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公用旅券の話

前職では公用旅券というパスポートを所持していた。

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「OFFICIAL」の文字がある通り、大使館の職員やそれに準ずる立場の人が携行する、公的なパスポートだ。
表紙が赤や青の一般旅券とは異なり、このパスポートは任期中しか使用できない。
そのため、本帰国後はその日のうちに外務省まで赴いて、パンチを入れてもらい、失効手続きを行うことになる。

海外における公的な任務のために発行される公用旅券は、基本的には旅行用には使用できないことになっている。
ただし、一般旅券との二重携行も許可されていない(多分、曖昧な記憶)ため、旅行に行く際にはこのパスポートを使用せざるを得ない。
もともと旅行用ではないので、一般旅券とは使い勝手が異なった。

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「世界最強」とも称される日本のパスポートは国際的に信頼度が高く、観光ビザが免除されている国が世界で一番多い。
国のお墨付きである公用旅券はそれに輪をかけて信頼度が高いため、紛失してしまうと大問題になる。
管理職や大使館から大目玉を喰らうため、旅行中はパスポートがなくなっていないか常に緊張感を持っていた。
バッグの中で荷物に紛れて、一瞬でも姿が見えないなんてことがあると、血の気が引いたものだった。
空港のパスポートチェックのところで、稀に「officialレーン」が用意されているところがあり、長蛇の列に並ばなくても良いという恩恵が受けられることもあったが、メリットはそれくらいしか実感できなかった。

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何かに明記されていたわけではなく、人から聞いた話なので真偽は定かではないが、ぼくの赴任地の公用旅券では台湾とアメリカに訪れることができなかった。
理由は不明なのだが、おそらく台湾に関しては、日本との国交がないという要因が絡んでいると思われる。
なお、香港とマカオには行くことができた。
アメリカに関しては、当地でマジョリティだったイスラム教とアメリカの仲が悪いからでは?と噂されていたが、あくまでも推測の域を出ない。
他のイスラム教国に赴任していた方の公用旅券ではどうだったのか、真相を確かめてみたいところだ。

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羽田空港のチェックインカウンターでのことだ。
東京からクアラルンプールへのフライトで、預け荷物が3kgほどオーバーしていた。
荷物を整理し直すか、潔く課金するか考えていたところ、ぼくが提示した公用旅券を見た職員の顔が急に改まり、「お仕事大変ですね。今回の重量はサービスいたします」と言う。
公用旅券パワーだったのかは不明だが、何だか偉くなったような気がしたものだった。

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公用旅券自体は特に大きなメリットがあるものではないが、ほとんどの日本人が経験し得ない貴重な体験ができたと思っている。

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