見出し画像

マカオの長い夜 前編

2018年の年末、ぼくらはマカオ旅行を企てた。

マカオといえばカジノ
年に数回シンガポールのカジノでチマチマと実践を繰り返していたが、ある程度カジノの雰囲気やマナーに慣れてきたところで、満を持して世界屈指のカジノ都市に乗り込むことにしたのだ。

画像1

長期的に見ればギャンブルは顧客側が損をするようになっているが、それでもカジノに挑む者は少しでも勝率をあげようと工夫を凝らす。
ぼくはマカオのカジノに臨むにあたって、マーチンゲール法を試してみようと考えた。

マーチンゲール法とは、いわゆる倍賭け法のことである。
負けるたびに次のベットを2倍にしていく、という非常にシンプルでシステマティックな賭け方だ。

例えば、100円を賭けたとき。
①勝ち:次も100円を賭ける。(通算100円の勝ち)
①負け:次は200円を賭ける。(通算100円の負け)
    →①勝ち:次は100円を賭ける。(通算100円の勝ち)
     ②負け:次は400円を賭ける。(通算300円の負け)

この倍賭法が有効に働くのは、ルーレットの奇数と偶数、赤と黒のように勝率が2分の1に収束していくゲームに挑んだ時。
負ける度に次のベットを2倍にするという作業を繰り返していけば、勝ったタイミングで必ず今までの負債を取り戻すことができる。
つまりマーチンゲール法は、理論上は絶対に負けることがない

ぼくは、この賭け方をバカラで実践してみようと考えた。

「カジノの王様」とも称されるバカラは、カジノの中でも非常に人気の高いカードゲームで、その魔力に人生を狂わされた人間は枚挙にいとまがない。
シンガポールのカジノでは、裕福なチャイニーズが十万円単位で1点賭けする光景を何度も目にしてきた。
ディーラーによって機械的に配られたカードの数字に、狂喜し、落胆し、乱舞し、放心する。

画像2

ぼくがバカラに挑もうと考えた理由は2つある。

一つ目は、勝率が約2分の1に収束すること。
二つ目は、誰もカードを操作することができないこと。

同じく人気の高いカードゲームであるブラックジャックとは異なり、バカラはプレイヤーがカードを操作することができない
我々は「プレイヤー」「バンカー」のどちらが勝つかを賭けることになるのだが、マシーンの中でカードのシャッフルが終わった時点で、向こう数回分のゲームの結果は決められてしまっているのだ。
これはルーレットの赤と黒によく似ていて、どちらに玉が転がるかはルーレット台と玉の気まぐれに委ねられているわけで、我々が操作できる余地はない。

カジノプレイヤーとしてテクニックを披露できないバカラであるが、ぼくはその点をむしろ評価した。
システマティックに勝敗が決まるバカラで、システマティックにベット額が決まるマーチンゲール法を組み合わせたら、機械的にお金が増えていくのではないかと考えたのだ。

ギャンブル特有の興奮や熱狂は味わうことができないかもしれないが、感情に左右されることなく淡々とお金を増やしていこうという作戦である。

幸運にも、この作戦はピタリとハマった。
射幸心に煽られながらも、ミニマムベットが低い台でシステマティックにチップを積んでいく。
理論上わずかながらも勝率が高いと言われているバンカーに賭け続け、当初の計画通り着々と軍資金を増やしていった

しかし、人生そんなにうまく事は運ばない。
このマーチンゲール法には大きな落とし穴があるのだ。

夜もすっかり更けてきたころ、悲劇は起きた

(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?