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【獣害問題関連】人が住むエリアと野生動物が住むエリアが重なることのリスクとは

 私が博士課程後期のころタンザニアでチンパンジーの調査をしていました。
帰国する直前くらいから、食欲不振やゲップが硫黄の臭いがするなどの体調不良が続き、帰国後、長崎大学にすぐに入院し治療を受けました。
その時わかったことが

私は、Strongyloides fuellebornという糞線虫に寄生されているよ

ということでした💦。
 ちなみに、このことは重要な発見として論文になり、当時、大型類人猿と人との共通感染症に関するテーマで大型研究費をいただいていた故西田利貞さんには、私のタンザニアへの渡航費を支援してくださっていたので、「よくやった」とおしゃっていただいて、研究費の報告書に立派にそのことが記載されています。
 当時入院費を払っていた母からは、「その研究費から入院費用はでらんとね(長崎弁)」と言われ、なんだか複雑な気持ちだったことを覚えています。

 さて、なぜそのことを思い出したかというと、獣害を起こす群れの特徴をどうにか定量化(数値等で客観的に示す)ことができないかを調べていて、2006年に書かれたアヌビスヒヒを対象にした論文に、農作物を属する群れ(獣害群)と自然な食物を食べる群れ(自然群)で寄生虫感染を比較した研究があったからです。

 自然群の方が、獣害群よりも顕著に現れる寄生虫がある一方で、獣害群の方が、自然群よりも顕著に現れる寄生虫もあり、特に、獣害群ではSchistosoma mansoni(住血吸虫)の感染が確認されており、人間への感染が懸念される。と指摘されています。

 私は、こういった研究を、獣害の程度を表す方向で使えないかと日々考えているのですが、一方で、人と近いサルには共通して感染する病原体もあり、それはサルに寄生している分には特に大きな症状がなくても、人間に寄生すると異なった症状として現れる場合もあります。つまり、人間と野生動物の住むエリアが重なることは、農作物を食べられるとか家が壊されるとか、そういった問題だけでなく、健康的な観点からみたリスクとしても捉えうるということです。

 こういったリスクの話をすると、「そんな危険なら野生動物なんて全て殺してしまえばいい」という話になりがりがちなのですが、野生動物には野生動物の存在価値があり、それを人間が好きなように奪ったり奪えなかったりすると考えることが間違っていると思うので、野生動物が本来の生息地に戻ることを手伝うその理由として、人間と共通した感染症を持っている可能性もある、ということを話すのは重要なのではないかと、最近は思っています。

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