Kのこと 1

Kとのことを書きたいと思う。

なぜそんな気になったかというと、残しておきたいと思ったから。

Kとは2013年に出会ってるから10年目になる。
最初から今まで途切れることなく僕の生活の中心にはKがいた。
Kが僕にとってどういう存在か?と言われると難しい、答えにつまる。
出来るだけ言葉で言い表したくないと思ってる。
何か言い当てはめようとしても、何か違うと感じるから。
でももし可能であれば、家族だと僕は言いたい。
心の中では、僕は家族だと思っている。

しかし、僕はKのことを家族だと思っているけれど、誰もそうは思っていない。
そもそも誰もKのことを知らない。
Kの周囲の人間も僕のことを全く知らないだろう。
そこで、例えばそういう状況で、僕がもし死んだら?
そこまでいかなくとも、例えば記憶が無くなったら?何もかも忘れてしまったら?反対に、Kに忘れられたら?どうなるだろう?

誰も二人のことを立証できないのだ。
なぜなら誰も知らないから。

僕とKのことは僕らしか知らない。
僕が突然死ぬとする。
そうなったら、僕にとってのKという存在も消えてしまうのだ。
Kを大事にしていたこと、その事実が全部無くなってしまうのだ。

想像すると悲しくなってくる。
仕方のないことだけれど。
永遠に思えることも、心に映る一瞬の光景にすぎないと思う。
だから人は絵を描いたりしてそんな「気分」を実在させようとする。
無駄なのに。




2022年1月

新年はKと別々で過ごすことが多い。同居を解消してからはずっとそうかも。お互い年末年始は帰省するから。一緒に住んでた時でもそうだった。でも初詣は一緒に行くことにしてる。お互い帰省を終えてから時間が合う時に。だからその時にはもう一月中旬ぐらいになっていて、いつも初詣感は無いんだけど。

今年もそんな感じで。貴船神社に行くことになった。僕の提案で、行ったことがなかったから一度行ってみたかった。いつものように前の日夜からKが僕の家に来て近所の焼肉屋に行ってご飯を食べた。Kは守銭奴で、二人で食事に行くと僕がいつも料理を頼みすぎていると怒られる。あと食べるのが異常に遅い。オーダーで文句を言われるのがうざいので、気分が良いときはだいたい僕が奢る。その夜も僕が出したと思う。でも本当はお金があったら毎回奢ってあげたいと思っている。食べているKを見るのがかなり好きだから。

次の日、やっと目的の初詣に行こうという時に、なぜかむちゃくちゃ喧嘩した。だいたいKとの喧嘩は理由が思い出せないことが多い。しょうもないことでお互いが怒っている。最近は喧嘩の原因を思い出せるように努めて記憶しようとしている。今回は、貴船神社に行くのにKが荷物を持って行くか持って行かないかで揉めて喧嘩した。僕は歩く距離があるから荷物は置いて行ったほうがいいと言い、Kはそのまま帰りたいから荷物を持って行くと言う。僕が絶対置いて行ったほうがいいと言い、Kはキレてもう神社には行かない、帰ると言い出して押し問答。アホとしか言いようがない理由。ホンマに書いてて情けない。

Kは一度キレると絶対に譲ろうとしない。焼肉に行くと言ったら焼肉に行く。焼肉の気分の時に寿司やラーメンは絶対NGなのだ。シンプルな構造である。反対に僕は複雑な構造をしていて、というより、単に気分屋だ。焼肉屋に着くまでの間に寿司のことを考えたりしてしまう。どうしようもない気分屋だけど、Kにははっきり言って執着してしまう。だからその時も、何とかKの怒りを鎮めようとした。どうしてもKと初詣に行きたかったから。

帰ろうとバス停に歩くKの腕を掴んで駅まで引っ張っていき、無理やり神社まで連れて行こうとした。当然Kは抵抗する。時折僕は声を荒げる。それが30分くらい駅のホーム付近で続いた。そんな人のいない駅だったけど、周りから見たらこいつら何やってんだ?状態。ちょっと普通ではない。けれど、僕はその時はそんなことどうでもよくなっている。Kと初詣に行けれさえすればいいと思っている。Kはもうキレてとにかく帰りたいと思っているのだが。でも僕は無理やり電車に乗せたのである。

なぜそうまでしてKに執着してしまうのか、自分でも困る時がある。どうしても失いたくない、そんな風に思ってしまう。ダメなところだと思う。けどKを失うのが本当に怖いのだ。

Kがキレて帰宅しようとする時、もしこれで終わってしまったら、という気持ちが襲ってきて、それを阻止する自分の行動を制御できなくなってしまう。
音信不通になったら?姿を眩ましたら?
何も残らない。
僕らの関係を縛るものは何もない。一緒に住んでいないし、友達も親も誰も僕らの関係を知らない。僕らの関係って?僕は家族だと思っている。しかしそう思っているのは僕だけで、僕の心の中だけの話だ。側から見ればただの友達で、他人同士でしかない。僕らはお互い一緒に居るというだけで、それ以上でも以下でもない。そのことを僕は一番よくわかっている。だから離れたくないと思ってしまう。なんという女々しい奴だ。けどこの弱さはどうにもできない。たぶんずっとこのまま弱いのだと思う。

「家族だったら一緒に初詣に行くべきだ」
その時、僕の頭の中はそんな考えに囚われていて、義務感さえ感じていた。
Kとの関係性はそうあるべきだと思っている。僕は気分屋だけれど、Kのことは気分で決めることではないと思っている。嫌いになったり、好きになったり、そんな曖昧なもので離れたりくっついたりするべきでは無いと思っている。そんな偽物の繋がりに意味があるのか?家族にもなれないのに?誰かは笑うかもしれないけど、きっと何かになるはずだと、僕は躍起になっているのかもしれない。

なんとか不機嫌なKを連れての初詣は終了し、お昼はピザを奢って、帰りのバス停までKを見送る。バスに乗る瞬間までKはまだ怒っていた。どんだけ頑固なんだと呆れたが、僕はそれなりに満足していた。手を振りバスを見送る。その後、しばらく経ってから、怒ってごめんとKからLINEが来た。



つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?