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新しい画集について

昨年末に新しく画集を作りました。

「清方の図画研究」カラーA4判・44ページ

2010〜2011年のドローイング40作品をほぼ原寸大で収録した画集です。 紙は特厚マットコートを使用。 リング製本なので好きなページの所で折りたたむことが出来ます。 表紙のフィルムカバーには1冊ずつペインティングが描かれます。 カバーの絵は「木」「丸」「光」「顔」の4種類から選べます。

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新・画集と言いながら、結構昔、5年くらい前の絵をまとめた本です。でも見返してみるとまだ5年前かって感じがします。大学2年後期〜3年前期くらいの頃描いてたものですね。美大のカリキュラム的に基礎課題が終わってこれからは自分の「作品」を作ることを始めなければならない時期でした。正直に言って、何を描けばいいか全く分からず、学校ではその場しのぎで作品を作っていました。美大には合評という中間発表があるのですが、そのシステムがやっつけで作品を作らせてしまうのではないか?いや、当時は合評の真の意味を理解できていなかったのだ、、、、という話はさておき、合評では適当に作品=キャンバス画を作って、絵を描くのはもっぱら自宅でしていました。身近なコピー用紙にマジックや色鉛筆でとにかく描いていました。

この頃の関心は絵の中でのレイヤー=見えない遠近の層の現れ方です。ある時、紙の上に何か木でも丸でも描いた時、何か不思議な感じがしたんです。何か図像が空間に浮いてるような感じ。確かに紙の上にインクが定着しているだけのはずなのに、なんだか図像に触れそうな感じ、動き出しそうな感じがした。どういうことかというと、面に何かが乗ると、瞬間三次元の空間になるんです。例えば白い壁に何か汚れが付く、すると汚れが図になって、反対に白い壁の物質感は引っ込んで地、空間、穴、になる。壁の上から汚れは解放されて図となり浮遊して今にも動き出しそう、白い壁の方はというと汚れのおかげでずっと奥と手前へと無限に続く無重力空間となる。そういう関係性が生まれます。要するに、人は面ではなく点でものを絵を見ているのではないか?という発見です。つまり、何かを見ている時は、それ以外は見えなくなる。木を見て森を見ず。いやしかし、森を見ることもできます。でも森を見ている時は反対に木が見えなくなるかもしれません。

シンプルな関係です。面の上に、図が乗る、すると地が生まれる。では、図が二つ乗っている場合は、どうなるでしょう?例えば、紙の上に丸を二つ描きます。これは、どちらの丸が強く目立っているかで順序が変わります。まず強い方に目が行くと、もう一方の丸は地に沈んで見えなくなる。次に弱い方も見てみますと、今度は関係が逆転します。どちらも同じ面に乗っているはずなのに地になったり図になったり、引っ込んだり出っ張ったり、瞬間的に距離感が入れ替わるわけです。これが概ね絵画のイリュージョンと言われるものの正体です。ただ、実際には工夫したりよほど見方を意識しない限りこんなマジックは起こらないでしょう。通常は二つの丸をただ二つの丸として見て終わり、です。だから、フックを増やしたり、フックを繋げていく。これはどういうことかというと、簡単に言うと見る段階、階層構造を作っていくということです。

先ほど人は点でものを見ているとお話しました。二つの図をそれぞれ異なる点で見させるには、どうすればいいか?ということです。二つの丸がただ二つの丸として見えないよう、要するにバラバラに落差を付けたらいいのです。これはいろんなやり方が出来ます。例えば色を変えるというのは一番手っ取り早くて強いやり方です。次にサイズを変える。位置を変える。画材を変える。などなど。だいたい支配力が強い順です。そんなに難しいことではありません。例えば、木を描くとします。図の形状は固定しといて、画材もマジックで固定、色だけ変えて描いてみる。それだけで、落差ができます。落差が出来るということは、視点がそこを下ったり上っていくということです。視点が移動すると、さっきのお話で図と地の関係が変化します。図と地の関係が揺れ動くことが絵の中の遠近そのものなのです。

現実の三次元の空間では常に図と地の関係は動き続けています。人は一つの景色の中でも、あちこち視点を自由に動かして様々な部分を見ることができます。また、景色全体をとらえる事もできます。さらに、身体を動かせば視野そのものが変化します。平面の絵でも、同じことが言えます。現実の風景のように、絵に豊かな見る楽しさを作り出すことはできないか?そのための仕組みやトリック、方法論を無我夢中で探っていました。そんな時期の絵たち。

長くなってきました。具体的なやり方は、画集をご覧いただければ答えが載っています。テストの方法だけお話すると、描く図を決めてストックしておきます。条件はできるだけ簡単にすぐ描けてそれぞれ絵に必要なキャラクターであること。例えば、木は地上を表すから風景には必要、人物も絵には必要、空を表すチョウチョも欲しい、絵のテクスチャとして石粒が使える、記号スタンプも入れよう、文字も入れよう、などなど。それぞれ異なる役割があります。それらを、どう配置するか、何色で、何ペンで、どんな風に描くか。無限にやり方はあります。そんな風に、図を描きながら、実は図は重要ではなく、現れては消えていく地の姿をひたすら検証していました。具体的には、描いた図を、新しく図を重ねて地にする、共通フックをつくって今度は巻き戻す、囲ってマーキングする、塗り分け、別々の遠近法を重ねる、フレームをいくつも作る、絵の具で汚す→図にする、大きな像を描いて図で打ち消す、ゴミを貼って上から描く、などなど。。話せばマジでキリがありません。

ですから新画集の絵は、僕にとっては絵画のアイデアストックのようなもので、あまり他人に見せるために描いたものではありません。けれど、今見ると単純に絵として面白い。新鮮さがある。実験だから、一枚一枚どんな風に仕上がるのか全く全部を絵に委ねて作っている感がある。変に上手く描こうとか1ミリも考えていない。恥がない絵。そういう意味では子どもみたいに純粋ですが、実際は描いてる時はめちゃ真剣です。囲碁棋士みたいな感じ?そのギャップがアホっぽくて笑えます。この辺の絵を自分でも一度整理してみたくて勢いで作った画集ですが、結構面白い、いい画集になっていると思います。ぜひ絵に興味がある方に見て欲しい。あとは、何というか見て笑顔になる絵が多いです。そんな絵が好きな方はぜひ。リフレッシュできるかもしれません。

長々と書いてしまい、うんざりさせてしまっていたらすみません。が、本当にオススメします。表紙には手描きのペインティングが入りますよ。いちおう図柄は4種類ですが、一冊一冊かなり異なります。木が人気みたいです。僕だったら丸か、顔を買います。丸がいいかな。丸は最新のモチーフです。光も個性的でいいと思います。

というわけで、「清方の図画研究」のご紹介でした。よろしくお願いします!

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