……でも、鞠元さん、結婚して……」
優二「(亜季の言葉を遮って)佐倉も……同じ気持ちかと思った」
  亜季、動揺する。
  優二、亜季の頬に手を当てて、
優二「違う?」
  優二を見上げる亜季。
  優二が亜季にキスをする。
  耐えている亜季。

〇亜季の実家・亜季の部屋(夜)
  ベッドの上で、優二の携帯番号が書かれた紙切れを見つめる亜季。
  そして、考え込む。

つづく

photo by gfs_mizuta


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