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野生動物と人間との軋轢の"自然な"解消方法とは

The scientists releasing cats in Australia  
保全されている有袋類が捕食圧に耐えうるよう進化するのをサポートするため、有蹄類保全エリア内に捕食者を放すという研究が紹介されていました(オーストラリア・アデレード州)。実際に、捕食者を放したエリアのビルビーは、捕食者を避ける行動を身につけたという実験結果も得られています。
 これを読んで、野生動物たちが構築してきた生態系に”人間が介入する”ことの倫理はどうなっているのだろう、と悩んでしまった。かくいう私も、農地に被害を出すニホンザルの腸内細菌を操作することで被害軽減に寄与できないか、というアイデアで研究を進めてきたので、Katherine Moseby氏らのアイデアは理解できます。ただ、それを実際に野外で実験しているという状況が、私の場合とは異なる点です。

 人為的な実験といえば、遺伝子ドライブ(gene drive)を通して目的の種を保全するプロジェクトも進んでいるようです。遺伝子ドライブとは、通常50%の確率でしか子孫に残されない遺伝子が、最大100%の確率で特定の遺伝子を子孫に残せるため、野外の個体群に特定の形質を広められる可能性があるそうです。害虫駆除や外来種駆除を目的とした遺伝子ドライブ実験も進められているようです。こうした研究を応用すると、人間の農作物を食べたり家屋に侵入するニホンザルの遺伝子を操作すると、被害が軽減できるかもしれない、という考え方にもつながる気がします。

 人間にとって不都合なものだけを排除するための遺伝子操作は、自然の中の人間という考え方のもとではナンセンスだと思います。遺伝子操作ではないですが、避妊をしてニホンザルの数を増やさないようにしようとする対策も考えられています。こうした形で軋轢を解消しようとすることは自然ではないと私は思いますが、自然とそうでないものの境界が曖昧な昨今、しっかり考えないと取り返しのつかないことが起こる可能性があります。

 自然から与えられる様々な困難に打ち勝つ(やり過ごす、という方法も含めて)というのは、長い歴史でみた種としての人間と環境との相互作用です。遺伝子操作などしなくても、動物の相互作用として、人間との軋轢を解消するべくニホンザルの行動を変化させることができるような方向で、私は地域を支援していきたいと考えています。そのためには、環境からの試練に負けない人間社会を同時に支援することが必要ですね。

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