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ドベネックの桶

ある農作物生産者の書籍を編集していて出合った言葉があります。「ドベネックの桶」であり、「リービッヒの最少律」という用語です。

リービッヒの最少律とは、植物の生長速度や収量は、必要とされる窒素・リン酸・カリウムといった栄養素や水・日光・大気のうち、与えられた量のもっとも少ないものにのみ影響されるとする説。ドイツの化学者、ユーストゥス・フォン・リービッヒが提唱したものです。

ドベネックの桶とは、リービッヒの最少律をわかりやすく説明するたとえ。植物の成長を桶の中に張られる水に、桶をつくっている板を養分・要因と見立てています。そうすると、たとえ一枚の板のみがどれだけ長くとも、いちばん短い板の部分から水はあふれ、結局水嵩はいちばん短い板の高さまでとなります。

現在では、それぞれの要素・要因が互いに補いあう場合があり、最小律は必ずしも定まるものではない、とされているそうです。ともあれ、この桶の存在を知ったときに私が思ったのは、商いにもドベネックの桶があるな、ということでした。

商いにおいて、桶を構成する板とは何でしょうか。いろいろと考えられますが、単純化すると次の4つのPがあります。
①製品(Product)
②価格(Price)
③流通(Place)
④販促(Promotion)

「4つのP」はあくまでも“売る側”の視点に立っており、その反省点から生まれたのが“買う側”の視点に立った「4つのC」です。
①顧客価値(Customer Value)
②顧客にとっての経費(Cost)
③顧客利便性(Convenience)
④顧客とのコミュニケーション(Communication)
4Pそれぞれの丸囲み数字と、4Cそれぞれの丸囲み数字は連動しています。つまり、たとえば4Pの①製品を“買う側”の視点からとらえたのが4Cの①顧客価値というわけです。

たしかに、4Cでも4Pでも、いずれかのレベルが低ければ(桶の板が短ければ)、成果はその低いレベル(短い板)止まりでしょう。その意味で商いにもドベネックの桶は当てはまります。

しかし、ちょっと待ってください。桶を形づくっているのはそれだけではありません。何より底板がなければ水は溜まりませんし、板を束ねる箍(たが)なければ桶はそもそも形を保てません。

では、商いにおける底板とは何でしょうか? それは資本金かもしれません。次に、箍とは何でしょうか? 私は事業理念だと考えました。それなくして事業は成り立たないものです。さらに箍はたいていの場合、二つでひと組です。すなわち、おもいやりを表わす「愛」であり、正しさを表わす「真実」のペアが事業理念の中核です。

そして桶に溜まる水が利益。愛と真実、そして結果としての利益となります。商いとはこの三位一体なのです。

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