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Arcaが英雄である理由

Arcaが新作MV、Prada/Rakataを発表した。

極上のアートだった。
自分なりに分かる部分や推測できる所を書き留めておく。


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第1のシーン、マリア・リオンザ
これはArcaの母国ベネズエラの土着信仰の女神であるマリア・リオンザの像をモチーフとしている。この像は蛇の上に立ったバクに乗るマリア・リオンザが、女性の骨盤を掲げたもの。この石像は戦後に作られ、以後ベネズエラの象徴となっている。その姿は筋肉質で、戦士のような逞しさと、新しい命を生み出す女性の生命力を強烈に感じさせる。マリア・リオンザは民間信仰であり、死んだ人々の魂や英雄たちを弔い、その霊的な力を受け継ぐ伝統であるらしい。マリア・リオンザに扮したArcaは東洋の巫女のようなメイクをしている。シャーマンのような踊りを舞い、骨盤にエネルギーを込める。頭上からはマグマが滴り、トランスジェンダーかつノンバイナリーであることを意味する新しい性のシンボルを形作る。脈々と受け継がれた魂によってトランスが誕生することを表現したもの。

サブリミナルな踊りのシーン
Arcaのアバターが何体も登場し、踊り出す。無限にスポーンするデジタルキャラクターのように。それは復活し、増殖していく。時折このシーンが挟み込まれる。折れそうな腕、儚い踊り。

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エイリアンクイーン
エイリアンクイーンになったArcaが、死んだArcaの皮を剥ぎ、マグマのように光る卵を生み出している。この死んだArcaは、シングル@@@@@の時のイメージであり、Arcaのコメントによれば、未来のSF世界において迫害を受けスクラップになったエクスペリメンタルディーバの残骸だ。エイリアンクイーンの周りには皮を剥がれたArcaが何体もぶら下がっている。傍らにはお供キャラ?が産まれている。このお供キャラが卵から産まれたのかは定かでは無いが、おそらく天使や精霊のような存在だと思う。途中で画面は暗転し、死んだArcaをエイリアンクイーンは弔っているようだ。ここでは、迫害を受けて死んだトランスを蘇生させる、魂の転生が描かれている。卵のマグマのような輝きは、最初のマリア・リオンザのシーンにも繋がってくる。現世において死んだトランスの人々は新たなトランスを生み出し続ける。これはパワーの循環であり決して止まることはない。

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処女のシーン
ここはうまく読み取ることが出来ないが、これまでとは違って白い衣装を着たArcaが登場している。おそらく処女を意味しており、青白いレーザーで言葉が刻まれていく。その一つをなんとか判読すると第二次性徴という意味だった。マリア・リオンザ〜エイリアンクイーンによって描かれたトランスの生の循環によってこの世界にスポーンしたArcaが次なる性の意識に目覚めるシーンを描いたものではないか。脳が麻痺した家畜である牛がその周りをグルグルと回り続け、歯車からは火花が飛んでいる。止めることが出来ない性や暴力、人間の欲望が示唆されている。

後半のシーン
白い肌をした逞しい男たちが山のように積み重なっている。死んでいるのか?生きているのか?虚ろな目をした顔のアップ。この人物のモデルは誰だろう?頭にはトランスかつノンバイナリーであるシンボルマークが刻印されている。

次の瞬間、銃口から弾丸が照射される。ここからはRakataという別の曲。Arcaの故郷ラテンのリズムが催眠術のように繰り返される。熱を持った高揚感。弾丸に描かれた文字を判読してみたかったが、弾はArcaと白い男が対峙するガラスの部屋に衝突する。銃弾を浴びる中で二人は向かい合ってシンクロするように踊る。

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ヤシマ作戦?
白い男たちの山の上に、ピストルを掲げた、巨大な人魚のサイボーグArcaが登場。建設現場のようであり、日本の風景を想起させる電柱が何本も立っている。白い男たちから電力を吸い上げ、巨大な砲台に一点集中させている。この一連の描写は、エヴァンゲリオンのヤシマ作戦を彷彿とさせる。そんなにエヴァには詳しくないのだけど。
思うにこれは射精のメタファーであり、白い男たちはトランスの中の男性性=精子を表しているのではないか。白い男には尻尾があり動物的な衝動の源を暗示させる。大量の積み上がった精子=性的衝動によって、巨大な欲望の塊が建設される。そこから放たれる銃弾は丸裸のArcaと白い男自身をも打ち抜きコアを破壊せんとする。しかしArcaも彼も死を全く恐れてはいない。お互いを直視し、シンクロに没頭する。

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キングギドラのシーン
二つ頭の翼が生えたArcaが登場。キングギドラは頭三つだが、邪神Arcaとでも言うべきか。セーラームーンよろしく三日月の台座に乗って、クイーンの傍にいたお供キャラもちゃっかり従えている。下僕の骸骨も頭が二つ、動物たちも頭が二つ。骸骨は食べ物を差し出し、邪神は刀を振るう。壁にはBitchの血文字。ここでは、欲望にまみれた世界に堕ちたArcaの姿が描かれている。しかしその世界は黄金色であり、輝きに満ちている。邪神となったArcaは誇らしげに歌う。

次のシーン、裸のArcaと白い男は合体しシンクロ=セックスはクライマックスを迎える。

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最後は、白い男はArcaを乗せた火車を回している。トランスの中の男性性=性欲の衝動の肯定によってノンバイナリーなArcaは地獄の灼熱の中で生き続ける。処女のArcaの衣装は白からピンクに染まり、壇上で彼女も花を手向けてそれを祝福する。


以上、言語もわからないので外れてたり解釈違いの可能性大だけど。

まず、映像が凄まじくエレガントで美しいのは言うまでもない。
このCGアートはFrederik Heymanによるもの。ここにきてArcaとのコラボが完全体になった。

そして何より、Arcaはトランスでありゲイでありノンバイナリーであり、クィアの誇りを常に歌ってきた。そこの部分と映像美が、音楽が、完全に融合してるのが僕にとっては衝撃的だ。

つまりこれは、僕が今まで見た中で最もかっこいいクィアカルチャーになっている。
正直言って映像美だけならそれだけの作品。音楽だけならただの気持ちの良い音。生活は豊かにはなるが、人生には実はそんなに影響しない。しかしArcaはそんな安全地帯には決して留まることがない。常に自分をさらけ出し、黒歴史とも言える、他人から見れば恥と思われるような、トランスの本性、本質を強引に命をかけて極限の美に変えていく。本当の意味でかっこいいことは容易いことではないのだと、いつも僕はArcaから教わっているような気がする。根底にあるのは、現世で生きるしかないクィアの人生であり、その中でこそ生まれる、不自然な美を肯定するキャンプの精神なのだ。その強靭な精神が、Arcaをクィアの英雄たらしめる唯一の理由なのである。

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