Kのこと 3

Kとは通天閣にも行ったし、祇園祭にも浴衣を着て一緒に行った。色んなところに行った。

K「僕がおれへんかったら、こんなところこーへんかったやろ?」
僕「そうやな」
K「感謝しいや」

こんなやり取りをよくした。
それはお互い様だろうと思ったが、その通りだった。Kも友達が少なかったが僕はそれ以上に友達が居なかった。そのことをKは分かっていてマウントを取ってきたのだ。僕は少しイラッとしつつも同意した。そう言うとKが喜ぶことを分かっていたから。

初めての旅行は長野県の開田高原だった。
長野の山の上、御嶽山の近くに木曽馬の里という牧場がある。僕は馬が好きなので一度行ってみたかった。ログハウスのような小さなコテージを借りて、バーベキューをした。コテージは2棟しかなく、僕らの他には宿泊者はおらず、夜は静まり返っていた。9月頃だったが肌寒くて、星が綺麗に見えた。
木曽馬の里は広大な土地に馬たちがのんびりと暮らしていた。近くには蕎麦畑が広がっていて、その向こうには御嶽山を眺めることができる。Kは写真を撮るのが好きで、たくさん写真を撮っていた。木曽馬は優しい目をしていて、近づくと美しい毛並みを持っていた。僕らと馬たちの他には人が居ないみたいに静かな場所だった。
山道をドライブをして一番長めの良いところを探した。こっそりと二人で写真を撮った。こんなにいつも一緒にいて色んなところに行ったり、旅行だってしているのに、Kは僕と写真を撮ることを恥ずかしがった。人里離れた山中でも、誰かの視線をKは気にしていた。

そういえば、今年、4月の初めに石垣島に行った。2回目の石垣島だったのだけど、ホテルにチェックインする時、Kにあっちのソファに座っててと言われた。僕はちょっと不思議に思ったが大人しく向こうで座って待っていた。しばらくして様子が気になったのでフロントを見に行った。Kの側でチェックインのあれこれを一緒に聞いた。その後、部屋に移動するとダブルベッドの存在が目に留まる。Kに確認すると、ダブルしか無かったからそれで取ったと。だから、チェックインの時にあっちに行ってて欲しかったと。なのに結局僕が来たから意味が無かったと、ちょっと悪態をつかれた。そういうことかと納得して僕は笑った。

別にダブルベッドに泊まったからってなんだって言うのだ?そんなこと気にする方が変である。僕はそう思うのだが、Kはそうは思わない。
誰もいない夜道で手を繋いで歩くのだって嫌がるほどである。出会った当初はそれでイラつくこともあった。僕は結構、根が激情型の人間で、おかしいと思ったことは何とかしないと気が収まらなくなる時がある。白黒つけたくなるのだ。嘘をつきたくないというか。何故かというと、嘘に費やす時間が勿体無いから。だから、Kの煮え切らない態度にハッキリさせろと喧嘩になることも昔はあった。
でも、今はもう慣れた。
むしろKのそういう、ナイーブな部分を楽しむこともできる。むしろそこをカバーするのが、僕の責務だとすら思う。

人見知りの子どもが、皆と遊べるようにサポートしてあげる、そんな先生のような役目がいると思っている。例えが変だけど。具体的に言うと、例えば飲食店で注文をする時、僕が店員を呼んであげるとか。店を予約する時は僕が電話するとか。Kはシャイなので、まぁ僕もシャイだけど、そういう表に立つ役割は僕が率先して行なっている。そんな役割と同じように、僕たちの関係性と外部との接点も、僕がケアしなければ、と思っている。

旅行で思い出したこと。
前見た何かの日本映画で、若者たちが当てもなくドライブした先で地方の旅館に泊まるんだけど、そこの温泉でカップルに遭遇し噂話でニヤニヤするというシーンがあった。ストーリーに全く関係が無いのに何故わざわざそんなシーンを描いたんだろう。僕はそのカップルの気持ちが分かる。できるなら人目を避けたいという、Kの気持ちがわかる。僕にとってはなんてことないシーンだったけど、こういうものがKを無意識に縛っているのかと思うと腹立たしくなり、映画を見ることを途中でやめた。



つづく

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