自助あって共助
◆今日のお悩み
上司から「大災害への対応策を検討せよ」と厳命されました。有事の際に企業はどのような役割を果たすべきですか?
「BCP」という略語をご存知でしょうか。「Business Continuity Plan」の略で、日本語では事業継続計画となります。
中小企業庁のBCP策定運用指針では、「企業が大自然、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段を取り決めておく計画」のことをいいます。
要は、緊急事態における自社の事業継続計画のことですが、相次ぐ自然災害を考えると、日本企業の策定率は高くはありません。ある企業信用調査会社の調べによると、策定済み企業の割合は19.8%と過去最高となったといいます。
しかし、企業規模別にみると、大企業が37.1%に対して中小企業は16.5%と半分以下にとどまります。未策定の企業にその理由を尋ねたところ、スキル・人手・時間の3要素が大きな障壁となっている様子がうかがえます(帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2024年)」。災害立国である我が国あって「自助」は必須です。
「共助」ではこんな例もあります。2021年7月にドイツ赤ワインの名産地、アール・ヴァレー地方を大洪水が襲いました。畑の90%は被災を免れたものの、家屋や設備のほとんどが大雨で流され、ヴィンテージワインも多くが失われました。
被災に際して力を発揮したのが、地域住民やボランティアでした。多くの支援者がすぐさま醸造所に駆けつけ、泥にまみれたワインの回収やボトルの洗浄のほか、被災した設備の後片づけなどに尽力しました。ドイツ連邦政府が2億ユーロの緊急支援計画を公表した一方で、メディアを通じての寄付金の呼びかけが反響を呼び、わずか数日で43億ユーロもの寄付金が集まったのです。
特筆すべきは「洪水ワイン」です。奇跡的に出荷が可能な状態で見つかった泥にまみれた20万本のボトルに「authentically muddied(本物の泥)」というシールが貼って希少価値を付け、クラウドファンディングで販売したところ5万人近くから440万ユーロの支援を獲得。ドイツで最も成功したクラウドファンディングとされています。
さて、有事の際に企業はどのような役割を果たすべきかというお悩みで、思い出す商人がいます。ダイエー創業者の中内功さんです。
1995年1月17日、阪神淡路大震災が起こった朝、ダイエーは政府に3時間も先んじて災害対策本部を設置。中内は陣頭に立ち、民間企業の役割をはるかに超える執念と速度でライフラインを死守しました。
中内さんを「商人」と書きましたが、中内さんは「商人」と「商売人」という似た言葉を次のように使い分けていました。
「商人とは社会を変えてやろうという大志を抱いて事業を興す人であり、商売人とは己の会社の利益のみを追求する人であり、社会を変えるような志とは相容れない」
一方、「企業は社会の公器」と企業の社会役割を説いたのは、中内さんと「ダイエー・松下戦争」と呼ばれる対立の当事者となった松下幸之助さんです。ともに「商人」と呼ぶべき経営者であり、災害時における企業の役割を考えるとき、「商人」という視点は忘れてはなりません。
二流の商売人は
己の利益ばかり追い求め
一流の商人は
すべての人の利益を守る
※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」の連載「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。毎号、興味深い特集が組まれていますので、ぜひお読みいただけると幸いです。また、オンラインメディア「Wedge ONLINE」でもお読みいただけます。
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