キャッチャー・イン・ザ・スピードライフ
仏壇屋に勤めていたときの話なんだけどさ。
仏壇の移動か、処分か何かでとある家に行ったんだよ。で、行く途中に事故ですごい渋滞してんだよね。結構早めには出発したんだけど、ちょっと遅れるかな、大丈夫かな、くらいの感じになった。
そういうとき、所謂「立派な社会人」ってやつは、しっかり電話を入れるんだろうね。「すみません、事故で渋滞してまして、少し遅れそうです」ってね。
でも、僕はそうしなかった。だってさ、三分くらいの遅れ、どうってことないし。僕が客なら五分や十分くらいの遅れで電話なんて入れられても困っちゃうね。いや、まったくの話。
だから、そのまま行ったんだよ。一緒にいた店長も「まあ、ちょっとくらい大丈夫だろう」とか言いつつ。この店長は腹は出てるけど、話のわかるヤツなんだよ。
んで、このまま寿命で死んじゃうんじゃないか、ってくらいのクソ長い渋滞を耐えてなんとか家に着いたんだよ。多分、3分くらいの遅れだったと思う。
インターホンを押した。するとオッサンが出てきたんだよ。このオッサンも店長に負けず劣らずの腹の出っぷりだったね。
するとオッサン、開口一番こう言った。「今何時だ?」ってね。
普通「よく来てくれましたね」とか言うもんだよ。結構遠いところだったしね。でも、そのオッサン「今何時だ?」と来たもんだ。
店長は言ったよ。「14時過ぎ……です」ってね。そりゃ言うよ。だって実際14時過ぎだったからね。
オッサンは次第に怒りの表情に変わっていき、こう言った。「14時の約束だっただろ? ワシは時間を守れんヤツは許せん!」って。
これには参ったね。だって三分だぜ? 三分で何ができる? 三分と言うとウルトラマンが怪獣倒す時間とカップラーメンの待ち時間みたいに言われるけど、実際ウルトラマンは三分以上戦ってるし、カップラーメンだって具とかスープとか入れなきゃいけない。
要は三分なんて何にもできない時間なんだよ。そんな些細な時間遅れたからってそんな怒ることもないだろ。
しかもさ。そのオッサン、仕事とかやってるならともかく年金でメシ食って、テレビも点いてたから、「今の今までテレビ見てました」みたいな感じなんだよ。
ダラダラテレビ見てるヤツが三分という時間を大事にしているとは到底思えないんだよね。いや、テレビ見てたら時間を気にしちゃいかんのか、って話なんだけど、まあ、正直そういうことだよ。僕からしたら、いや、まったくの話。
だから頭に来ちゃって、このまま帰ってやろうかと思ったんだよ。「そうですか、そりゃすみません。では失礼します」ってね。
でも、店長は必死に謝ってたから、僕も一応謝った。
するとオッサン、「次からは気をつけろよ」とか何とか言って家にあげてくれたよ。
そもそもさ、ニホンジンって時間にうるさ過ぎだよ。電車にしたって一分、二分遅れただけで、親が殺されたかのごとく怒ったりイライラしたりするもんね。
でもそれってバカな話なんだよ。一分二分の遅れが何だって言うんだよ。来日中のトム・クルーズならまだしも、ただの会社員だぜ。会社じゃどう考えても無駄なことしかしてねえクセに、時間だけはやたらと気にするんだよ。
こういうヤツって「日本は我々が動かしています」って気になってるんだろうな。確かにGDPには貢献してると思う。でもさ、ニホンという国を生きにくくしてるのはこいつら「時間に厳し過ぎるヤツ」なんだよ。いや、ほんとの話。こういうヤツらってさ、時間を気にして、とにかく急いで節約した時間に何をしてるかっていうと、スマホでゴシップ記事見たり、ちょっとエッチなTikTok見たりしてんだよね。こういうのって参っちゃうよね。
だからさ、皆、もっと時間にルーズに行きましょうよ、って話を言いたいわけ。社会なんてさ、偶然の連続なんだから少々遅れることくらいあるってこと。
まあ、コーヒー飲みながら突如こんなことを思ったから、ちょっと文句を言ってみただけなんだけどね。
働きたくないんです。